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ドキドキする余りに、クリスマスプレゼントのペンダントが揺れる。 このペンダントが吉羅からのプレゼントだとは信じてはいたが、確信は持てなかった。 「車で少し行ったところに神社がある。そこでお参りをしよう」 「はい」 香穂子はにっこりと微笑みながら頷く。 クリスマスは吉羅と一緒に過ごすことは出来なかったが、こうしてお正月を一緒に過ごすことが出来るのが香穂子には嬉しくてしょうがない。 こんなにも幸せはないのではないかと思ってしまうほどだ。 流石に半纏で初詣に行くのは恥ずかしくて、香穂子はダッフルコートを着た。 「先ほどの半纏も似合っていたがね」 吉羅がからかうように言うものだから、香穂子は恥ずかしくて仕方がなかった。 吉羅の車に乗って、神社へと向かう。 夜空はいつも以上に澄んでいて、星がとても美しい。 「間も無く午前0時だ。新しい年を迎えるよ…」 「はい」 吉羅とふたりで静かに新しい年を迎える。 なんて幸せなことなのだろうかと思う。ずっと吉羅とお正月を過ごしたいと思っていた願いが叶ったのだ。 こんなにも嬉しいことは他にないだろう。 ゆっくりとデジタル時計が新しい年を指す。 「あけましておめでとう日野君」 「あけましておめでとうございます、吉羅さん」 ふたりは静かに挨拶を交し、新しい気分になる。 吉羅の車は、ゆっくりと駐車スペースに停まった。 「さあ行こうか。ひとが少ない神社だからね。ゆっくりと願い事を言えるよ」 「はい」 吉羅とふたりで、ぴんと張り詰めた冬の空気の下をゆっくりと歩いていく。 それがとてもロマンティック。 ふと夜空を見上げると、余りに美しい星々にこころを奪われる。 夏の星座とはまた趣きが違っていて、とても綺麗だ。 「お星様がとても綺麗ですね。ゆったりとした時間を過ごせそうです」 「そうだね」 とても寒い空気が漂っているけれども、気分はとても心地が良い。 香穂子はうっとりとしながら、ずっと空を見上げていた。 神社に来ると、それなりの数の人々がお参りに来ている。 だが横浜にいる時よりも、かなりのんびりする。 「横浜の汽笛を聴きながらの年越しも素敵ですが、やっぱりこうして神社でお参りをするのも、良いものですね」 「そうだね」 吉羅とふたりで境内をそぞろ歩きをしながら、香穂子はお正月の雰囲気を楽しむ。 本殿までやって来ると、吉羅とふたりでしっかりとお参りをする。 お正月の願い事。 ヴァイオリンが上手くなりますように。 あしながおじさんが幸せでありますように。 吉羅が幸せでありますように。 そして。 吉羅とこうして一緒に過ごせますように。 香穂子は心の奥底から力強く祈った。 お参りを済ませた後、吉羅が苦笑いをしながら声を掛けてくる。 「随分と長いお参りだったね」 「沢山願い事がありますから」 香穂子が笑顔で言うと、吉羅はフッと微笑んだ。 「願い事に関しては、欲張りは良いことだよ」 「そうですね」 香穂子が素直に認めて微笑むと、吉羅も微笑んでくれた。 「吉羅さんと一緒に初詣が出来て良かったです。連れて来て下さいまして有り難うございます」 香穂子が礼を言うと、吉羅は柔らかく頷いてくれる。その笑みが嬉しかった。 「君も今年は三年。そろそろ進路を考え無ければならないね」 「…そうですね…。今年は自立を考えなければなりません。来年は自立が出来るように」 香穂子は、夜空に数多輝く星々を眺めながら、薄くて微笑むと、遠い未来を見つめる。 「自立を焦ることはない。君はヴァイオリンはどうする気でいる…?」 「ヴァイオリンは続けていくつもりです。どのようなことがあっても、これだけは必ず続けていたいんです」 香穂子はこころが澄んだ気分になるのを感じながら、真直ぐ吉羅を見つめた。 「君が真直ぐ前を見て歩く限り、ずっと見てくれるひとがいるだろう…。だから…、安心してヴァイオリンに打ち込むんだ。あのような音は君にしか出すことは出来ないんだから…」 吉羅は深い本当によく通る落ち着いた声で呟くと、香穂子を見守るように見つめる。 そのまなざしは、まるで夜空に輝く星のようだと、香穂子は思う。 こんなにも大きくて包容力のある綺麗なまなざしは他にないのではないかと思う。 ずっと旅人の道標になり続けていた北極星のようた。 温かい気持ちと同時に、切ないほどの恋情が込み上げてくる。 「…君を何時までも見守っているひとは必ずいる。依存をし過ぎるのはいけないが…、君のように常に真直ぐありたいと思っていれば、きっとずっと見守ってくれるひとがいるだろう…」 吉羅の言葉に、香穂子はあしながおじさんを想う。 いつも遠くから見守ってくれている、香穂子の大切な大切なひとだ。 これほどまでに大切に思ってくれているひとは他にいないだろう。 「…見守って下さる方に恥じないように頑張っていきます」 香穂子が微笑みながらも凛とした声で言うと、吉羅も頷いてくれる。 優しい大きなまなざしで。 「進路を決めなければならない年ですが、私なりに頑張って、ベストな進路を探し出します」 香穂子が清々しい気分で言うと、吉羅は夜空を見上げる。 「君は先を見て、羽ばたける人間だ。しっかりと頑張りたまえ」 「はい。有り難うございます。しっかりと頑張りますね」 こうして澄み切った夜空の下で、吉羅と話が出来て本当に嬉しい。 吉羅とこうして肩を並べて夢を語ることが出来るのが、何よりも幸せだった。 「急ごうか。風邪を引くからね」 「はい」 香穂子が元気よく返事をした途端、躓きそうになる。 「ったく、君はどうしてそんなにお約束なんだ…」 吉羅は香穂子を片腕で受け止めると、苦笑いをする。 「…ごめんなさい…」 「しょうがない…」 吉羅は冷たい声で言い放つと、香穂子の手をギュッと握り締める。 「これで大丈夫だろう」 「…あ…」 吉羅に手を包み込まれ、香穂子は鼓動が跳ね上がるのを感じる。 こんなにドキドキしてしまうのは、相手が吉羅だからだろう。 お互いにしっかりと手を繋いで、ゆっくりと歩いていく。 こころも躰も本当に温かい。 何も言わなくても、こうして一緒にいられるだけで幸せだと想う。 駐車場になんて着いて欲しくないのに、直ぐに着いてしまう。 それが切なかった。 車に乗り込み、直ぐに出発する。 「吉羅さん、初詣に連れて行って下さって、本当に有り難うございました」 香穂子が礼を言うと、「私も行きたかったからね」と、吉羅はさらりと答えただけだった。 少しだけいつもよりも遅い朝を迎えたが、起きるなり奥さんに和室に来るように呼ばれた。 「折角のお正月だからね。少しは日本人らしうしなければならないと思ってね」 奥さんが用意してくれたのは、華やいだ朱が美しい振袖だった。 「これを着て貰おうと思ってね」 「…もの凄く綺麗です…。どう言って良いかが解らないですが…、本当に嬉しいです…!」 振袖なんて着る機会なんて、もうないと思っていたのに。 こうして再び着ることが出来るのが嬉しかった。 「さあ支度をしましょうか。ぼっちゃんはまだ眠っているようですからね。今のうちに」 「有り難うございます」 振袖を着て、綺麗にして貰ったら、吉羅は喜んでくれるだろうか。 香穂子はそれだけが気掛かりだ。 そしてあしながおじさんにもこの振袖姿の写真を送ろうと思った。 |