*背伸びをしても*


 吉羅の魅力からは逃れられない。

 香穂子はしみじみと感じずにはいられない。

 しっかりと結ばれた手をほどくことすら出来ない。

 吉羅には愛するひとがいる。それは解ってはいるが、香穂子は心底、抱かれたいと思った。

 女としての我が儘なのは、香穂子には充分に解っている。

 それでも抱かれたいのは、吉羅を愛しているからだ。

 香穂子は吉羅について行く。

 本当に最高の想い出になるかもしれない。

 香穂子は覚悟を決めて、吉羅を見た。

 フロントで手早くチェックインをして、ふたりで部屋に向かう。

 胸が様々な感情でいっぱいになっていて、香穂子は何も話すことが出来なかった。

 ただ、吉羅について行くことしか出来ない。

 部屋はジュニアスウィートで、想い出作りにはぴったりの場所だ。

 これぞ恋愛小説にあるような、ロマンティック。

 香穂子のために、お姫様のような気持ちにさせてくれるのだろう。

 手を繋いで、エレベーターに乗ってジュニアスウィートへと向かう。

 吉羅と一夜を過ごす。

 ロマンティックに想像して、くすぐったいこともあったけれども、今はそれがリアルに起ころうとしているのだ。

 緊張し過ぎて香穂子はどうにかなってしまいそうだ。

 吉羅は何も話さない。

 だから余計に緊張をしてしまう。

 客室階に到着して、吉羅がエスコートをして部屋のなかに入ってくれる。

 ドアの向こうは、ロマンス小説のような夢のような空間が広がっている。

 ここだけは現実ではないような気がしてしょうがない。

 別世界。

 これが一番しっくりとくる言葉だ。

 部屋に入ると、横浜の見事な夜景が見えた。

 ひとが作った星の光は、なんて美しいのだろうかと、思わずにはいられない。

 香穂子は吸い寄せられるように、窓際へと向かった。

 なんて豪華なのだろうかと、香穂子は思わずにはいられなかった。

「本当に見事な夜景だね」

 吉羅は低い声であまく囁いてきたかと思うと、いきなり背後から抱き締めてきた。

 香穂子は息が止まるのではないかと思うぐらいに、ときめきがせりあがって来て、どうしょうもない。

「……君がひとりの女性として扱って貰いたいようだからね……。だから私は、君を今日からひとりの女性として扱うよ。構わないね」

 吉羅は、腕に力を込めて、香穂子を抱きすくめてくる。

 抱きすくめられたら、吉羅に情熱を感じずにはいられない。

 香穂子は僅かに身体を震わせながら、吉羅に身を預けた。

 夜景なんてどうでも良くなる。

 吉羅しか感じられなくなってしまう。

 香穂子は頬を紅潮させながら、鼓動を激しく高まらせた。

「……香穂子……」

 吉羅は香穂子の名前を呼びながら、自分と向き合わせる。

 すると吉羅の顔がかなり近くて、鼓動を早めずにはいられなかった。

 唇が近づいてくる。

 拒むどころか、ロマンティックで映画やドラマのヒロインのように、そっと目を閉じた。

 すると吉羅の唇がゆっくりしっとり重なる。

 弾力がある、少し固い唇。

 香穂子はうっとりとしてしまう。

 現実のキスは、生々しいけれども、やはり想像以上にときめいてしまった。

 今までは、こんなにも情熱的なキスをしたことはない。

 これが本当の意味でのキスなのだということを、香穂子は改めて思い知らされた。

 吉羅は香穂子の唇を激しく吸い上げたり、口腔内を舌先で激しく愛撫をしてくる。

 膝がガクガクと震えるほどに愛されて、香穂子は身体の芯が沸騰して蕩けてしまうのではないかと思った。

 息をするのも忘れてしまうぐらいに、香穂子はキスに夢中になった。

 頭がぼんやりとしておかしくなってしまいそうなところで、吉羅はようやく唇を離してくれた。

 唇の周りが唾液でとろとろになってしまっている。

 身体が熱くてどうにかなりそうだ。

 ぼんやりと潤んだ瞳を吉羅に向けると、唇の周りをペロリと舐められてしまった。

 吉羅だから許せる、甘いイタズラな行為に、香穂子はもう立ってはいられないぐらいに潤んでしまう。

 吉羅は香穂子を抱き寄せて、何とか身体を支えてくれた。

「大丈夫かね?」

「……大丈夫なような、……大丈夫ではないような……」

 香穂子が苦笑いを浮かべながら呟くと、吉羅はくすりと微笑んで、香穂子の首筋に唇を押し当ててきた。

「正直な感想だね……。香穂子、私が求めているのは、このような愛だよ。君には本当の意味での、男と女の愛を教えなければならないと、私は思っているよ。それに、それが私が望んでいることだから」

 吉羅の言葉に、香穂子の甘い緊張とときめきは更に燃え上がる。

 ひとりの女性として、吉羅には愛されたい。

 そして、ひとりの男性とさして、吉羅を愛したい。

 香穂子は愛の覚悟を決めて、吉羅に総てを委ねることにした。

 愛する吉羅だからこそ、香穂子は総てを委ねることが出来た。

 香穂子は、吉羅をしっかりと抱き締める。

「……香穂子、一度、私に捕まったら、君は逃れることは出来ないよ。それでも構わないね?」

「……はい」

 香穂子は力強く頷いて見せる。

 吉羅に捕まって離れられないのならば、永遠に離れられないのは、今に始まったことではないから。

 そんなことはずっと昔からあったことなのだ。

「分かりました」

 香穂子は吉羅を真っ直ぐ見つめて、微笑む。

「だけど、吉羅さんも、覚悟してくださいね?私から逃げられないと……」

 本当はとても緊張しながら、香穂子は宣言をした。

 お互いに縛られて逃げられないのであれば、それでも構わないと、香穂子は思った。

「……分かった」

 吉羅は余裕のある声で囁くと、香穂子をいきなり抱き上げた。

 余りに突然だったから、香穂子は驚いて声をあげる。

「君が言う、ロマンティックだ」

 吉羅は余裕綽々といった雰囲気で、香穂子を見つめる。

 少し勝ち誇っているようにも見えた。

 吉羅は香穂子を抱き上げて、ベッドへと運んでくれる。

 ベッドはジュニアスウィートに相応しい。クィーンズサイズだった。

 こんな広い場所で、二人きりだなんて、余計に緊張してしまう。

 余裕なんてあるはずもない。

 吉羅は香穂子を、丁寧にベッドへと横たえる。

 まるでお姫様のように扱われて、香穂子はうっとりとした。

 だが、緊張せずにはいられない。

 吉羅は香穂子のワンピースに手をかける。

 ファスナーを下ろされて、脱がされてゆく。

 ときめきと期待、そして緊張で香穂子はどうかなりそうだった。

 



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