2
あんなにも完璧な女性との仲を見せつけられてしまった。 吉羅と女性の完璧に調和されたカップルぶりに、香穂子は胸が張り裂けてしまう。 もう届かないのだろうか。 いくら頑張っても。 吉羅には完璧な相手がいるのだから。 香穂子は悶々としてしまう。 あのような相手がいる以上は、吉羅を諦めてしまった方が良いのだろう。 諦めなければと、心の中では思うのに、なかなか諦めることが出来なかった。 女性は大人の魅力を湛えて、本当に綺麗だった。 香穂子は完璧な女性に完敗だった。 少しでも大人で美しい女性になりたいと、雑誌を買って、女優メイクを研究してみる。 だが、なかなか思う通りにいかなくて、香穂子はがっかりする。 仕方がなく、メイクに精通している天羽に訊いてみることにした。 「大人女性のメイクねぇ……。香穂は可愛らしさが入った美人顔だからね……、ブラウン、ゴールド、ピンクを使ったメイクに、コーラル系のグロスとチークを使えば、何とかなるかな……。後は、少しヘアスタイルのアレンジを変えると大人っぽく見えるよ」 天羽は的確なアドバイスをくれるから、香穂子も自信が持てる。 本当に有難い。 「メイクとさ、髪を直してあげるからさ、待っていなよ」 「ありがと!」 持つべきものはやはり友だ。 香穂子は心から感謝をしながら、笑顔になった。 授業が終わると、香穂子は天羽と共に、みなとみらいでメイクに必要な道具や化粧品を買い求めた。 「これで全部かな。うちにはアイロンもあるからさ、それでヘアスタイルも何とかしようか」 「うん、有り難う」 綺麗になるためのショッピングは、本当に楽しい。 香穂子はつい笑顔になった。 綺麗になりたい。 だけど、誰にそれを伝えれば良いのだろうか。 それが不安になる。 香穂子は、吉羅の顔を思い浮かべたが、切なくなるだけだった。 天羽の家に行き、ヘアメイクをしてもらうことにした。 手順を説明して貰いながら、メイクをして貰う。 そうするとどんどん洗練された顔になるのが分かる。 髪を軽く巻くと、更に美しさが滲んでくるような気分になる。 ここまで綺麗にしてもらって、流石の技術だと、香穂子は思った。 「自分で出来るかな。ここまで……」 「大丈夫じゃないかな。香穂子ならば。元々、綺麗だからさ。土台が良いから簡単。香穂の場合は、付け睫だとかデコラティブにしなくても綺麗だから得だよね」 天羽は笑顔で言うと、香穂子の背中を押してくれた。 「これで理事長を誘惑してしまいな」 「……!!!!!」 天羽の発破に、香穂子は恥ずかしくてしょうがなくなる。 そのために綺麗になりたいというのは、多かれ少なかれあるのだから。 「……無理だよ……。そんなこと……。私には……」 「大丈夫だって!香穂は理事長のお気に入りだからさ」 香穂子の後ろ向きな気持ちを察するように、天羽は止めの背中を押してくれた。 「有り難う」 「綺麗になりたいって思う子は、好きなひとり振り向いて貰いたいって思う女の子は、綺麗で最強なんだからさ。香穂も自信を持ちなよ」 天羽に言われると、その気になるのが不思議だ。 やはり力強い友人だからだろう。 それはとても有難いと思わずにはいられなかった。 「……香穂子、笑顔でいればさ、最高の道は開けるんだからさ」 「うん。ありがと、菜美」 香穂子は、友人の応援に精一杯応えようと思わずにはいられなかった。 鏡をもう一度見る。 今までと違って、とても大人に見える。 本当に綺麗で、ついうっとりとしてしまう。 こんなにも素敵なメイクとヘアスタイルは他にはないだろう。 香穂子は充分に満足した。 早く吉羅にこの姿を見せたい。 だが、さりげなく見せるにはどうしたら良いのだろうか。 香穂子はついそればかりを考えた。 天羽と別れて、真っ直ぐ家に帰る。 家に向かうと、学院に向かっていると同じから、偶然でも良いから吉羅に会えれば良いのにと、思わずにはいられなかった。 こんなに綺麗にして貰ったのだから、逢いたい。 大人っぽく見てくれるだろうか。 香穂子はそれが気になって仕方がない。 何だかくすぐたい気持ちになりながら、ほわほわとした気持ちで、家路を急いだ。 最寄りの駅から家に向かって歩いていると、吉羅の姿を見かけた。 まさか、こんなにもいきなりに吉羅と逢うことになるなんて、思ってもみなかった。 香穂子は、恥ずかしさと華やぎを心に抱えながら、吉羅にさりげなく近づこうとした。 だが、近くまでいって、こちらを吉羅を見ているような気がして止める。 そして、同時に、あの美しいひとが、吉羅の横に現れた。 相変わらず素晴らしいぐらいに美しい。 いくら背伸びをしても、香穂子には届かない人。釣り合わないひとだと思い知らされる。 香穂子は切なくなり、パン屋に入る。 吉羅と女性が通りすぎるまで、やり過ごすことにした。 パンに悩むふりをする。 パンは家に帰って、家族で食べれば良いから、買っても無駄にはならない。 「チョココロネでも買って帰ろうかな……」 「君はコロネが好きなのかね?」 いきなり吉羅の声が聞こえて、香穂子は驚く余りに飛び上がりそうになった。 ドキドキし過ぎて、どうして良いのか解らない。 「り、理事長!」 香穂子が吉羅を見ると、不快そうに目をスッと細める。 「日野くん、君はいつもとは雰囲気が違うようだが?」 「少しメイクを変えたのと、ヘアスタイルを変えたので……」 香穂子が遠慮がちに言うと、吉羅は益々不機嫌そうにする。 「あ、あの、チョココロネとあんパンとメロンパンを買うので、列に並びますね。理事長、また」 香穂子は吉羅の視線が痛くて、そそくさと逃げ出す。 切なくて苦しいから、速く吉羅から逃げたかった。 精算をして店を出たところで、香穂子は腕を掴まれる。驚いて顔を上げると、吉羅だった。 こんなにも強引な吉羅を見るのは初めてかもしれない。 「日野くん、少し付き合ってくれたまえ」 「あ、あのっ!?」 腕を取られたまま、香穂子は吉羅に連れられて、駐車場近くまで連れていかれてしまう。 「いいから着いてきなさい」 吉羅の余りにもの強引ぶりに、香穂子は驚かずにはいられない。 クールな吉羅がここまでするなんて、思ってもみなかった。 どうしてこんなことになるのか、香穂子には分からなかった。 |