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吉羅に手を引かれて車に乗り込む。 吉羅は帰ってしまうのだろうか。 確かにまだ高校生だから、そのようなことをするのに問題はある。 ましてや吉羅は香穂子の保護者なのだから。 結局はいつものように横浜の家に戻るのだろうと思った。 「明日は日曜日だからね。ゆっくりすることが出来るだろう」 吉羅が向かった先は横浜であったが、自宅ではなく夜景が美しい高級ホテルだった。 「…吉羅さん…」 先程までは家に帰るとばかり思っていたのに、ホテルに着いてしまい、香穂子は焦る。 「香穂子…、行こうか」 「あ、は、はいっ」 吉羅にしっかりと手を握り締められて、香穂子は覚悟を決めてホテルへと向かう。 吉羅は大人の男性なのだから、こうなるのは当然だ。 香穂子は少し早くその機会が来ただけだと思い、緩やかに深呼吸をした。 吉羅はホテルでチェックインをし、そのまま香穂子を部屋に連れていってくれる。 「オーシャンビューの部屋だ」 吉羅とロマンティックにオーシャンビューの部屋で過ごすことが出来るなんて、こんなにも嬉しいことは他にない。 香穂子は思わず笑顔になった。 「有り難うございます」 「大人のデートだからね。君とはずっとこうしたデートをしたいけれどね」 「私もです」 こうして吉羅と甘い大人の時間が過ごせることが、香穂子には嬉しい。 同時にほんの少しではあるが緊張してしまう。 部屋に着くと、そこは憧れのジュニアスィートだった。 「…いかがかな? 私のお嬢さん」 「素敵です…!」 このように素敵な部屋に泊まったことなんてない。 とても美しくてロマンティックな場所だ。 香穂子は小さな子どものように窓辺まで走っていく。 こんなにも楽しい気分は他には経験出来ない。 窓から見える横浜の街はとても綺麗で、ロマンティストな香穂子の心に火を着けた。 「本当に素敵だな…」 香穂子はポツリと呟くと、じっと窓の外を見つめた。 「とても気に入ったようだね?」 「もちろんです。こんなロマンティックな夜景は他では見られませんから」 「そうだね」 吉羅は柔らかく呟くと、香穂子を背後から抱き締めてくる。 吉羅の温もりに息が苦しくなるほどドキドキしてしまう。 「…吉羅さん…、あ、あの…、うちと学院は…、あのあたりですか…」 「そうだね…。あのあたりだ…。あのあたりで私たちはいつも幸せを作っているんだよ…?」 「…そうですね…。いつもあのあたりで、私たちは笑顔を作っているんですね…」 「そうだね…」 吉羅に更に抱き締められて、香穂子は熱い吐息を宙に吐く。 緊張する。 だが、このまま抱き締められていたいと思う。 吉羅にずっと。 香穂子の女の部分から、熱いときめきがわき出てくる。 女として吉羅のものになりたいと甘く囁かれているのが解る。 「…緊張しているかね…?」 「…かなり…」 香穂子が正直に言うと、吉羅は柔らかな笑みを零す。 「…リラックスするためにお風呂にでも入っておいで…? 良いね」 「はい、有り難うございます…」 吉羅に抱擁を解かれると、香穂子はほんのりとがっかりした気分になる。 もっと抱き締められていたいと思わずにはいられない。 「バスルームの中には、化粧品のアメニティも充実しているからね…。入っておいで」 「有り難うございます…」 吉羅に言われるがままにバスルームに入る。 そこでまた驚いてしまう。 ジュニアスィートなだけあり、浴室も広くてゆったりとしている。 香穂子は嬉しい驚きに、思わず目を見開いた。 「やっぱりバスルームまで素敵な仕様なんだね…」 香穂子は頷きながら、バスルームを堪能することにした。 だが、髪や躰を洗ううちに、吉羅を強く意識をしてしまっていた。 入浴剤が入ったバスタブのお湯で肌をマッサージする度に、どうしようもないほどにロマンティックな緊張が走る。 吉羅のものになる。 その事実が香穂子のこころと肌を敏感にさせた。 何度も深呼吸をしながら、香穂子は肌を磨きこんでいく。 ロマンティックでどうしようもないぐらいに素敵な気分だった。 お風呂をゆったりと堪能して、用意されているバスローブに袖を通す。 するとドキドキ電車が走り出してしまうのが解った。 服をハンガーに掛けて、ゆっくりと吉羅が待つベッドサイドへと向かう。 すると、吉羅はネクタイを外しながら夜景を見ていた。 「…吉羅さん…」 香穂子が声を掛けると、吉羅が振り返る。 なんて艶のある大人の男性なのだろうかと思う。 恐らくはこれ以上の男性はいないだろう。 生涯かけても、吉羅のような男性は見つからないかもしれない。 「…じゃあ私もシャワーを浴びてこようかな」 「ど、どうぞごゆっくり…」 香穂子は焦るように言いながら、吉羅をバスルームへと見送った。 髪も乾かして、そしてボディクリームも塗った。 総てにおいて準備がなされた。 後は、吉羅を待つだけなのだ。 そう思うと、心臓が暴走機関車になってしまう。 暴走し過ぎて転覆してしまうのではないかと、香穂子は思った。 落ち着かない。 どうして良いかが解らない。 香穂子はキングサイズのベッドを見て、余計にうろたえてしまった。 「…ど、どうしたら良いのかな…」 香穂子はベッドに近付くだけで震えてしまい、結局ソファにしか座ることが出来ない。 どうしようか。 ふと、ソファ前のテーブルに、シャンパンの小さな瓶が置いてあるのに気付いた。 怒られるかもしれないが、ほんの少しだけ飲んで景気づけをしたら大丈夫なのではないかと香穂子は思った。 「ちょ、ちょっとだけ…」 香穂子は小さく言うと、既に空いていたシャンパンの栓をそっと取り、一口分だけシャンパングラスに注いだ。 本当に大人の女性になったような気分だ。 これで程よく酔えるだろうか。 香穂子は笑みを零すと、ほんの少しだけシャンパンに口をつけた。 「…美味しい…」 香穂子は目を大きく丸くして言うと、更に甘いシャンパンを飲み干す。 「…美味しい…あれ…?」 急に躰が熱くなり、ふんわりとまろやかな気持ち良い気分になってしまう。 「…あ、あれ…、なんか気持ち良い…」 ふわふわした気分で気持ち良くなってしまい、先程のような緊張は何処かに行ってしまう。 本当に気持ちが良くて眠気すらもよおしてくる。 「…何だか気持ちが良くなってきちゃった…。晩酌後のお父さんの気持ちが解るよ…」 香穂子はそのまま目を閉じると、ソファに倒れ込んでしまった。 吉羅がバスルームから出ると、ソファで眠っている香穂子を見つけた。 ソファ前のテーブルを見ると、シャンパンをほんの少しだけ飲んだ後がある。 「…原因はこれか…」 吉羅は苦笑いをすると、気持ち良さそうに眠る香穂子を抱き上げる。 恐らくは緊張をし過ぎてしまい、シャンパンの力を借りようとしたのだろう。 吉羅は香穂子をベッドに運び、そのまろやかな頬に唇を寄せる。 香穂子を寝かし着けると、吉羅は溜め息を吐いてバスルームへと戻った。 心地好い温かさに香穂子は目を覚ます。 ハッとして目を見開くと、吉羅の腕の中にいた。 ベッドサイドのデジタル時計を確かめると、午前十二時を少し回ったぐらいだ。 「…目が覚めたのかね?」 優しい声とともに吉羅の瞳が開けられる。 そのまなざしを見た瞬間、香穂子の胸はきゅんと鳴り響き、吉羅への想いでいっぱいなる。 大好きな気持ちを表現をしたい。 「大好きです」 香穂子は、吉羅を思い切り抱き締めて、ぎこちないが丁寧にキスをする。 そのまま吉羅に組み敷かれた。 |