*Love Anniversary*

3


 吉羅とダンスをしたというロマンティックな余韻に浸りながら、香穂子はまだ心臓がかなりドキドキしているのを感じた。
 デザートが運ばれてくる。
 口に入れると直ぐに溶けてしまうデザートに、香穂子はうっとりとしてしまった。
 だが、先程の甘い感覚に比べると何かが足りなかった。

 吉羅は、香穂子を見つめながら、狂おしいほどの恋情が込み上げてくるのを感じる。
 このまま連れさってしまいたい。
 香穂子をこのまま自分だけのものに出来たらと思わずにはいられなかった。
 今も香穂子は本当に綺麗だ。
 見惚れてしまうと言っても過言ではない。
 どうしてこんなに美しいのか、そう考えてしまうほどに。
 先程、香穂子とダンスをしている時に、吉羅は欲望と愛情が一気に高まっていくのを感じた。
 華麗なダンスに、うっとりとせずにはいられなかった。
 勿論、そのようなことは香穂子には内緒にしなければならないが。
 目の前でデザートを堪能する香穂子が、本当に可愛く思える。
 可愛さと美しさのどちらも兼ね備えた類い稀な存在なのではないかと、吉羅は思う。
 香穂子をこのまま帰したくはなかった。
 今までは、ふたりの関係は、良くいえばバランスが取れた、悪く言えば宙ぶらりんな状態だった。
 恋人でもなく、かといって友人でもない。
 友人以上、いや、ひょっとすると恋人以上の感情を持ちながらも、肉体的には結ばれてはいない。
 あとワンステップが上手くいかないふたりだった。
 それはふたりの関係性ゆえのことだろう。
 暫くは、足踏みをしようと思ってはいたのだが、最早、それは出来なくなっている。
 香穂子への欲望は限界だった。
 彼女も同じ気持ちでいてくれたら。
 きっとそうだと信じている。
 心は重なりあっていると。
 吉羅はそれに賭けてみることにした。
「…香穂子…、この後、ドライブの続きをしないかね?」
 静かに語りかけると、香穂子は頬を染め上げて、僅かに頷いてくれる。
 そのはにかみが可愛かった。
 正式な恋人同士ではまだない。
 だが、こうしてデートを重ねて、口付けを交わす仲ではある。
 今まで、我慢をしてステップアップを繰り返してきたから、ここで一気に香穂子を恋人にしてしまいたかった。
 だからこそ、本当の意味で、香穂子が欲しい。
 それが吉羅の願いでもある。
「デザートを食べたら出ようか。夜のドライブを楽しもう…」
「はい」
 甘くて情熱的なドライブを、吉羅は期待していた。

 こんなに夜遅くまで一緒にいることなんてなかったから、香穂子は本当に嬉しかった。
 いよいよ本当の意味で、吉羅と一緒になれるのだろう。
 それを何処か期待している自分がいる。
 今までは、そんなことを期待してはいけないのではないかと思い、自分自身でブレーキをかけてきた。
 だが、今夜は違う。
 ブレーキなんてかけたくない。
 大好きな男性に抱かれたい。
 ただその想いだけが先行する。
 吉羅は知っているだろうか。
 香穂子が唇を許しているのは、誰よりも吉羅を愛しているからということにほかならないことを。
 恐らくは知らないのかもしれないが。
 吉羅とごく自然に手を繋いで、車へと向かう。
 ふわふわとした幸せな感覚だ。
 気分が良くて、香穂子は思わず空を見上げた。
「綺麗ですね、星」
「そうだね…、本当に」
「何だかロマンティックを感じます。今日は、吉羅さんに沢山のロマンティックを頂いたので、とても幸せです。有り難うございます」
 香穂子の言葉に、吉羅はつい笑顔になる。
「それは良かった。だったら、更なるロマンティックを探しに行こうか」
「…はい…」
 更なるロマンティック。
 吉羅なら素晴らしいものを見せてくれるに違いない。
 香穂子はうっとりとした気分で期待をしながら、吉羅にそっと寄り添った。
 車を出して向かった先は、横浜の夜景が遠くに楽しめる穴場的なスポットだった。
 星も綺麗だが、人工的な光も、また美しくて余韻。
 香穂子は空を見上げ、遠いみなとみらいの夜景を見つめては、うっとりとした気分になった。
「本当に綺麗ですね…。このまま吉羅さんと一緒に見つめていたくなります…」
「香穂子…」
 吉羅は香穂子を抱き寄せてくると、唇を近付けて来る。
 香穂子はためらうことなくそれを受け入れると、静かに目を閉じた。
 深く深く唇が重なってくる。
 頭がくらくらしてしまうほどの深いキスに、香穂子は夢中になってしまう。
 ひとりでは上手く立ってはいられなくて、吉羅にしがみついた。
 吉羅と何度も角度を変えてキスをした後、頭がぼんやりとし、瞳が甘く潤んだ。
「香穂子…」
 吉羅に名前を呼ばれるだけで、ついうっとりとしてしまう。
「…香穂子…、今夜は離さないから…」
 吉羅の魅力的に響く甘い声に囁かれて、夢見心地になる。
 ここでイエスと返事が出来ない筈がない。
 香穂子は頬を染め上げると、ただ静かに頷いた。
 吉羅は香穂子の手を取ると、車へとエスコートしてくれる。
 もう夜空も夜景も必要ない。
 必要なのは、吉羅暁彦だけだ。
 彼がいれば、それだけでロマンティック。
 吉羅は車に乗り込むと、先ずは香穂子を抱き締めてきた。
 その力強さにうっとりとせずにはいられない。
 吉羅に求められている。
 それだけでなんて幸せなのだろうか。
 くちづけを交わしながら、香穂子は幸せを噛み締める。
 何度キスをしても足りないと思うほどに、何度も何度もキスをした。
 吉羅が、香穂子の華奢な躰を思い切り抱き締めてくる。
 離さないとばかりに激しく。
 吉羅の手が、スッとドレスの中に入り込み、香穂子の太股を撫でた。
 ほんの一瞬、優しく撫でられただけなのに、全身に火が付いたように熱くなった。
 思わず甘い吐息を漏らしてしまう。
 吉羅の手は、ほんの一瞬ではあるが、胸元に侵入して触れる。
 ごく自然に、しかもスマートに行なうものだから、逆にもう少し触れて欲しいだなんて、馬鹿なことを思ってしまった。
 熱い吐息を漏らす香穂子の顔を、吉羅は優しく撫でた後、月の光のように優しいキスを額にしてくれた。
「…香穂子…、行こうか…」
「…はい…」
 吉羅は静かに言うと、香穂子から離れる。
 シートベルトを冷静にすると、吉羅はステアリングを握る。
 香穂子はと言えば、欲望と情熱に震えてしまい、上手くシートベルトが出来なくて困ってしまった。
「しょうがないね…」
 吉羅は優しい苦笑いを浮かべると、香穂子にシートベルトをしてくれる。
「君がこうなってしまったのは私の責任ではあるからね」
 吉羅はいたずらなまなざしを向けながら、手際良くシートベルトをしてくれた。
 シートベルトをした後で、吉羅は車を出す。
「…六本木に向かうから」
「…はい…」
 六本木は吉羅の住む場所。
 ミッドタウンに吉羅の住家はある。
 今までは一度も行ったことはなかったが、いつか行きたいと思っていた。
 それが叶うなんて、香穂子は思ってもみなかった。
 吉羅のテリトリーに行くことが出来る。
 それだけでスペシャルだ。
 車が揺れて、香穂子の頭が吉羅の肩に触れる。
 吉羅はそのまま香穂子を引き寄せると、甘えさせてくれた。
 香穂子が甘えるように吉羅の肩に頭を凭せ掛けると、吉羅は肩を何度も撫でてくれた。
 甘くて熱い時間が始まる。
 香穂子は幾分か緊張するのを感じながら、ただ静かにじっとしていた。



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