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ゴールデンウィークに音楽三昧の上、大好きなひとと一緒にいられるのは嬉しい。 かなでは緊張と甘い期待に胸をときめかせながら、ゴールデンウィークのプランを勝手に妄想したりしてしまう。 最近、大地とは余り会えなくなっていた。だからこそ、ずっと一緒にいたいと思う。 ゴールデンウィークの陽気を考えて、どのようなファッションにしようかと考えるだけでも楽しかった。 ゴールデンウィークの洋服を買いに、かなでは横浜駅に出た。 ファッションビルの梯子をしながら、色々な店を物色する。 予算は余りないが、その範囲内で楽しむことが楽しかった。 かなでは自分なりにコーディネートをして満足する買い物が出来て、上機嫌だった。 まさに元町へと戻ろうとした時だった。 「…あ…」 大地が綺麗な女性と親しそうに話しているのが見えた。 本当に楽しそうにしている大地の姿が目に入る。 かなではどうして良いかが分からなくて、とりあえずは柱の陰に隠れた。 別に何も悪いことなんてしてはいないのに、こちらが嫌な気持ちになる。 かなでは大地に見つからないようにこっそりと電車に乗る。 電車に乗り込んだ瞬間、涙がぼろぼろと出て来る。 隠すために、かなではずっと下を向いているしかなかった。 大地と女性は、特別な関係じゃない。 本当にそう信じるしかないのだ。 特別じゃなくて、たまたま一緒にいただけなのだろう。 少なくともそう信じなければならないと、かなでは思った。 しかし、大地の笑顔の眩しさが気になってしょうがない。 「…私は何を嫉妬しているんだろう…。そんなことをしても意味なんてないのにね…」 かなでは切ない乙女心を自分自身で持て余しながら、大地を信じるしかなかった。 大地と一緒にいられることが嬉しいと思わなければならない。 大地を信じよう。 今のかなでにはそれしか出来なかった。 いよいよ、ゴールデンウィークが始まる。 かなでは大地と待ち合わせをしていた場所にゆっくりと向かった。 泊まる準備もしているのだから、その緊張はかなりのものだった。 大地との待ち合わせに向かいながらも、完全に気が晴れたわけではない。 かなではいつもとは全く違ったぎこちない気分で、待ち合わせ場所へと向かった。 かなでは待ち合わせのほんの少し前に到着したのだが、既に大地が待ってくれていた。 「大地先輩!」 「ひなちゃん」 大地は笑顔でかなでを迎えてくれる。 まさか浮気なんてことは考えてはいないようだ。 かなでは浮気なんてないと思いながら、不安な気持ちいっぱいの笑顔を浮かべた。 「お待たせしました」 かなでが笑顔で挨拶をすると、大地も眩しいほどの笑顔で答えてくれた。 「行こうか」 「はい!」 大地は手をギュッと握り締めると、かなでを甘いまなざしで見つめてくれた。 心がどうしようも出来なくなり、かなでは息を弾ませる。 相手を思う余りに昂揚してどうしようもない気持ちを、恋と言うのだろう。 かなでは心底思った。 恋のときめきを感じながら、ゴールデンウィーク特有の初夏の陽射しを浴びる。 まるでかなでの恋を後押ししてくれているようだった。 それは嬉しかった。 こんなにも甘くて優しいオーラを出してくれているのだから、あれはたまたま偶然の出来事だったのだろう。 かなでは強く想い、不安などのマイナス感情を追い出してしまった。 今日からは最高に楽しめるホリディなのだ。 楽しまなければ大損だと思いながら、かなでは青空を見上げた。 初夏の陽射しを浴びて楽しそうに笑うかなでは、太陽に愛された女神のようだと、大地は思った。 透き通るほどに白い肌が紅潮して、キラキラしていてとても綺麗だ。 かなでを見つめるだけで、何もいらないと思ってしまう。 思えばクールに恋をするのではないかと、ずっと考えていた。 だが全くそうではなかった。 かなでに関しては、クールどころか、熱くなり過ぎてのぼせ上がっている。 かなでを見つめているだけで、胸の奥が切なくなるぐらいに熱くなるのだ。 かなでを見る男達の視線が気にかかる。 柔らかで温かくて清らかで安らぎがある。 誰もが憬れずにはいられないほどの雰囲気を持っている。 大地はそんな視線を次々に張り倒したい気分になった。 かなでは自分のものだ。 その甘い雰囲気も、可愛らしさと凜とした部分が同居するところも、総てが愛しい。 総てを独占したい。 そんなことを強く思った。 まるで初夏の陽射しが恋の女神かのように、ふたりを後押ししてくれている。 本当に綺麗で、大地はうっとりと見つめずにはいられなかった。 こうして陽射しを浴びて、手を繋いでいるだけでも幸せだ。 かなでのそばにいたら、本当に何処でも良いと思ってしまう。 「今日のコンサートはとても楽しみです。こんなにクラシックを沢山聴けるチャンスは余りないですから」 「そうだね。しっかりと楽しもう」 かなでにとってはクラシック三昧かもしれないが、大地にとってはまさにかなで三昧だった。 提供している企業のジュースを飲んだりして楽しんだ後、いよいよコンサート三昧が始まる。 有料無料を含めて、様々なクラシックを聴くことが出来るのが、とても魅力的だった。 かなでとふたりで有料コンサートの合間に、様々な無料コンサートをチェックする。 久しぶりに音楽三昧で、まるで高校時代に戻った気分だった。 大地が選んでくれたクラシックコンサートはどれも聴き応えがあり、かなでは大いに勉強になった。 その合間で聴く無料コンサートもまた素晴らしくて、かなでは満足していた。 お馴染みで憧れの学院の先輩も数多く出演していて、それをチェックするのも楽しい。 「日野さんに、衛藤さんも出演されているし、私もいつか出演する側になりたいです」 明るい未来への夢が広がって、かなでは笑顔になる。 来年にはこの隅でも良いからコンサートをやってみたい。 かなでは音楽を楽しむのと同時に、夢を見ていた。 次はこの場所に立ちたい。 立てるようなヴァイオリニストになりたい。 そんなことを強く思った。 「…ひなちゃん、来年は君がステージに立つ番になるかもしれないね」 大地はかなでを柔らかいまなざしで見守るように見つめてくれている。 有り難いまなざしだ。 いつもかなでのことを理解してくれているまなざしだ。 このまなざしがあるからこそ、夢に向かって前向きに頑張れるのだから。 「そうなったら、とても嬉しいです」 「そうなるよ、絶対に」 大地は自身を持って言ってくれる。 大地の言葉には、何度励まされたかは分からない。 何があっても、いつもかなでの背中を押してくれる。 「有り難うございます。そうなれるように、頑張ります」 「ああ。絶対になれるよ。俺はひなちゃんの明るく幸せな未来の預言者だからね」 大地は爽やかに笑うと、かなでを見つめてくる。 「預言者さん、私の明るくて幸せな未来には、素敵な形成外科医さんがいますか?」 「勿論、ずっと隣りにいるよ」 先程まで春風のように爽やかだった大地が、不意に艶めいた笑みを浮かべる。 そこにあるのは大人の男特有の艶のある笑みだ。 かなではドキリとしながら、大地を見上げる。 大地はもう大人の男性なのだ。 そのような輪郭が、かなでにはハッキリと見える。 大人の男性として、かなでは大地を強く意識していた。 |