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香穂子が行ってしまった後、吉羅は一瞬だけではあるが茫然とした。 まさか香穂子が、ただ吉羅とキスをしたいと思ってキスをしてくれたなんて、思ってもみなかった。 吉羅も、保護欲に駆られてキスをしたわけではない。 純粋に香穂子にキスをしたいからキスをしたのだ。 吉羅の心は熱くて甘くなる。 お互いにキスをしたかったからしたのだ。 決してマイナスの感情を払拭するためではない。 それが吉羅には嬉しかった。 本当に嬉しくてしょうがないことだった。 吉羅は、自分が同じ気持ちであることを香穂子に伝える為に、彼女の部屋に向かった。 我ながらなんて大胆なことをしてしまったのだろうかと、香穂子は思った。 思い出しただけで、顔から炎が出てしまいそうだ。 耳まで熱くて苦しくなる。 ただ吉羅に自分の気持ちを知って貰いたかった。 ただそれだけだ。誤解をさせたくはなかったのだ。 だが、それにしてはかなり大胆な行動に出てしまったと思った。 まさか吉羅にキスするなんて大胆なことをしてしまうなんて思ってもみなかった。 本当にキスをしたかった。 ただそれだけだ。 ジタバタと暴れてしまいたくなり、香穂子は牛のようにウロウロと歩き回った。 部屋のノックがして香穂子はびくりと飛び上がる。 吉羅しかいない。 香穂子は息苦しくなるのを感じながら、そっと部屋のドアを開けた。 恥ずかし過ぎて吉羅の顔をまともに見ることが出来ない。 そっと顔を出すと、吉羅がフッと柔らかいシルクのような笑みを浮かべた。 「…私も…君の誤解がときたくなってね」 吉羅は静かに言うと、香穂子の手をそっと握り締めてくる。 その優しい温かさに、ほんの少しだけ安堵した。 「…少し良いかね?」 「…はい…」 ついお説教をされると思った。 だが、吉羅は再び香穂子の唇を甘く奪ってくる。 しっとりとしたキスを受けていると、恥ずかしさが何処かにいってしまった。 唇が離れた後、香穂子はドキドキする余りに苦しくなる。 だがそれは幸せな苦しさだ。 「…日野君…、私も君にキスをしたかったから、キスをしたんだ。君を宥める為にキスをしたわけじゃない」 「…はい…」 吉羅がただの保護欲だけでキスをしたのではないと知って、香穂子はほんの少しホッとしてその顔を見ると、再び唇を奪われた。 何度も甘いキスを交わした後、香穂子は吉羅に抱き寄せてくる。 その抱擁が気持ちが良くてうっとりとしてしまいそうだった。 ふたりはただしっかりと抱き合っていた。 やがて吉羅に頬をそっと撫でられた。 「…君にキスしたかった…」 吉羅の蕩けるような甘い声で呟かれると、香穂子は酔っ払ってしまいそうになる。 このまま熱で溶けてしまいたい。 そう思った瞬間、吉羅に再び唇を奪われた。 何度も音を立てて唇を重ねながら、香穂子はうっとりとした気分になる。 吉羅に抱き締められながら受けるキスは、何よりもの幸せと甘い感覚を運んでくれた。 キスを受けた後、吉羅は香穂子を抱き上げてくれる。 「ここのベッドは狭い…。私のところに来なさい…」 吉羅に呟かれて、香穂子はそのままはにかみながら頷く。 今はこの情熱があれば、他には何もいらないのだから。 香穂子はうっとりとした気分になりながら、吉羅の首に腕を巻き付けた。 吉羅のベッドルームに入るのは初めてで、それだけでふわふわとした気分になった。 少しだけ息苦しいが、大丈夫だ。 吉羅は優しく香穂子をベッドに寝かせると、その頬を愛しげに撫でてくれた。 「…君のことは何があっても全力で守る…」 「…有り難うございます…」 女が一番囁いて欲しいだろう言葉を、吉羅は独特の甘い声で囁いてくれた。 「…私も、吉羅さんを精一杯守りますから」 「頼もしいね…。私は君を頼りにしているよ」 吉羅がフッと笑みを浮かべてくれ、香穂子もそれに釣られるようにニッコリと微笑んだ。 吉羅に頬をゆっくりと撫でられると、こんなに幸せなことはないと思ってしまう。 吉羅は軽く香穂子の唇を奪うと、ゆっくりとワンピースを脱がしにかかってきた。 吉羅に肌を晒すのがとても恥ずかしくて、香穂子は頬をほんのりと紅に染め上げた。 きっとこんな痩せっぽっちの躰なんて、吉羅にとっては少しも魅力的ではないだろう。 だが、それでも綺麗だと思って貰いたかった。 ベッドルームの雰囲気が美しく見せてくれると期待していた。 吉羅は器用に無駄な動きなど一切なく、香穂子の衣服を脱がしてしまう。 その器用さに驚くばかりだ。 「…日野君…、君は本当に綺麗だね…」 吉羅にしみじみと言われて、香穂子は嬉しさの余りに耳を真っ赤にする。 恥ずかしがった表情には、嬉しさが滲んでいた。 「…吉羅さん…」 香穂子が熱っぽいまなざしで吉羅を見つめると、ネクタイを緩めてシャツを手早く脱ぎ捨てた。 なんて綺麗なボディラインなのだろうかと思う。 こんなにも美しい躰は、美術の教科書ぐらいでしか見たことはなかった。 「…綺麗です…」 「有り難う…。だが私にとっては君こそ美しいと思うがね…」 吉羅はフッと笑みを浮かべて呟いた後、香穂子の躰に覆い被さってきた。 香穂子は、吉羅の逞しくも鍛えられた美しい躰を受け取ると、しっかりと抱き締める。 こんなにも綺麗な躰は他にない。 そうお互いに思っていられるのが、嬉しかった。 吉羅は香穂子をゆっくりとしかも情熱的に愛していく。 躰にキスを受けていないところはないのではないかと、思ってしまうほどだ。 キスをされる度に、吉羅の大きな愛情で守られているのを、ひしひしと感じずにはいられなかった。 吉羅が与えてくれる情熱も愛撫も官能も、総てが素晴らしくて、香穂子を幸せな気分へと導いてくれる。 こんなにも素敵で幸せな瞬間は、他にないのではないかと思った。 口では言い表すことが出来ないほどの快楽に、頭や躰が痺れてしまい、気を失ってしまった。 意識を手放すほどの快楽なんて、香穂子は今まで知らなかったから、驚いてしまった。 だが吉羅は、それがとてもロマンティックで良いことであることを教えてくれた。 官能でぐったりしている香穂子を、吉羅はしっかりと抱き締めてくれる。 ほわほわとした幸せに、思わず笑みが浮かんでしまう。 「本当に幸せです」 香穂子の満ち足りた言葉に、吉羅は微笑んで抱き締めてくれる。 「…これからひとつになるよ…。もっと満ち足りた気分になるだろう…」 「はい…」 ひとつになるなんて、どのような感覚なのだろうか。きっと満ち足りたものに違いない。 だがほんの少しだけ怖くもある。 初めてはかなり痛いと聞かされているから。 不安になって吉羅を見つめると、宥めるようにフェイスラインを撫で付けてくれた。 「大丈夫だ」 「はい」 吉羅の言葉を信じて、香穂子はその身を吉羅に預けた。 「あっ…!」 こんなにも熱くてロマンティックな感覚は他にない。 かなりの痛みを伴ったが、それでも涙が滲むほどの痛みが、徐々に和らいでいくのを感じた。 やがて、先ほど経験をしたよりももっともっと素晴らしい感覚が、香穂子の躰を満たしてくれた。 躰がバラバラになってしまうのではないかと思うほどの快楽に、香穂子は完全に溺れてしまった。 吉羅の渾身の力を全身に感じた時、意識を自ら望んで手放した。 このまま吉羅の熱に支配されたい。 想いはそれだけだった。 |