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「愛情が籠った、ロマンティックなものが、デートだと思っていますよ」 香穂子は小バカにされるとは思ったが、それでも構わないと思い、素直な気持ちを言葉にした。 案の定、吉羅は眉をあげて、皮肉げな態度をとる。 「……女性をとっかえひっかえされる吉羅さんには、きっと理解できないことでしょうけれど」 皮肉は皮肉で返さなければならない。 香穂子がわざと言うと、吉羅は全く無視をしてしまった。 「……だったら、君がロマンティックだと感じられるように、デートをプランしよう。そうだね、来週の土曜日というのは如何かな?午前中は仕事だから、午後からで。“ロマンティックなデート”に、相応しい格好をしてきたまえ。君が私にロマンティックを求めるなら、当然のことだろう?」 吉羅は、香穂子のハードルを然り気無く上げてくる。 望むところだ。 吉羅のスマートな負けず嫌いに、香穂子も堂々と応じなければならない。 香穂子は深呼吸をして気合いを入れると、少し勝ち気な笑みを吉羅に向けた。 「分かりました。楽しみにしています」 「ああ。私もね」 吉羅はフッと魅力的で、憎らしいぐらいに勝ち誇った笑みを浮かべると、香穂子を挑発するように見つめる。 負けない。 香穂子は強く思った。 ロマンティックなデートに相応しいスタイルとはどのようなものなのだろうか。 香穂子はよく解らなくて、色々と考えてみる。 大人でセレブリティな隙なし男である吉羅と、どうさしれば堂々と渡り合えるというのだろうか。 香穂子はそればかりをかんがえてしまう。 やはり、大人の女性らしいスタイルが良いのだろうかと思う。 高校生の頃とは違い、服選びも可愛いものばかりではなくなってきている。 だが、香穂子はまだまだ大人の女性になりきられてはいないと痛感している。 なかなか吉羅と釣り合うようにはなれやしないのだ。 それが香穂子の悩みの種でもある。土曜日まては余り日にちがない。だが、何とかしなければならない。 でないと吉羅に負けてしまうのだから。 そう思うと、香穂子は頑張らなければと、奮い起った。 吉羅を唸らせるために、香穂子は天羽のアドバイスを受けることにした。 天羽ならば、ファッションやメイクに精通しているから、良いアドバイスが受けられるのだ。 「洋服はさ、気品セクシーな路線で行こうよ。あからさまではなくて、可愛くて気品が満ちていてだけどセクシーな感じで。ほら、女優さんが魅せるあれよ」 「女優って……。ハードルをあげているね……」 「上げていないよ。香穂なら大丈夫だからさ、提案しているの。っていうか、あんたしか無理かも」 天羽はかいかぶっている。香穂子は強く思いながら、友人を見つめた。 「もう、そんな不安な顔はしないの!大好きなひとを驚かせて、女性として認めて貰いたいんでしょ?あの吉羅暁彦を唸らせることが出来るのはあんたしかいないんだからさ。自信を持ちなよ」 天羽に言われると、少しは勇気が出てくる。 背中を押して貰っているのは確かだ。 「うん、精一杯頑張ってみるよ」 「そうよ!それでこそ、恋する女の子だよ!!」 「うん!」 落ち着いた気品と可愛らしさが同居したワンピースを選んだ。 靴は足が綺麗に見せられる高さで無理のないヒールを選ぶ。 こうしているだけで、自分が綺麗になったのではないかと思わずにはいられない。 「後は、メイクだよね。香穂子は肌が綺麗だし、基がきちんと整っているから、ブラウンとゴールドの定番シャドウがやっぱり似合うと思うよ。後、リップは艶々にして、ヌードっぽいのを使おうよ。香穂にはこの気品セクシーメイクがぴったりだと、私は思っているよ」 「ありがとう」 香穂子が笑顔で礼を言うと、天羽は本当に嬉しそうに笑ってくれた。 「さあ自信を持つんだよ!ね、香穂は本当に綺麗なんだからね?」 天羽に言われると、本当に自信が出てくる。 こうして、香穂子のために最高のアドバイスをくれることを、心から感謝していた。 天羽のコーディネートで必要なものをショッピングモールで買い求め、香穂子は幸せな気持ちになっていた。 これで、吉羅に綺麗って言って貰えるだろうか。 ほんのりとした自信が滲んだ。 吉羅に綺麗だと言われたい。 可愛いと言われたい。 吉羅と釣り合えるようになりたい。 香穂子は恋心を切なく秘めながら、強く思った。 大丈夫。 きっと、大好きなひとには美しいと思って貰える。 強く願うと、香穂子は気合いがはいった。 綺麗になる準備は出来た。 香穂子は恋のテンションを上げながら、ショッピングモールを歩く。 清々しくも素晴らしい気分だ。 ふと、見慣れた隙のないスマートな男性の姿を見つけた。 大人の落ち着いた男の色気が漂った、セレブリティならではの背中だ。 それが誰かは直ぐにわかる。 吉羅だ。 横には、こちらも見事なまでに美しい完璧な大人の落ち着いた女性がいる。 お似合いだ。 美しい世界にいるふたりだと感じる。 二人だけの世界。 そこに香穂子は入れない。 入る余地など全くない。 香穂子は切ない気持ちになりながら、ただ見つめてしまう。 いくら綺麗にしても、いくら大人っぽくしても、それはメッキにしかならない。 内面のマチュアなところが欠片もないからだ。 だから吉羅の横にいても似合わない。 精一杯のことをしたとしても、釣り合わない。 香穂子は寂しい気持ちになった。 本当の意味で吉羅から自立をしなければならないと、香穂子は痛感する。 今度のデートが最初で最後になるだろう。 胸が苦しくて堪らなくなるような予感をしていた。 「香穂?」 天羽に声をかけられてハッとする。 天羽に吉羅が他の女性と一緒にいることを悟らせてはならない。 香穂子は咄嗟に天羽の意識を反らす。 「ね、久しぶりに横浜煉瓦を買いたいんだけれど、買いに謂って良い?」 「うん良いけれど、相変わらず甘いものが好きだよね、香穂は」 「そうだよ」 笑顔で明るく言いながら、香穂子はわざと鼻唄を歌う。 心はどしゃ降りでも、友達の前では笑顔でいたかった。 甘いもの。 甘いものが好きなひとが大好きなのだということを、改めて思ってしまう。 香穂子は、再び吉羅のことを思って苦しくなる。 大好きな人。 だけど一生、釣り合わないかもしれないと感じていた。
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