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中華街をふたりでのんびりと歩く。 横浜ほどは大きくはないが、それでも楽しいし、コミコミしていないので、逆を言うと見易かった。 「飲茶セットが美味しそうかもしれないね、この後、スウィーツも食べるんだろう?」 「勿論! だって、神戸といえばスウィーツだから!」 「確かにね」 ふたりは、美味しいと評判の飲茶の店に入り、ランチを取る。 「この小籠包、もの凄く美味しい! あ! 大根餅も美味しい」 かなではリラックスしながら、心置きなく飲茶を食べる。 「本格的なフレンチも美味しいですが、こうしてカジュアルな飲茶も良いです! 何だか今回は色々と楽しめて嬉しいです」 「そうだね。俺もこうしてひなちゃんと楽しく過ごすことが出来るのが、とても嬉しいよ」 「私もですよ。こうしてリラックス出来たから、更に演奏も良くなると思っています」 「そうだね」 「はい!」 大地が一緒にいてくれるからこそ、前向きに頑張ることが出来る。 かなでは、大地に出会えたことを神様に感謝せずにはいられなかった。 「皆と一緒に食べるのも良いけれど、やっぱり、こうして大地先輩と一緒にいられるのが嬉しいです」 「有り難う、ひなちゃん」 大地はまた笑みを浮かべてくれる。 大地がいつも穏やかに笑っていてくれたからこそ、かなでは頑張ることが出来た。 笑顔で優しいだけではなく、きちんとリアリストでシビアな面も持っている。 そこはかなでにとっては、有り難いところでもあった。 甘いばかりの恋人だったら、かなではとうにダメになっていただろうから。 食事の後、ふたりは手を繋ぎながら、のんびりと歩いていく。 中華街にある、顔だけを入れて写真を撮れる看板に顔を入れてみたり、中華食材を扱っている店に顔を出したりした。 大地と過ごす時間は、本当にかけがえのない時間だ。 「次は、異人館に向かおうか。横浜に比べても洋館がかなり残っているからね。だから見応えがあるかも」 「はい、楽しみなんです」 かなでは鼻歌を歌いながら、異人館通りへと向かう。 風見鶏の家など、見応えのある洋館が多数残っている。 その中で、クラシカルなドレスを着て写真を撮ることが出来る洋館を見つけた。 「素敵なドレスがいっぱいありますね!」 かなでがうっとりと見つめていると、大地はくすりと笑う。 「ひなちゃん、着てみるかい?」 「…え…?」 大地にドレス姿を見せて喜んで貰いたいという思うもある。 「ひなちゃんなら似合うと思うけれどな」 大地に言われると、本当にそう思えてくるから不思議だ。 「ひなちゃん、君のドレス姿が見たいよ」 大地に甘い声で言われると、かなではドキドキする。 「…着てみます…」 「うん」 ふたりで、受付に向かって、ドレス体験の申し込みをする。 「彼もいかがですか? クラシカルなタキシードが似合いそうですよ」 スタッフに言われて、かなでも大地のタキシード姿を見てみたいと思った。 「大地先輩、私も先輩のタキシード姿を見てみたいです」 「…そう。ひなちゃんがそう言うんなら、やろうかな」 大地のスタイルだったら、クラシカルなタキシードはとても似合うことだろう。 かなでは大地と一緒に申し込んだ。 かなでが選んだドレスは、綺麗な白だった。 クラシカルで気品があるドレスは、うっとりとするぐらいに綺麗だ。 かなでは、ドレスに袖を通して、夢見心地になった。 更衣室からゆっくりと外に出ると、既に着替え終わっていた大地がいた。 「ひなちゃん…」 「大地先輩…」 やはり想像以上に、大地はタキシードがよく似合う。 思わずうっとりと見つめてしまう。 「大地先輩、タキシードがよく似合っていますよ」 「ひなちゃんも凄く可愛い」 ふたりで熱く見つめあっていると、洋館のスタッフが微笑ましいとばかりにかなでたちを見た。 「さあ写真を撮りましょうか。旅の記念にして下さいね」 「有り難うございます」 カメラマンが写真を撮影してくれる。 かなではまるで結婚式のリハーサルのように感じて嬉しかった。 「本当に、お似合いですね。写真は結婚式のリハーサル用かしら」 微笑まれて、かなでは耳朶まで真っ赤になる。 本当の意味でリハーサルになれば良いのにと思わずにはいられなかった。 「ひなちゃん…、この写真をずっと大事にしよう」 「はい」 大地がしっかりと手を握り締めてくれる。 本当にいつかリアルでそうなれば良いのにと、思わずにはいられなかった。 異人館を堪能した後はデザートタイム、 とろとろの温かいチーズケーキを食べるために、かなでたちは喫茶ルームに入った。 目の前でチーズがとろとろと溶ける様子を見る。 幸せな瞬間だと、かなでは思わずにはいられない。 ロイヤルミルクティーをお供にすると、最高だ。 かなでは、美味しい時間を堪能せずにはいられなかった。 「こんなに美味しいチーズケーキはないんじゃないでしょうか」 かなでがうっとりと呟くと、大地は頷いていた。 「何だかカフェタイムはとても幸せな気分になれますね」 「そうだね。チーズケーキを食べた後は、とっておきの場所に行こうか。ひなちゃんと一緒に行っておきたいところがあるんだ」 「はい。楽しみにしていますね」 大地が連れて行ってくれるところは、きっとロマンティックな場所に違いない。 毎回、ロマンティックな期待を大地は裏切らないでくれている。 だからこそかなでの楽しみは倍増した。 美味しいケーキを食べた後、大地と一緒に金星台と呼ばれるところに向かった。 「今からが最高の眺めだよ。陽は短くなっているからね、そんなに遅くならずに素晴らしい景色が見られるから」 「はい」 大地はどんなに素晴らしい景色を見せてくれるのだろうか。 かなでは楽しみで楽しみでしょうがなかった。 金星台のバス停で降りて、そこから少しだけ歩く。 「ここは神戸で最も素晴らしい景色が眺められるんだって」 かなでは期待に胸を膨らませながら、頬を僅かに染め上げた。 「ひなちゃん、ここはヴィーナスブリッジと言うらしい。ここからは最高の風景が見られるよ」 「はい」 大地に導かれて、かなではゆっくりと歩いていく。 神戸街が一望出来、その上、海まで見渡せた。 夕陽のオレンジが海に滲んで映っていて、幻想的な風景を噛み締める。 オレンジの光は、明石海峡大橋を弾いて光っていた。 これぞ、魂の総てを持っていってしまうのかと思うぐらいに、素晴らしい風景だった。 「ひなちゃん、そこに鍵を付けると恋人たちは幸せになると言われている。着けないか?」 大地は南京錠をかなでに見せてくれる。 ロマンティックな言い伝えは、女の子が大好物なものだ。 「是非!」 かなでは笑顔で頷いた。 南京錠にふたりの名前を願いを込めて記入する。 お互いにずっと一緒にいたいと想う気持ちを込めて、またこの場所に戻って恋を語ることが出来るように。 ふたりは願った。 「さてとこれを飾ろうか」 「はい」 お互いに見つめあって、にっこりと微笑みながら、しっかりと手を繋いで、モニュメントに向かう。 大地と一緒に、ハート型のモニュメントに、かなでは南京錠を飾る。 「今度、来た時は、お互いにヴァイオリニストと外科医になっているか、それにより近いところにいれると良いね」 「はい」 ふたりで一緒に南京錠を飾る。 甘い旅の想い出が、またひとつ増えたような気がした。 |