*愛人契約*


 キスの先。

 それが何を表しているか、解らない年ではない。

 だが、その先は、吉羅をもっと愛せるのではないかと思った。

 吉羅も自分を愛してくれるのではないかと。

 そんな夢みたいなことを考えてしまう。

 香穂子は覚悟を決めなければならないと思う。

 吉羅が相手だと、不思議と嫌ではなかった。

「……キス以上のことをしても良いと覚悟が出来たということだね?」

「……そうです」

 耳が痛くなってしまうぐらいに、脈拍が早い。

 香穂子は覚悟を決めながらも、胸が苦しいぐらいに切なくなる。

「香穂子、これは君が決めたことだ。良いね……」

 つまり、このことで、吉羅を責められないということだ。

 それは香穂子にも分かっている。

 吉羅はずっと香穂子に選択の余地をくれたのだから。

 これで、責めることは出来ない。

 かといって、吉羅はずるいことや、卑怯なことは決してしないだろう。

 それは香穂子にも分かる。

「……吉羅さん、覚悟はできています……」

「分かっているよ、香穂子……」

 吉羅は艶やがたっぷりな声で、甘く囁いたあと、香穂子をいきなり抱き上げた。

 まさか、お姫様抱っこをされるとは思わなくて、香穂子は思わず目を見開いた。

 緊張し過ぎてしまい、香穂子は全身が震えるのを感じる。

「……そんなにも震えなくても大丈夫だから……」

「はい」

 香穂子はか細い声で返事をすることしか出来なかったが、吉羅は柔らかく微笑んで、甘いキスをくれた。

 すると不思議と落ち着いてくる。

 香穂子は吉羅にそっと掴まった。

 そのまま、香穂子は吉羅の部屋に連れて行かれる。

 初めて入った吉羅の部屋は、彼らしくファブリックはモノトーンで、静かな印象だった。

 吉羅はゆっくりと香穂子をベッドに寝かせてくれる。

 背中に当たるベッドの固さはちょうど良くて香穂子はほんのりと幸せな気持ちにさせてくれた。

 吉羅は香穂子のパジャマに手をかけて、簡単に、ごく自然に、脱がせてくれる。

 何だか恥ずかしくてたまらない。

 香穂子がはにかんだ目線を向けると、吉羅はしっかりと抱き締めてくれた。

「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だから」

「だけどやっぱり……」

「君は世界で一番綺麗だから、心配しなくても、恥ずかしがらなくても大丈夫だから……」

 吉羅に言って貰えると、世界で一番素敵な女の子のように思える。

 それが幸せだ。

 吉羅は更に、香穂子の着ているものを脱がして行く。

 香穂子は全く抵抗が出来なかった。

 とうとう生まれたままの姿にされてしまう。

 恥ずかしくて、香穂子はこのまま逃げ出したくなる。

 隠そうとしても、吉羅は許してはくれない。

「……隠さなくても良いから」

「だ、だって……」

 恥ずかし過ぎて、いつもは吉羅に対して敬語なのに、香穂子はついそれを崩してしまう。

「恥ずかしがらなくても良いから。君は美しいから……」

「……吉羅さん……」

 香穂子が泣きそうな声で呟くと、吉羅は髪を撫でた。

「君は覚悟の上だと思うが、違うかな?」

「……吉羅さん……」

 香穂子は小さく頷く。本当にその通りなのだから。

 吉羅はベッドに乗り掛かると、香穂子を抱き締めて、そのまま口づけてくる。

 吉羅のキスもそんなにも受けた回数はないというのに、香穂子は息が出来なくなるぐらいに、ときめいてしまう。

 もう、吉羅がしてくれるキス以外は考えられない。香穂子は、吉羅がくれるどのようなキスにも溺れてしまわずには、いられない。

 浅くて羽のような甘い御菓子のようなキスも、そして、深くて激しい情熱的なキスも。

 総て香穂子を魅了して止まない。

 深いキスで総てを奪われたあと、香穂子は全身が敏感になっていることに気づいた。

 甘く敏感な肌は、香穂子を更なる貪欲な気持ちにさせる。

 吉羅は、香穂子の滑らかな肌を手のひらでゆっくりと柔らかく撫で付けてゆく。

 そうされるだけで、香穂子は蕩けてしまいそうになった。

 こんなにもときめく甘い感覚はほかにない。

 吉羅は、体温よりも少し冷たい滑らかな唇を、香穂子の首筋に押し付けてきた。

 それだけでくらくらしてしまうぐらいに甘い。

 香穂子はくすぐったいような甘い感覚に、思わず肌を震わせた。

 吉羅は、音を立てて、強く肌を吸い上げてくる。

 そこが真っ赤になっているのは、明白だった。

 吉羅は、まるで香穂子の肌をしっかりと味わうように、全身にキスをしてゆく。

 デコルテやうなじ、背中を丁寧にキスされて、香穂子は思わずシーツを強く掴んだ。

「……んっ、吉羅さん……」

「君の身体が私を究極に欲しがるまで、私を刻み付ける……」

 吉羅は香穂子の肌に、しっかりとキスをして、刻み付けていく。

 吉羅を総ての細胞に刻み付けたい。香穂子はその想いを強く抱きながら、しっかりと受け止めた。

 吉羅の大きな手のひらが、香穂子の柔らかな乳房に触れる。

「んっ……」

 最初は下から掬い上げるようにしっかりと胸をもみあげてくる。

 はりつめるまでそれをされて、香穂子はこのまま蕩けてなくなってしまいそうな気がする。

「……んっ、吉羅さんっ……」

 香穂子はまるで唸るように呟くと、吉羅を強く抱き締めようとする。

 だが、吉羅はそれを許してはくれなかった。

 吉羅は、親指の腹で、香穂子の胸に咲き誇るバラのつぼみをクリクリと愛撫する。

 身体の奥が熱くなる。

 切ないぐらいに、熱くて甘い鼓動に、香穂子の呼吸はかなり苦しくなった。

「……君は本当に敏感だね……」

「……吉羅さん……」

 香穂子は、潤んだ瞳を吉羅に向ける。

 吉羅はスッと目を細めると、香穂子の胸に顔を埋める。

 そのまま薔薇色のつぼみを唇に含み、強く吸いあげ始めた。

 舌先でなぶられて、香穂子の腰が、柔らかく揺れる。

 それが何を求めているのか。

 香穂子は具体的には分からなかった。

 ただ、これだけは分かる。

 吉羅が欲しい。

 それだけを胸に、香穂子は吉羅をしっかりと抱きしめた。

 自分の男だと実感するために。

 香穂子の包容に応えるように、吉羅の愛撫は激しくなる。

 身体が熱くなり、溶けてなくなるのではないかと、香穂子は思った。

 吉羅が欲しい。

 もっと蕩けたい。

 そう感じずにはいられなかった。

 もっとロマンスが欲しい。 

 香穂子はそれを求めるように、更に、吉羅を抱きしめた。

 



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