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吉羅と共に夜を過ごす。 香穂子は嬉しさと喜びで胸がいっぱいになる。 吉羅と一緒にいられたら、それだけで嬉しかった。 大学生にもなると、周りの友達はみんな、付き合っている彼と先に進むことが多くなる。 吉羅と付き合うようになってからというもの、香穂子はそれを羨ましく見ていた。 「…構わないかね、本当に…」 「はい…。私は…、暁彦さんと一緒にいたいですから…」 「有り難う…」 吉羅は低い愛情の籠った声で呟くと、香穂子を更に抱き締めてくれた。 「…香穂子…、温かいところに行こうか…」 「…はい…」 吉羅は香穂子の手を強く握り締めて車まで連れていってくれる。 「夜景はもう良かったかな? まあ、言っても今更だけれどね…」 「…大丈夫です」 夜景もロマンティックだが、それよりもロマンティックがその先にはある。 現実にロマンスが存在しているのだから。 吉羅は、香穂子の温もりを感じながら、胸がいっぱいになっていた。 香穂子を自分だけのものに出来る。 それ以上に素晴らしいことなんてない。 この胸に抱き締めて、このままずっと閉じ込めておきたい。 それだけだ。 「吉羅さん、私…、ちょっと緊張していますが、だけれど、とても嬉しいです…」 香穂子がにっこりと笑ってくれたから、吉羅もまた微笑むことが出来た。 香穂子を自分のものに出来る。 それだけで嬉しくてしょうがない。 吉羅はもっともっと香穂子に近付きたかった。 吉羅は香穂子を車に乗せると、直ぐに携帯電話を手に取る。 近くにあるよく使うホテルに連絡を入れるためだ。 連絡をすると部屋は空いているとのことだった。 吉羅は直ぐに予約をした後、香穂子を連れてホテルへと向かった。 今日の香穂子は本当に美しい。 こんなに美しいのは香穂子以外に有り得ない。 吉羅が香穂子を想う大きさが、更に香穂子を美しく見せてくれているように思えた。 「…綺麗だね、君は…」 吉羅が思わず呟くと、香穂子ははにかんで頬を赤らめた。 「有り難うございます。だけど…、吉羅さんはもっと綺麗だと思いますよ」 香穂子は照れ臭そうに言いながら、はにかんでくれる。 その表情も自分に向けられたものであるから、吉羅は可愛くてしょうがないと思う。 ようやく手に入れた香穂子だから、吉羅は金輪際離す気などはなかった。 車でホテルに向かう。 我ながら大胆なことをしていると香穂子は思う。 本当にドキドキしていまうが、それは決して悪いドキドキではない。 むしろときめきを押し上げてくれるようなドキドキだ。 香穂子は吉羅の横顔を見つめながら、胸がいっぱいで苦しくなるのを感じていた。 吉羅と一緒に朝までいる。 大胆だが、どうしてもそうしたいと思っていた。 これ以上はどうしようも出来ないぐらいに、吉羅が愛しいから。 走り出した吉羅への想いは、もう止められやしないと、香穂子は思った。 吉羅の車はいよいよホテルの駐車場に入る。 緊張してしまう。 吉羅との恋が文字通りにステップアップするのだ。 秘密の恋が、更に艶のある秘密へと変わる。 香穂子は期待と不安と緊張で、すっかり躰を硬くしていた。 「さあ行こうか」 「は、はいっ!」 吉羅にエスコートされてかなり緊張してしまう。 余りにも動きが硬いからか、横目で見た吉羅は苦笑いを浮かべていた。 「大丈夫かね? 平気かね?」 「だ、大丈夫です。色々と初めてのことが多くて、つ、つい、緊張してしまいます…」 「緊張しなくても大丈夫だ」 吉羅は優しくてよく通る声で言ってくれると、あくまで香穂子を気遣うようにエスコートをしてくれた。 これが大人の男性の余裕なのだと、香穂子は思わずにはいられなかった。 吉羅を見つめているだけで、更に想いは高まる。 ホテルに入ると、明らかに複数の人々がこちらを見ているのに気付いた。 吉羅とはバランスが取れていないと思われているなだろうか。 ふたりを交互に見ている人達が多いのは事実だ。 香穂子は視線を感じながら、居心地が悪かった。 恐らくは、子供の自分と吉羅が、全くバランスが取れていないと思っているのだろう。 それは切なくてしょうがない。 吉羅よりもずっと子供で、釣り合わないのは自分が一番よく解っているつもりだ。 香穂子は萎縮してしまう。 それに気付いたのか、吉羅が手をしっかりと握り返してきてくれた。 これは嬉しかった。 「…吉羅さん、ごめんなさい…、私が子供で…」 「…君は子供なんかじゃないよ…。断じてそれはない。それは私が一番解っているから…」 「吉羅さん…」 香穂子は嬉しさと切なさでつい俯いてしまっていた。 吉羅の声は硬くて、少し怒っているように感じる。 やはりバランスが取れていないから恥ずかしいのだろう。 それが申し訳なく感じると共に、重い事実として香穂子にのしかかっていた。 チェックインの手続きをしている間も、吉羅は機嫌が悪いように見えた。 香穂子は、胸が苦しくなるのを感じながら、今更ながら泣きそうになってしまった。 吉羅をこうして見つめていると、本当に釣り合いが取れていないとしか、自分でも思えなかった。 ずっと人々の視線を感じる。 それがいたたまれなかった。 吉羅は素早くチェックインを済ませると、香穂子の手を握り締める。 ホテルのスタッフが部屋まで誘導してくれるのに、着いていくのが精一杯だった。 「お似合いだわ、あのふたり…」 誰かが囁いているのが聞こえて、香穂子は嬉しくてついにっこりとする。 すると吉羅は香穂子をフッと笑顔で見つめてきた。 その笑顔に、幾分かホッとさせられた。 スタッフに通された部屋はジュニアスィート。 こんな部屋自体初めてで、香穂子は緊張してしまった。 「凄く素敵な部屋ですね…!」 こんな部屋に通されたら、それこそシンデレラにでもなったような気分になる。 シンデレラの気分でうっとりとしていると、背後から吉羅に抱き締められてしまった。 「…吉羅さん…」 「さっきは君ばかりを熱く見つめる男たちを蹴散らしてしまいたい気分だったよ…」 「吉羅さん…」 吉羅は、幾分か嫉妬が含んだ声で呟くと、香穂子の首筋にキスをしてくる。 「…君はなんて綺麗なんだろうかと、ずっと思っていたんだよ…」 吉羅は香穂子を抱き締める腕に更に力を込めてくる。 熱い抱擁にくらくらしてしまいそうだ。 「…吉羅さん…」 「…今夜の君は本当に綺麗だ…」 吉羅の声が艶やかに掠れて、香穂子は胸の奥に空気を吸い込む。 心が躰が震えて、このまま蕩けてしまうのではないかと思った。 「…本当に大好きです…」 それしか言えない。 香穂子は想いがあふれそうになるのを感じながら、掠れた声で呟く。 「…愛している、香穂子…」 吉羅に愛の籠った言葉を呟かれて、香穂子は想いが止められなくなる。 吉羅への想いが全身に満ちあふれてくる。 吉羅に愛の言葉を囁いて貰えるだけで、なんて幸せなのだろうか。 香穂子は泣きそうになった。 「…大好き…吉羅さん…大好き…」 感きわまって、吉羅に気持ちを伝える。 だが言葉ではもどかしくて、どうして伝えたら良いかが分からなかった。 「…香穂子…、君が欲しい…」 吉羅はくぐもった声で呟くと、香穂子をそのまま抱き上げる。 吉羅ならば言葉以上に伝えられる方法を知っているかもしれない。 香穂子は吉羅に身を任せた。 |