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あしながおじさんから荷物が届いていた。 ホワイトディのお返しとのことだったが、カードすらない。 あしながおじさんらしいと香穂子は思う。 あしながおじさんからのプレゼントは、イヤリングだった。 しかも、クリスマスプレゼントで貰ったペンダントと同じシリーズのもので、吉羅がプレゼントをしてくれたワンピースにもとても合うものだ。 トータルでコーディネートしたようにしか思えなかった。 恐らくは、あしながおじさんと吉羅は知り合いなのだろう。 そして、ふたりは親友と呼べる間柄に違いないと香穂子は思う。 だからこそこうしたコーディネートが出来たのではないかと思う。 ふたりが情報を交換しあって選んでくれていたのならば、これほど嬉しいですことはないと香穂子は思った。 一度、あしながおじさんに訊いてみようと思う。 そして吉羅にも。 ふたりが親友ならば、こんなにもロマンティックなことはないのにと、香穂子は思った。 あしながおじさんに訊いても返事はないかもしれないので、今度吉羅に訊いてみようと思う。 香穂子はロマンティックな夢想に浸りながら、笑みを零した。 私の大切なあなたへ。 この間、とても不思議なこてがありました。 手紙でも度々書かせて頂いている方のことです。 その方と、あしながおじさんがプレゼントして下さったものは、不思議とトータルでコーディネートが出来るんです。 これは私にとってはとても嬉しいことなんですよ。 やはりトータルでコーディネート出来るというのは、ファッションではとても重要なことだと思うので。 その方の名前は、吉羅暁彦さんといいます。 ひょっとして…、あなた様の親友ではないですか? こんなにもピッタリとコーディネートが出来るなんて、話しあいをされたとしか思えないですもの。 まあ、たまたまあなたさまと吉羅さんの趣味があったということは、考えられるんですけれどね。 もし親友同士だったら、これほどまでに楽しくて嬉しいことはないのではないかと思います。 もしそうならば教えて下さいね。 いつも有り難うございます。 来週からはいよいよ新学期です。 この私が、最上級生になるんですよ。 時の流れがあまりにも早くて、圧倒されてしまいます。 来週から最上級生にふさわしいように、しっかりと勉強していきますね。 どうも有り難うございます。 それではまたお便りしますね。 香穂子 新学期が始まり、香穂子は自分が最上級生であることを、改めて感じさせられる。 三年生になったのだなと、ふつふつと感じてしまう。 新学期が始まり、軌道に乗りかけた頃に、第一回目の進路面談が行われる。 保護者と一緒の面談だが、香穂子には保護者がいないために、校長が同席することになった。 校長と担任教師である金澤と一緒だなんて、かなり緊張してしまう。 「日野、お前の成績だと、このまま大学の音楽学部に進学することが出来るだろう。この先も勉強を頑張ることが出来るぞ」 金澤は誇らしげに笑いながら頷いてくれるが、香穂子は複雑な気持ちだった。 「…私…進学したいのは山々なんですが…、音楽学部だなんて、進学することは経済的に無理ですよ。だから、この一年は、ヴァイオリンをめいいっぱい頑張るつもりでいます。最高に楽しもうと思っています。高校を出たら、働いて自立をしようと思っています。ヴァイオリンは勿論、楽しいものとして続けていくつもりでいます」 香穂子は淡々と言いながら、にっこりと微笑んだ。 すると校長は頭を横に振った。 「日野君、君は経済的なことを一切心配しなくて良いんだよ。大学の音楽学部への進学は、君を援助して下さっている方の希望でもあるんだ。だから遠慮はしなくて良いんだ。逆を言えば、進学をしないほうが、君を援助して下さっている方は哀しむよ」 校長が淡々と話をしてくれる。 確かにそう言われてしまうと、かなり心は揺れ動く。 本当に、あしながおじさんがそれを望んでくれているならば、どうすれば良いのだろうか。 進学をするか諦めて働くかで、香穂子のこころが揺れ動く。 「日野、この際、甘えさせて貰えば良い」 金澤はキッパリと言い切ると、香穂子を諭すようなまなざしを向けてきた。 「なあ、日野…。お前さんを援助してくれるひとは、恐らくは遠慮してお前が進みたい道を行かないのを一番嫌がるんじゃないか? 俺はそう思うがな」 金澤の言葉に、香穂子は神妙になる。 「…私は…、早く自立しなければならないとばかり思っていました…。…ずっと迷惑ばかりかけていると…」 「そんなことをお前さんのあしながおじさんは思ってはいないかもしれないだろう? 勝手に決めるのはよくないぞ」 「…金澤先生…」 香穂子が泣きそうなぐらいに切ない気持ちになると、金澤は肩をポンと叩いてくれる。 「今はお前さんが一番良いと思う方向に進むのが、一番の恩返しかもしれないからな」 金澤の言葉に、香穂子はほんの少しだけ気持ちが楽になるのを感じた。 「…大学の音楽学部に行く方向で頑張ってみろ」 「はい。頑張ってみます」 香穂子が頷くと、金澤は頷いてくれた。 「じゃあ今回の面談はここまでだ。来週、また、詰めようか」 「はい、お願いします」 香穂子は立ち上がると、入り口で深々と頭を下げて部屋を出た。 正直言って、この先も音楽の勉強はしていきたいと思っている。 だが、このまま甘えても良いのだろうかと、香穂子は思った。 悩みは尽きない。 香穂子は溜め息を吐くと、ゆっくりと寮へと戻っていった。 「吉羅よ、日野の気持ちはかなり遠慮があるみたいだ」 金澤は奥の部屋にいた吉羅に声を掛けた。 吉羅はゆっくりと奥の部屋から出ていく。 香穂子がかなり遠慮をしていることを、直に感じられた。 後は、心配せずに進学をするようにとこちらから言うしかないだろう。 それでも香穂子の遠慮は取れないかもしれない。 しかし遠慮をして欲しくはない。 香穂子がプロのヴァイオリニストになるというのが、吉羅の究極の夢なのだから。 香穂子が世界中の人々をヴァイオリンで癒すのが、吉羅にとっては至上の夢なのだ。 だからどのような援助も惜しまない。 ただ、香穂子をそばに置いて一生離したくないという気持ちもある。 ヴァイオリニストとして大成して欲しいと思いながらも、いつまでも自分のそばにいて欲しいと思うところもある。 かなり複雑な気分だ。 「金澤さん、有り難うございます。私から日野君に連絡をします。心配する必要は何もないことを伝えるつもりです」 吉羅は静かに言うと、部屋を出た。 香穂子は考え事をしながら、中庭を歩く。 正直言って、進学はしたい。 ずっとヴァイオリンを弾いていたい、勉強をしていたい。 だが甘えて良いのかとも思ってしまう。 「あ、吉羅さん」 駐車場に向かって足速に歩いて吉羅を見つけ、香穂子は走っていく。 「吉羅さん!」 香穂子が声を掛けると、吉羅は足を止めてくれ、振り返った。 「日野君」 「こんにちは」 香穂子が挨拶をすると、吉羅はフッと微笑む。 「こんにちは」 「…あの、少し…ご相談したいことがあるんですが、訊いて頂けませんか…?」 香穂子がおずおずと言うと、吉羅は静かに頷いてくれる。 「解った。聞こう」 吉羅の言葉に、香穂子はホッとして頷いた。 |