*きみが奏でる物語*

11


「おい…、日野…」
 土浦が驚いたようにこちらを見つめた後、吉羅を威嚇するように見つめる。
「…大丈夫だよ。私の大事なひとだから…」
 香穂子はやんわりと微笑みながら、土浦に言う。
「じゃあ着替えて来ますね、吉羅さん」
「ああ…」
 吉羅は香穂子に静かに頷いてくれる。
 香穂子は素早くドレスを着替えに行った。
 あの一緒にいた女性は、何処に行ってしまったのだろうか。
 香穂子はそんなことを考えながら、素早くワンピースに着替えた。
 アップしていた髪を、素早く下ろすと、ふんわりとカールがついている。
 ふわふわしていて、香穂子は何だか華やいだ気分になった。
 更衣室から出ると、手持ちぶさたなスタイルで吉羅が待ち構えている。
「お待たせしました」
 香穂子が声を掛けると、吉羅にいきなり手首を思い切り握り締められてしまった。
「…吉羅さん…」
「行こうか」
 吉羅は、まるで香穂子を離したくはないとばかりに、しっかりと手を引っ張っていく。
 それが戸惑いと共にときめきを生む。
 こんなことを吉羅がしたのは、恐らく初めてではないかと思う。
 その強さが、ほんのりとときめきを感じさせてくれた。

 吉羅は、香穂子を助手席に乗せると、直ぐに家に向かって走り出す。
 先ほどは、本当に嬉しかった。
 “大切なひと”だと、香穂子が言ってくれたのだから。
 こんなにも嬉しいことは、他にはないのかもしれない。
 香穂子が愛しい。
 また先ほどよりも更に愛しいと感じている。
 不思議な女だ。
 一秒を重ねるごとに、魅力的になっていく女は、本当に珍しいと思う。
 吉羅は、香穂子をもう誰にも渡すことは出来ないと、強く感じていた。
「…吉羅さん…」
 香穂子が不意に声を掛けてきた。
「…先ほどご一緒だった女性は送らなくても構わないんですか…?」
 香穂子は本気で心配しているようだ。
 それが嫉妬ではないところが、吉羅には気に入らないところだった。
「…彼女は自分の家の車で帰った。君が心配することはないんだ…」
「…はい…」
 吉羅はつい冷たい調子で言ってしまう。
 すると香穂子が辛そうな表情をした。
 吉羅はあえて口を開かずに、このまま運転に集中することにした。
 横浜山手の馴染みの坂を上がり、ようやく家にたどり着いた。
 車を降りるタイミングで、香穂子の携帯電話が鳴り響く。
「はい、日野です。あ、土浦君。うん、無事に家に着いたよ。有り難う、心配してくれて…。本当に大丈夫だから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。有り難う」
 香穂子が電話を切ると、頬を上気をさせて吉羅を見る。
 あまりにも華やいだ表情。
 吉羅の中で何かが音を立てて崩れた。
 誰にもやらない。
 やりたくない。
 吉羅はそう思うと、香穂子の手首を思い切り掴んだ。

 吉羅に手首に痕が着くぐらいに力強く握られて、香穂子は厳しい痛みを感じた。
「…吉羅さん…痛いです…」
 香穂子が苦しげに言っても、吉羅は力を緩めようとはしない。
「来るんだ」
 吉羅は低い声で言い放つと、香穂子を自分の寝室へと連れていった。
 今夜の吉羅は紳士的ではない。
 いつもの吉羅からは想像出来ない。
 寝室に連れていかれたかと思うと、そのまま抱き上げられる。
「…日野君、…いや…香穂子…。君は…、男と言うのがどういうものか、解ってはいないね…」
「…え?」
 吉羅が何を言っているのかが、解らない。
 吉羅を見つめると、かなり厳しいまなざしを香穂子に向けてきた。
「…吉羅さん…」
「…私以外の男に、誘惑するようなまなざしを送ってはならないよ…」
「…送ってなんかいません…」
 それは本当だ。
 吉羅に対しては、そのような表情をしていたかもしれないが。
 それは吉羅に恋をしているが故なのだ。
「…私…そんなことを…していません…」
 声を震わせながら、そう言うのがやっとなのだ。
「…吉羅さん…」
「君にはきちんと言い聞かせなければならないね…」
 吉羅は静かに言うと、香穂子をそのままベッドに軽く投げる。
 怪我をしないようにあくまで紳士的なのは、吉羅らしい。
 香穂子は緊張で頭が変になってしまうのではないかと思っていると、吉羅がいきなり覆い被さるようにキスをしてきた。
「…んっ…!」
 初めてのキスはとてもロマンティックだと思っていたのに、こんなにも荒々しくて乱暴だなんて思いもよらなかった。
 吉羅は、香穂子の唇を自らの舌でこじあけると、深く深くキスをしてきた。
 苦しいほどのキスに、香穂子はどうにかなってしまうのではないかと思った。
 吉羅は香穂子の口腔内をしっかりと侵してくる。
 その力強さに、香穂子はくらくらになる。
 どうして良いかが解らない。
 だが、抵抗することは出来なかった。
 吉羅だからこそ、香穂子は荒々しいキスを受け入れられたのだから。
 もう呼吸が出来ないほどにキスをされて、限界が近付いた時に、唇を離された。
 どうして良いかが解らずに、香穂子は潤んだ瞳で、吉羅を見つめることしか出来なかった。

 潤んだ香穂子の瞳は本当に艶やかで、理性が吹き飛んでしまう。
 香穂子のすんなりとした白い首筋を見ていると、そのまま奪いたくなった。
「…香穂子…」
 吉羅は香穂子の名前を、甘く切迫した気分で呼ぶと、そのままワンピースのファスナーに手を当てた。
 香穂子が僅かに身動ぎをする。
 やんわりとした抵抗。
 あくまで強くはない。
 吉羅はそのまま一気にワンピースをはぎ取ると、香穂子の白い肌に唇を寄せてきた。

 吉羅にワンピースを脱がされている。
 それでも抵抗出来ない自分がいることを、香穂子は知る。
 やんわりと身動ぎをして抗議をしたが、それ以上は出来なかった。
 冷静な部分では、そんなことをしてはいけないと言っているのに、その先を進みたいと思っている自分がいる。
 そのせめぎあい息苦しくなる。
 吉羅は香穂子の首筋に唇を強くつけると、そのまま抱き締めてきた。
 鼓動がおかしくなる。
 自分の中でずっと眠っていた感覚が、熱となって噴き出してくるのを感じた。
「…あ…っ!」
 自分の声だとは思えないほどに甘くて切ない女の声が漏れる。
 吉羅はその声に導かれるように、香穂子の下着をはぎ取り、柔らかな胸に両手をあてがった。
 躰が強張る。
 未知なる経験に香穂子は、どうして良いかが解らなかった。
「…君は本当に素晴らしい…」
 吉羅の声に、香穂子の躰から力がするすると抜けていく。
 そのまま熱に冒されたように、吉羅の思うがままに躰を預けてしまった。

 香穂子の乳房に触れた瞬間、吉羅は甘くて切ない幸福に包まれる。
 滑らかで柔らかなそれは、吉羅を狂わせるには充分だった。
「…香穂子…」
 香穂子の乳房を柔らかくもみほぐしながら、薔薇色の突起に唇を含んだ。
「…んっ…!」
 吉羅の唇の動きに、香穂子が初々しく乱れている。
 それが本当に可愛くて、愛しくてしょうがなかった。
「…香穂子…」
「…んっ、あっ…」
 震える香穂子を、もっと感じさせてあげたくなった。
 吉羅は香穂子の柔らかな肌と感覚に溺れていく。
 これ以上の感覚は他にないと思った。

 吉羅に乳房を愛撫されて、香穂子は息が出来ないほどに溺れていくのを感じる。
 こんなにも感じるなんて思ってもみなかった。
 躰の奥深くにあるところが熱くなる。
 頭が痺れるような感覚に溺れながら、香穂子は吉羅にしっかりと抱き着いた。
 これでもう戻れない。



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