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大好きなひとの腕のなかにいると、まるで温室にいて守られているような気がする。 うつらうつらとしながら、望美は将臣に甘えるように躰を擦り付けた。 「…辛かったか?」 「ううん、嬉しかった」 「そいつは良かった」 将臣は望美を抱き締める腕の力を思い切り込めると、唇に甘いキスをくれた。 「…なんかお返しを貰う日のはずなのに、俺が逆にサイコーなもん貰っちまったな」 将臣は望美の背中を撫でながら、喜びを声に乗せた。 「そんなことないよ。ちゃんと将臣くんには素敵なものを貰ったから…」 望美は将臣に、はにかんだ笑みを浮かべると、逆に自分から抱き付いていった。 「有り難うな」 将臣は額にキスをしてくれた後、躰をゆっくりと起こして、バッグからピアッサーを取り出した。 「…ピアス穴開けてやるよ…」 「うん」 将臣だからこそ頷くことが出来る。望美はシーツで胸を隠しながら、躰を起こした。 「…ちょっとチクッとするかもしれねぇが、我慢してくれ」 「…うん、将臣くん。大丈夫だよ。将臣くんだから、きっと痛くない」 親よりも誰よりもある意味信頼を寄せている将臣だから、総てを託すことが出来る。 「…髪、かきあげろよ」 「…うん」 将臣に言われた通りに、髪をかきあげて耳を露出させる。 「…綺麗だな…」 軽く耳朶にキスをされて、背筋がゾクリと震えた。 「…穴を開けるぜ」 「うん、お願いします」 ピアッサーが耳朶にあてがわれる。 ひんやりとした感覚が気持ち良かった。 まるで大人になるための儀式のような気がする。 神聖な気分になり、望美は思わず背筋を伸ばした。 「綺麗だな」 「何が?」 「お前が。なんか、抱いた後のほうが綺麗に見えるぜ」 将臣からストレートに綺麗だと言われるのが、嬉しくてたまらない。 将臣がストレートだから、こちらも素直になれた。 将臣がピアッサーを持つ手に力を込める。 一瞬、心臓が跳ね上がる。やはり自分の躰の一部に穴を開けるのだから、緊張せずにはいられなかった。 将臣は慎重にピアッサーで耳朶に穴を開ける。チクッとして、その後には新しい世界が広がっているような気がした。 「…片方も同じようにしろよ」 「…うん…」 穴の開いていない耳朶も露出させる。 「髪をかきあげるって仕草はとても色っぽいよな」 「もう、恥ずかしい…」 望美が俯くと、将臣は楽しそうに笑う。 「だって色っぽいんだからな」 将臣はふざけるように言いながら、望美の背中ごと抱き締めてきた。 「すげぇ女らしくなったな…」 声を掠れさせて、感情を乗せて呟かれると、全身が甘くゾクリとする。 「…こっちもやるな」 「うん」 ピアッサーを耳朶に宛てられる。将臣が慎重に耳朶にピアス穴を開けてくれた。 それによって完全に大人の女になったような気がする。 「…さっきのピアス、つけてやるよ?」 「うん。お願いします」 将臣の手のひらに、貝殻で作ったピアスを乗せる。ファーストピアスが将臣の手作りなのが、何よりも嬉しかった。 将臣は器用に手作りピアスをつけてくれる。 頭を軽く振ってみると、華やかな音が出て嬉しかった。 「似合ってるぜ」 将臣は嬉しそうに目を細めてこちらを見つめて来る。 愛が籠った華やかなまなざしに、望美は温かで柔らかな感情を抱いた。 「将臣くんが作ってくれたものだからだよ。有り難う、最高のホワイトデーだよ」 「俺もな。これからも宜しくな」 「うん」 背後からしっかりと抱き締めてくれた将臣の広い胸に、望美は甘えるようにもたれかかる。 こういう幸せでたまらない時間を過ごすことが出来るのも、きっとこうして思い合えることが出来たからだろう。 幸せでたまらないホワイトデーに、望美は春のひかりと同じような幸せを見つけていた。 望美の服も乾き、ふたりは時間通りにブティックホテルから出て来た。 こそこそとではなく、堂々と。 真剣に愛し合っているのだから、別にこそこそとする必要なんてないのだから。 自然と将臣の手が、望美の手をしっかりと包み込んでくれる。 こうして大好きなひとと何処か一部分でも繋がっていたり、触れ合っていたりするというのは、なんて幸せなことなのだろうかと、望美は思わずにはいられない。 だからセックスというのは、幸せになるために必要不可欠なものなのだろうと思う。 愛し合っているふたりには、何よりも幸せな行為。 その証拠に、将臣をもっともっと好きになってしまった。 「ちゃんと歩けるか?」 「えっ!?」 「なんか、歩き方がおぼつかないからな」 将臣に指摘されて、望美は改めて自分の歩き方を確かめた。 妙な内股になっている。だがスムーズに歩けているのは、きっと将臣がちゃんと手を握ってくれているからだろう。 「お前はちゃんと手を繋いでおかないと歩けねぇだろ?」 「そ、それはそうなんだけれど…」 望美が恥ずかしさの余りに、言葉をごにょごにょとさせると、俯いた。将臣はきっと笑っているだろうから、まともにその顔を見るなんてことは出来ない。 「だから、こうして俺がしっかりと手を繋いでやるから、安心して歩け。これからもずっと。人生でもずっと…」 将臣の言葉が、こころにグッとくる。胸が締め付けられているのに、とても幸せで踊りだしたくなるような感覚。 きっとずっとこうして手を繋いでくれるのだろう。 デートでも、人生でもずっとずっと。 「…共に白髪が生えるまで、手を繋いでくれるの?」 「そのつもり。だって俺、お前のことだけは諦めたことがなかったから。だから、これからも離すつもりはねぇ。俺を選んだことは後悔させねぇつもりだが、お前も覚悟しろよ? これからは俺以外の男に目をくらまないように」 今日がホワイトデーだからだろうか。 いつもなら絶対に聞くことなんて出来ない将臣の言葉が、ストレートにこころに響いて来る。 素直にこのひとについていきたいと思う。 「将臣くんこそ覚悟してね? バレンタインでの告白を受け入れてくれたときから、私の束縛は始まっているんだよ? 私こそ絶対に離れないから」 恥ずかしかったから、何処かいつもの幼馴染みのように、ふざけたリズムで言えば、将臣は腕で抱き締めてくれた。 「…勿論。俺もお前とセックスした以上、離したくなくなったからな」 あからさまに言われて、望美は全身をほてらせる。 「お前を抱いて、もっともっと好きになった。お前は…?」 そんなの考えなくても解っている。将臣のことを、もっともっと好きになってしまった。 それももう離れたくないだとか、そんなレベル以上に。 「…私も、もっともっと好きになったよ…」 望美がはにかみながら静かに呟くと、将臣は優しい笑みを唇に浮かべる。 「有り難うな…」 「私こそ」 ふたりは笑いあうと、ゆっくりと海岸線を歩き始めた。 暫く歩いていると、馴染みの顔が遠くから見える。 ふたりのクラスメイトのカップルだ。擦れ違い様に、驚いたような納得したような表情で、繋がれたふたりの手を見つめた。 「当然だろ? 俺たちは付き合っているんだから」 擦れ違い様に、将臣は堂々と宣言をする。 嬉しかった。 望美は思わず見せつけるように将臣の肩に首を置く。 将臣はそれを愛しげに見つめてくれた。 ホワイトデー。 文字通りふたりにとっては神聖で、素敵な記念日になった。 |