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夕方の公演が終わった後、次の公演の合間に夕食を食べに行くことにした。 大地が探してくれたカジュアルイタリアンレストランで、銀座にしてはかなりリーズナブルなレストランだった。 銀座なら会場とほど近くて、散歩がてらちょうど良い距離になる。 かなでは大地と手を繋いで銀座へと向かう。 「ホテルも銀座に取ってあるから、先にチェックインして、荷物を置いてしまおう」 「はい」 コインロッカーから荷物を取りながら、かなではドキドキする。取り出す手が小刻みに震えてしまっていた。 かなり緊張してしまい、かなでは上手く呼吸をすることが出来なかった。 荷物を取った後で、大地としっかりと手を繋いで銀座へと向かう。 「ひなちゃんが好きそうな内装のホテルだよ」 「楽しみデス」 同じ部屋で大地と眠る。 それだけで喉はからからになり、手のひらは汗が滲む。 緊張してはいるが、嫌な緊張ではない。 「…緊張してる?」 「ちょっとだけ…。だけどそれが嫌だというのではなくて、心地好い緊張なんですけれど…」 どういう風に話をして良いのかが分からなくて、かなでは微笑むしか出来なかった。 だが、大地はそれだけで解ってくれたようだった。 「うん。ひなちゃんの気持ちはよく分かるよ」 「…有り難う…」 かなではにっこりと笑うと、大地に甘えるように寄り添った。 大地が予約してくれていたホテルは、銀座の目抜き通りから少し外れたところにあり、雰囲気がとてもロマンティックだった。 「本当に外国のお城のような雰囲気です」 「じゃあ行こうか」 「…はい…」 大地はかなでの手を引いて、フロントへと向かう。 大地は手早く手続きをしてくれ、鍵を受け取ってくれた。 「じゃあ行こうか」 「はい」 ふたりで客室へと向かう。 客室はヨーロピアンテイストで、かなではうっとりと見つめてしまった。 ベッドは二つのツインルームを選んでくれたのは、大地の優しさだろう。 「…綺麗…」 「そうだね。じゃあ荷物を置いて、レストランへと行こうか」 「はい」 ふたりは荷物を置くと、客室から出る。 夕焼けの空を見上げながら、ふたりはのんびりと散歩気分でレストランへと向かう。 車があまり走っていないせいか、都心でもゴールデンウィークの空も空気もいつもよりも澄んでいる。 「空がいつもよりも綺麗です。田舎ほどじゃないけれども、癒される空の色ですよ」 「そうだね。ひなちゃんが言うように本当に綺麗だ」 大地とふたりで立ち止まって空を見上げる。 本当になんてきれいなのだろうかと、かなでは思う。 風も柔らかくて心地好くて、暑くも寒くもない夕暮れ。 思えばゴールデンウィークが一番ロマンティックな時期なのかもしれない。 夕陽を浴びながら、ふたりで笑顔を浮かべながら散歩をする。 かなではロマンティックな想いを抱きながら、本当に幸せな気分だった。 大地が連れていってくれたレストランは、銀座のシンボルのひとつである和光を眺めることが出来るところだった。 ゴールデンウィークだからか、余り混合っていないところも、かなでには心地が良かった。 しかもリーズナブルなのにかなり美味しいときている。 全く理想的なレストランだった。 「大地先輩、素敵なレストランを見つけるのが上手ですね」 「ひなちゃんにそう言って貰えると、俺としてはかなり嬉しいよ」 「美味しいし、のんびり出来るし素敵です」 「そうだね」 かなではふふっと微笑みながら、食事をする。 「ご飯の後にまたコンサートが楽しめるなんてすてきですね。本当に理想的です! 誘って下さって有り難う。お陰様で最高のゴールデンウィークを過ごせそうです」 「それは良かった。君が喜んでくれたら、俺はそれだけで満足だから」 大地の言葉に、かなでは嬉しくてしょうがなくなる。 大地は理想的な恋人。 かなではこんなにも素敵な恋人を得ることが出来て嬉しかった。 デザートまでのんびりと楽しんだ後、ふたりは二十二時から始まる大人のコンサートへと向かう。 優しい初夏の風に吹かれながら、ふたりは手を繋いで銀座の夜を歩く。 オフィス街が休みのせいか、今夜はとても静かだ。 大人の落ち着いた銀座の風情がある。 「静かな銀座も素敵ですね」 「そうだね」 「大人のデートをしているみたいです」 大地の横顔を見ると、落ち着いた大人の男性の面影が見えた。 とても素敵だ。 大地はこれからもっと素敵な男性になるだろう。ずっとそばにいたい。 大地が素敵になっていく様子を見つめていたい。 かなではずっと大地のそばにいて、ふたりで成長していけたら良いと思っていた。 夜の静かな銀座をかなでと歩く。 柔らかい初夏の夜風に吹かれたかなでは、本当に綺麗だと大地は思った。 かなでが高校生の頃は、“可愛い”が相応しかった。 だが、今は違う。 “可愛い”というよりも、“綺麗”が似合っていると、大地は思う。 大学生になってから本当に見違えるほどに美しくなった。 清らかでかつ温かな美しさに満ち溢れている。 これほどまでに大地に綺麗だと思わせる女性は、他にいない。 これから益々美しくなっていくだろう。 それを一番近くの場所でずっと見つめていたい。 誰にもその役割を渡したくはない。そばにいて一緒に成長したいと思った。 大地は繋ぐかなでの手をギュッと握り締める。 するとかなでは頬を紅潮させながらも微笑んでくれた。 余りに綺麗で可愛くて、大地はこの場で思い切り抱き締めたくなった。 かなでが愛しくて、大地は迸る愛情を持て余してしまっていた。 「気持ち良いね、夜風は」 「はい。良い時期の夜の散歩ですね」 「そうだね。ひなちゃん、こうして静かな銀座も良いものだね」 「大人の雰囲気ですね。気に入りました」 かなではにっこりと笑うと、夜空を見上げた。 「大地先輩、今年のゴールデンウィークは最高です」 「そうだね。俺も最高だと思っているよ」 ふたりは微笑み合うと、コンサート会場へと向かう。 こうしていつまでも同じ時間を共有して、ずっと一緒にいられたらと、大地は思わずにはいられなかった。 コンサート会場は、音楽に適したホールかと言われれば、些か疑問が残るところではあったが、それでも充分に楽しめるぐらいに、アーティストたちの演奏は素晴らしかった。 小さな会場で、大人のクラシックコンサートも悪くない。 かなでは大地と一緒でいることも相俟って、幸せな時間を過ごすことが出来た。 コンサートが終わると、終電の兼ね合いか、多くの人々が駅に走って向かっている。 銀座にホテルを取っておいて良かったと、かなでは思った。 大地とのんびりとした夜の散歩を楽しむ。 清々しい散歩なのに、鼓動が激しく鳴る。 もうすぐホテルだ。 夜風に揺れた銀座の柳はとてもアダルトでロマンティック。 それゆえに、かなでの甘くて激しい緊張をヒートアップさせていく。 喉がからからに渇いてしまい、本当にどうしようもない。 緊張し過ぎて、躰が小刻みに震えた。 今夜は素敵な想い出深い夜になるだろう。 かなてが勇気を出せば、更なる愛は深まるはずだ。 嫌じゃない。 だが、初めてのことだから緊張してしまう。 大地とは、また新たな恋愛ステージに向かっていることを、かなでは痛感させられた。 大地をちらりと見つめる。 艶やかなまなざしに、かなではもう後戻りが出来ないことを感じていた。 |