*Limited Lovers*


 後悔なんてしない。
 それどころか最初から香穂子には、吉羅に関して言えば“後悔”なんて言葉はなかったのだから。
 吉羅にしっかりと手を握られて、駐車場へと向かう。
 シンデレラにでもなった気分だ。
 香穂子は、吉羅をじっと見つめながら、魔法使いのおばあさんが魔法をかけてくれたのだと思った。
 それもとっておきの魔法を。
 魔法をかけて貰ったのだから、これ以上に幸せな気分は他にはないのではないかと思う。
 吉羅の愛車が、香穂子にとっては“かぼちゃの馬車”だった。
 吉羅の車にゆったりと乗り込んで、香穂子は躰をシートに預ける。
 これから先には素晴らしいことが待っている。
 きらきらと輝いた素敵な思い出だ。
 それが解る。
 吉羅の車は、みなとみらいにあるロマンティックな外資系ホテルへと入っていった。
 本当にロマンス小説のような展開だ。
 香穂子はうっとりとした気分で幸せに酔い痴れていた。

 バースデーだからと、吉羅は最高の演出を用意してくれていた。
 こんなにも幸せな瞬間はない。
 ずっとずっと夢見ていたことだから。
「吉羅さん、有り難うございます。夢みたいなバースデーです…」
 香穂子がうっとりと部屋を見渡していると、不意に力強く抱きすくめられる。
 そのまま野獣のようなキスが唇に襲いかかってきた。
 乱暴なキスだが、嵐のような熱情を香穂子に教えてくれる。
 このようなキスがあるなんて、思いもよらなかった。
 舌を口腔内に入れられて、激しい愛撫を受ける。
 こんなにも熱いキスは他にない。
 吉羅にぎこちなくでしか応えられない自分が、香穂子はもどかしくてしょうがなかった。
 キスの後、吉羅は香穂子の顔にかかる髪を、ゆっくりと指に絡める。
 そのまま抱き上げられて、クィーンサイズのベッドへと運ばれる。
 緊張とときめきが香穂子の全身を覆い尽くしていく。
 こんなにも狂おしい情熱が他にあるのだろうかと、香穂子は思わずにはいられなかった。
 ベッドに寝かされて、吉羅は香穂子の衣服を扇情的にはぎ取っていく。
 肌を晒すのは恥ずかしかったが、大好きな吉羅にはそれが出来るような気がした。
 香穂子を生まれたままの姿にした後で、吉羅はじっと熱い視線で見つめてくる。
 見つめられるだけで、胸がどうしようもないぐらいに高まった。
「…君はとても綺麗だ…」
 吉羅は熱っぽい声で囁くと、自らも生まれたままの姿になる。
 吉羅のネクタイを緩める姿も、シャツを脱ぐ仕草も、溜め息が出るぐらいに官能的だ。
 香穂子はうっとりとその様子を眺めていた。
 吉羅の鍛えられた躰が重なってくる。
 それが熱くてたまらなくて、香穂子は思わず息を乱した。
 吉羅の硬くて鎧のように逞しい躰と、自分の柔らかな躰がぶつかりあう。
 それだけで本当におかしくなりそうになった。
 こんなにも幸せでロマンティックで構わないのだろうかと、思う。
 吉羅は、香穂子の首筋や鎖骨の周りにキスの雨を降らせて、情熱を刻み付けてくる。
 なんて幸せなのだろうかと思うのと同時に、本当に嬉しくて泣きそうな気分だった。
 大好きな男性と肌を重ねるということが、こんなにも神聖で大切な行為だとは、思わなかった。
 まるで天国にいるかのように素晴らしい。
 いや天国にいるよりも素晴らしいだろう。
 天国に行けば、吉羅に逢うことなんて出来ないから。
 吉羅は、香穂子の乳房を下から持ち上げるように揉み上げ、唇で堪能するように愛撫をする。
 余りに官能的で激しい愛撫に、息が続かなくなる。
 苦しい。
 だが、止めて欲しくない。
 躰の奥が熱くなり、激しく吉羅を求め始める。
 熱いものが流れ落ちて、大好きな男性を求めている。
 香穂子は吉羅をしっかりと抱き締める。
 敏感で熱い部分を指先や舌先で愛撫を受け、香穂子はか細い肢体を何度ものけ反らせた。
 躰が沸騰をして、際限なく吉羅を求めているのが解る。
 本当に愛しくてしょうがないひとに抱かれている。
 行為が気持ちが、香穂子に信じられないほどの快楽を与えてくれた。
 甘く激しく喘ぎ、躰をのけ反らせる。
 頭の芯が痺れるぐらいに感じた。
 吉羅に隅々まで愛されて、これで切ない恋心が少しは報われると思った。
 艶やかな吉羅が、香穂子をじっと見つめる。
 見つめられるだけで、幸せだ。
「…今から君を私のものにする。構わないね…?」
「…はい…」
 たとえ一瞬間かもしれないが、それでも嬉しかった。
 吉羅は、香穂子の脚の間に躰をそっと押し入れる。
 熱くて高ぶった吉羅自身に触れられて、香穂子は蕩けてしまうほどに幸せを感じる。
 吉羅が気遣うように、香穂子の胎内に入ってきた。
 その力強さに息を呑む。
 香穂子は苦しい気分になりながらも、離れたくなくて吉羅にしがみつく。
 すると吉羅が躰を深く進めてきた。
 痛みが頭の先に及んで、香穂子は泣きそうになる。
 香穂子は痛みを何とか我慢をして、吉羅にすがりついた。
「…大丈夫かね…」
「…だ、大丈夫…っ!」
 苦しくて仕方がなくて、香穂子が堪えていると、吉羅が何度もキスをしてくれた。
「…大丈夫だ…」
「…吉羅さんっ…!」
 吉羅が腰を進める度に、香穂子は息を何度も止める。
 吉羅にすがっていると、いつしか痛みが和らいで行くのに気が付いた。
「…香穂子…、大丈夫かね…?」
「…もう…大丈夫です…」
 無理をしてにっこりと笑うと、吉羅が強く抱き締めてきてくれた。
「…暁彦さん…」
 香穂子が苦しげに名前を呼ぶと、吉羅は顔中にキスの雨を降らせてくれた。
 それが香穂子には嬉しかった。
 吉羅がゆっくりと動き始める。
 柔らかくて素敵なリズムに、香穂子はうっとりとしてしまいそうになる。
「…香穂子…」
 吉羅が名前を囁いてくれる度に、痛みは快感へと変わっていく。
 それが香穂子には嬉しかった。
 吉羅の動きが滑らかになる度に、香穂子は心地良さの余りにうっとりとしてしまう。
 その快楽に躰が沈み込んでしまうほどに溺れてしまうのを感じていた。
「香穂子…」
 吉羅が息苦しそうにしてくる。
 同時に動きが早急になっていくのを感じた。
 激しい吉羅の動きに、香穂子は目眩を覚える。
「…君は…っ、素晴らしいね…っ!」
「暁彦さん…っ!」
 吉羅の突き上げが激しくなる度に、香穂子は鼓動が早くなる。
 こんなにも激しく突き上げられれば、快楽へと上り詰めるしかない。
 香穂子は息を乱しながら、吉羅に抱き付いた。
 気持ちが良過ぎて、目を開けていられなくなる。
 こんなにも気持ちが良いなんて、思ってもみないことだった。
 吉羅に支配をされて、支配をして。
 これ以上の幸福は他にないのではないかと香穂子は思った。
 激しく突き上げられて、もう何も考えられない。
 香穂子は全身を弛緩させて、そのまま快楽に沈み込んだ。
 意識の奥で「ハッピーバースデー」が聞こえた。

 香穂子を抱いた後、吉羅は言葉では言い表すことが出来ないぐらいの幸福を感じていた。
 こんなにも幸せなことなんて他にない。
 吉羅は後始末をした後、香穂子を抱き締めた。
 ここまで夢中にさせられるなんて思ってもみなかった。
 だからこそ危険だと、吉羅は思う。
 愛など欲しがったところでろくな事はないのだから。
 吉羅はそう思うと、香穂子を見た。
 香穂子にのめり込むのは危険なのかもしれない。
 吉羅の理性が警鐘を鳴らす。
 本当に香穂子は危険だ。
 このままでは、自分の生き方を覆されてしまうかもしれないと、吉羅は危惧していた。



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