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快楽の嵐が途切れなく続いて、いつの間にか気を失っていたらしい。 我にかえって香穂子は照れくさい驚きを感じていた。 「…君は準備が出来たようだ…。…私の妻にする…。良いね?」 「はい…」 本当の意味で吉羅の妻になる。 その意味は充分に解っている。 だが、香穂子も本当に吉羅の妻になりたかった。 だからこそ、たった一度だけ深く頷いたのだ。 すると、吉羅は気遣うように香穂子の入口に、欲望で熱くなったものを押し当てる。 その力強さに、香穂子は呑まれてしまいそうになった。 だが、その強さがあるからこそ、香穂子はうっとりとする。 愛の蜜で溢れた入口から、力強い吉羅がゆっくりと入ってくる。 その痛みに、香穂子は思わず飛び上がりそうになった。 頭の先を貫く痛みだ。 ジンジンとする痛みに、どうして良いのかが分からない。 だが、吉羅にはどうしても止めて貰いたくはなかった。 「…んっ…!」 「…香穂子…」 吉羅は大丈夫だからだと、何度も宥めるように背中を撫でてくれた。 それが何よりも嬉しい。 吉羅があくまでも優しく気遣ってくれたから、香穂子は痛みに耐えることが出来た。 吉羅にしがみつきながら、愛があるからこそ、痛みに耐えられた。 「…香穂子…。君は素晴らしい…」 吉羅の掠れた甘い声に、香穂子は夢中になりながら、更にしっかりと抱き寄せた。 吉羅がキスをしたり躰を撫でながら、ゆっくりと先に進む。 痺れるような痛みに耐えながらも、香穂子は幸せを感じていた。 愛する男性に抱かれるからこそ、これほどまでの痛みに耐えられるのだ。 吉羅が息を乱しながら、更に奥に進んできた。 一旦、吉羅はかなり大きな深呼吸をした後で、この上なく優しい動きをしてきた。 リズミカルな動きは、やがて香穂子に快楽を生む。 香穂子は何度も甘い声を上げて、吉羅にしがみついた。 快楽が一気にボルテージを上げていく。 思考が出来ないぐらいに、快楽が香穂子の総てを満たしていく。 揺れている。 視界も何もかもが揺れて、香穂子はもうどうすることも出来ない。 吉羅に抱き締められて、奥深くまで突き上げられて、香穂子は快楽の嵐に巻き込まれていった。 躰がリズミカルに弛緩する。 もう自分ではコントロールが出来ない。 香穂子は躰の奥深くに爆発するような熱を感じながら、意識を手放した。 吉羅が躰を慈しむように抱き締めてくれ、髪を優しく撫で付けてくれる。 「…香穂子…、君はとても素晴らしい…」 吉羅は、もう離さないとばかりに、香穂子の躰を強く抱きすくめた。 こうされていると、本当に愛してくれているのではないかと、夢見てしまいそうになった。 本当にそうならば嬉しいのに。 「…香穂子…。これで君は私のものだ。名実ともに私の妻になったのだから、別れない」 吉羅にキッパリと言われて、香穂子は素直に嬉しくなった。 吉羅と一緒にいつまでもいたい気持ちは、ずっと持ち合わせていたのだから。 「…はい。暁彦さんからは離れません…」 「それが懸命だ」 吉羅は香穂子を思い切り抱き締めてくる。 息が出来なくなるぐらいだ。 欲望が突き上げてきて、香穂子はどうして良いかが分からずに、吉羅を見つめる。 「…私たちは…、まだまだ熱い時間を持たなければならないようだね…」 吉羅の提案に、香穂子は同意をするようにしっかりと抱き付く。 こんなにも熱く抱き締められるなんて、思ってもみなかった。 結婚してからずっと、こうして抱き締めて貰えることが夢だった。だからこそ嬉しくてしょうがなかった。 吉羅と一つになる。 これで本当の夫婦になれると、香穂子は思っていた。 あれから吉羅との結婚生活は変わったかと言われたら、変わらないと答えたほうが正しいのかもしれない。 吉羅は相変わらず香穂子を妻とは認めないような振る舞いしかしない。 ただ、きちんと帰って来る日には、情熱的に香穂子を愛する。 今までの生活に、躰の交わりが加わっただけだ。 吉羅と同じベッドにいる間は、愛されていると錯覚してしまう。 だが、全くいつもと同じ態度だと、失望してしまう。 その繰り返しばかりだった。 吉羅を愛している。 それは全く変わらない。 それどころか、愛し過ぎて狂ってしまうのではないかと思ってしまう。 嫌いになんかなれなかった。 嫌いになりたいのになれないというのが、正解なのかもしれない。 香穂子は友人の天羽菜美に誘われて、久しぶりにランチに向かった。 友人との気軽なランチなので、香穂子はリラックスしながら食事をする。 「香穂、何だか急に綺麗になったよね。大人っぽくなったっていうか…」 「本当に?」 そう思われるのであれば、かなり嬉しい。 香穂子は華やいだ気分になった。 「うん。だけど愁いもあるかな…。大人になったからこそなのかもしれないけれど…」 「…そう…」 愁いがあるとするならば、吉羅との関係だろうか。 躰で結ばれたのに、心は伴わない。 躰で結ばれれば、今までの状況は打破出来るとずっと思っていたというのに。 それは叶わなかった。 それゆえの愁い。 香穂子は親友にすら曖昧な笑みを浮かべることしか出来なかった。 「ねえ…、香穂さ、旦那さんとは上手くいっているの?」 「…え…?」 心配そうに天羽が見つめてくるものだから、つい不安になる。 「大丈夫だよ。うん」 「そうか…。香穂は幸せそうだけれど、何処か悩みがあるような気がしただけなんだ。だけど、あなたが大丈夫だって言ったら大丈夫なんだよね。うん」 香穂子が微笑みながら頷くと、天羽も頷いてくれる。 とりあえずはホッとしてくれたようで助かった。 香穂子は、天羽に本当のことが言えなくて辛い。 親友や家族にすら言えない。 愛している男性と結婚することが出来たのに、愛されてはいないなんて。 香穂子は言い出すことが出来なかった。 「香穂、ランチを食べたらのんびりとショッピングでもしようか。ね」 「うん、そうだね」 天羽は勘の良い親友だ。 香穂子の苦悩を薄々は気付いてくれているのだろう。それでも何も訊かないでくれるのはとても有り難かった。 ショッピングに行くと、自分の物もだが、吉羅に似合う物や、好きな物をつい見てしまう。 あんなにもクールなのにもかかわらず、本当は甘味が好きなこと。 この栗きんとんなんか気に入ってくれるかもしれない。 「香穂、随分と渋い和菓子を見ているんだね」 「あ、うん。暁彦さんが大好きだから買って行こうかなあって思って」 香穂子はつい幸せな気分になる。 「香穂、旦那さんのことを本当に愛しているんだね…」 天羽はふと柔らかな笑みを浮かべる。その表情は本当に優しかった。 「…うん」 吉羅を愛していることは紛れもない事実であるから。 香穂子は素直に認めることにした。 「安心したよ。不意に苦しそうな表情をすることがあったから、心配していたけれど、それならば大丈夫だよね」 「うん」 「さっきからさー香穂は自分のものよりも旦那さんのものを無意識に見ているんだもん。だから安心したんだ。香穂は大丈夫だって。旦那さんを愛しているから大丈夫だなあって」 天羽を安心させることが出来たのは、本当に嬉しい。 だが、無意識に吉羅のものばかりを見ているとは思ってもみなかった。それはある意味、嬉しい驚きではあった。
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