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何処までも青い空を見ていると大丈夫だと思える。 未来は明るいに違いないと信じたくなる。 香穂子は空を見上げながらそう思った。 吉羅とふたりで海辺のドライブデートをするのは、とても素晴らしい経験だ。 「やっぱり海は良いですね。爽やかで気持ちが良いです」 「はい。有り難うございます」 香穂子は笑顔で言いながら、吉羅をじっと見つめた。 「こうしてずっと吉羅さんと一緒にいられるのがとても幸せです」 「私も君と一緒にいられるのがとても幸せだよ」 「はい。私もです。この時間を大切にします」 「大丈夫だ。私たちはまた逢えるのだからね。その時はもう離れることはないんだから」 「はい。そうですね」 「私には長くて短い二年間になるだろうがね」 吉羅は何処か切なそうに話す。その声を聞きながら、香穂子は泣きそうになった。 これから先の二年間、どうか吉羅の気持ちが変わらないように。 心変わりなんてしない。 心変わりをする男性なんて愛してはいない。 愛した吉羅がそのように心変わりするはずないと、香穂子は強く思った。 吉羅と新鮮な魚介でランチを食べる。 「やっぱり漁港が近いと違いますね。本当にカルパッチョとかとても美味しいですよ」 「確かにここの魚介は新鮮で美味しいからね」 「暁彦さんのお陰で、私も随分と食通になりました。感謝していますよ」 香穂子は本当に美味しい食材を味わいながら、吉羅に頷く。 「また二年後には色々なところに行こう」 「はい」 二年後。 香穂子にとってはもう明日のことなのだ。 吉羅と一緒に、明日からもこうしていられたら良いのにと祈るしか出来なかった。 ランチを取った後、吉羅とふたりでのんびりとドライブをしたり、気紛れに車を停めては散歩をしたりする。 それがとても幸せだ。 香穂子は吉羅と手をしっかりと握り締めて、のんびりと散歩をする。 何も話さなくても、こうして歩いているだけで楽しかった。 「この近くにかき氷の美味しいところがあるから寄って行こうか」 「はい。有り難うございます」 吉羅と一緒にまさかかき氷を食べることになろうとは思いもよらなかった。 「暁彦さんは甘いものもお好きだったんですね」 「まあ嫌いではないけれどね」 「だったら好きなんですね」 香穂子がくすりと笑いながら言うと、吉羅もまたフッと笑う。 吉羅の“嫌いじゃない”は“好き”だということなのだ。 「だけどこちらのかき氷、本当に美味しいです!」 「それは良かった」 香穂子がニコリと笑うと、吉羅も笑う。 こんなにもよく笑ってくれやしなかった。 今、こうして笑い掛けてくれることが、“特別”だと感じるには充分だ。 かき氷を食べた後、ふたりはのんびりと散歩をする。 それがまた楽しい。 「吉羅さん、本当に楽しいです。外が眩しくて暑いのは堪らないけれど、それでもこうして一緒に歩けるのが楽しいです。まあ、さっきまであんなに涼しかったのに、今はこうして暑いのは困ったものですけれど」 「かき氷での避暑は所詮こんなものだよ」 「確かに」 ふたりでのんびりと歩いて、駐車場に停めてある吉羅の愛車のドアを開けると、流石に気持ちが悪いぐらいに暑かった。 「直ぐに冷房をかけるが、日除けをしていてもこれぐらいなんだね」 「…そうですね。それだけ夏は強烈な暑さだということですよね」 「その通りだね」 シートの革の部分に触れると、熱さでふにゃふにゃしているのが解る。 流石の香穂子もこれには参ってしまった。 「本当に熱いですね」 「そうだね。エコではないが、エアコンディショナーをかけなければならないね」 「そうですね」 エアコンディショナーをかけて暫くしてから、ふたりは車に乗り込んだ。 「ようやくですね」 「そうだね」 吉羅はサングラスを掛けてハンドルを握ると、静かに車を出してくれた。 「今夜は、ホテルに部屋を取ったから、先ずはチェックインをしようか…。ふたりでゆっくりとしたいからね」 「…はい」 楽しい時間は、本当にあっという間に時間半過ぎる。 香穂子は時間の流れるスピードがこんなにも早いなんて思ってもみなかった。 「…早いですね…。素敵な時間は本当にすぐ過ぎてしまいますね…」 「そうだね。楽しい事、素晴らしい事がある時は、いつも時間が過ぎるのは早いね。だからこそ、めいいっぱい楽しもう」 「はい」 車は横浜にある外資系の高級ホテルに向かう。 ベイサイドビューがとても美しいホテルだ。 スィートに通して貰い、香穂子は幸せな気分で、部屋に入った。 「吉羅さん! 本当に海は最高に綺麗ですね!」 燥いでいると、吉羅が不意に背後から抱き締めてくる。 「確かに綺麗な景色だね…。君を抱き締めながらこうして景色が見られるのは、私にとっては最高に素晴らしいことのひとつだよ」 「私もこの光景を忘れません」 絶対に忘れない。 吉羅とふたりで見たこの景色のことを。 吉羅との想い出を沢山作る事が出来た。これからもそれを増やす事が出来ればと思わずにはいられない。 「…また今度、二年後に来よう…。ふたりで…」 「はい!」 香穂子が笑顔を零すと、吉羅もまた笑顔を向けてくれる。 「有り難う。約束をしよう」 「はい」 吉羅とふたりで笑顔になりながら、どちらからともなく指切りをする。 お互いにまたここに戻って来るために。 「二年後の今日、この部屋の予約を取っておこう。ふたりでもっともっと幸せな時間を過ごそう」 「はい」 約束は守られるためにあるのだから。 香穂子はそれを信じて、吉羅に笑顔を向けた。 ホテルの中にある高級レストランで夕食を取り、美しい夜景を見つめる。 じっと見つめて、食事をする。しかも、大好きな男性と一緒だ。 香穂子はそれが嬉しくて、ロマンティックで、うっとりとした気分を味わった。 「有り難う、暁彦さん、本当に想い出になります」 「じゃあ、このレストランのこの席も予約をしておこう。同じシチュエーションで、もっと幸せな気分を味わおう」 「はい、楽しみにしています。私にとってはほんの数日後のことなんですけれどね」 「そうだね…。私はこの二年後を楽しみにして、後は君の成長を楽しみにして、ずっと待っているよ」 「頑張って成長しますっ! あ…、私が成長するんですけれど、過去の私が頑張るってことですよね…。あ、ちょっと違いますね」 香穂子が苦笑いを浮かべると、吉羅もまた笑う。 「そうだね。少し違うかもしれないね」 吉羅の笑顔が素敵過ぎて、香穂子は思わず苦笑いをする。 約束をする。 それは未来に希望があること。 香穂子は未来が素晴らしい時間になると、信じて疑わなかった。 吉羅は、フロントで二年後の予約シートを受け取った。 そこには、二年後に今回と同じ部屋を予約することと、レストランを予約することが書かれていた。 それが入った封筒を、吉羅は大切に受け取る。 大切で大切で堪らないものだ。 「これからはこの封筒が私の宝物のひとつになるね」 「そうおっしゃって頂けると、とても嬉しいです。有り難うございます」 「ふたりの宝物だ」 「はい」 ふたりで客室に戻ると、テーブルの上にはシャンパンが置かれていた。 「お風呂の後に飲もうか…」 「はい…」 吉羅に不意に抱き寄せられる。 「手っ取り早く、ふたりで入ってしまおう…。一緒にね」 甘い誘惑に、香穂子は抗えなかった。 |