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香穂子と共に、このまま熱い時間を過ごしたい。 一緒に夜を迎え、一緒に朝を迎える。 1日の始まりと終わりは、香穂子と過ごしたい。 かつてはそう過ごしていたが、いつの間にか当たり前だと思うようになってしまった。 それは決して当たり前ではない筈なのだ。 あの頃の吉羅にはそれが分からなかった。 今なら解る。 それが特別なものであることを。 吉羅は甘く切なく感じながら、今度こそはそれを離したくないと思っていた。 いつしか暁愛が眠りにつき、おっぱいを吸わなくなる。 可愛い寝顔だ。 香穂子とふたりで温かな感情で、息子を眺めた。 「…眠ってしまいました…」 「本当に気持ち良く眠るね…。彼は…」 「…はい…」 ふたりでこうして見つめているだけで、幸せがふつふつと湧き上がってくるのを感じる。 こんなにも幸せなことは他になかった。 香穂子が、柔らかな乳房をそっと洋服に隠す様子を、吉羅はじっと見つめる。 こんなにも光り輝く温かな瞬間はなかった。 香穂子が授乳を終えても、吉羅はまだ抱き締めたままだった。 ずっとこのままでいたい。 そのような甘い感情がこころを満たしていく。 「あきちゃんを、ベッドに連れていかないと…」 「もう少しだけで構わない…。こうしていたいんだ…」 「吉羅さん…」 香穂子も同じように思ってくれていたからか、身動ぎをすることなく、総てを預けてくれた。 このまま一緒に眠れたらと思わずにはいられない。 好きだ。 愛しい。 いや、それ以上の存在だ。 総てをおいてでも、香穂子の幸せを祈りたいと思える存在だ。 「…香穂子…」 「…あ…」 その綺麗な首筋に傷つきたくはをせずにはいられなくて、吉羅はそっとキスをする。 愛しくて、愛しくて、しょうがない存在だ。 「…あきちゃんを…、あきちゃんを…、ベッドに連れていかなくてはなりません…」 「…解った…。私が連れて行こうか」 「有り難うございます」 吉羅が、香穂子に代わって抱き上げると、息子を部屋に運ぶ。 ベッドに寝かせた息子を見つめると、愛しさが込み上げてきた。 「この子は本当に可愛いね…。自慢の息子だ…」 「有り難うございます。私にもかけがえのない息子なんです…」 香穂子の愛に満ちた穏やかな表情は、本当に美しくて、吉羅は見惚れてしまう。 熱い感情がこころからわき出てくるのを感じていた。 「それじゃ、そろそろ寝ますね…」 香穂子はやんわりと言うと、潤んで艶やかなまなざしを吉羅に向ける。 このまま抱き締めて、愛し合うことが出来ればと思わずにはいられない。 だが早急に事を進めても、香穂子が戸惑うのは分かりきっている。 だからこそここは慎重にならなければならない。 吉羅は、焼け付くような欲望を押さえ付けながら、香穂子から離れる。 少しだけ触れたくて、そっと頬に唇を落とした。 「…おやすみ」 「…おやすみなさい」 いつも交わしていた挨拶の甘さが蘇り、吉羅は胸の鼓動が苦しくなるのを感じていた。 部屋から出て、吉羅は自分がいるべき場所へと向かう。 眠れないような気がした。 吉羅のキスの余韻が頬ににじんでいる。 こんなにも甘くて切ない感覚は他にない。 頬に触れると、ほんのりと幸せの匂いがした。 吉羅が見つめてくれていたまなざしを思い出すだけで、躰が熱くなるのを感じる。 艶と何処か敬ってくれているような光が交錯した、とても魅力的な瞳。 幸せな感情が蘇ってきた。 吉羅にあのような瞳で見つめられると、恋をせずにはいられなくなるではないか。 もう吉羅暁彦に恋をしないと決めたのに。 キスをして、抱かれたくなる。 香穂子は、かつて以上の甘い感情を滲ませると、溜め息を吐く。 今夜は眠れそうにない。 このままでは吉羅に溺れていく一方だ。 吉羅には溺れてはいけないと、自分に言い聞かせているのに、それも最早効かないようだった。 吉羅に以前よりも溺れてしまうかもしれない。 香穂子は、ふとあの女性を思い出す。 吉羅との破局のきっかけを作ったひと。 あのひととまだ続いているのだろうか。 続いているのならば、また同じような立場になるのだろう。 それが解っているのに、最早、感情を抑えることが出来なくなっていた。 本当に、人間は感情の生き物だと思う。 理性は感情に勝つ事が難しい。 好きになるのは、どんなことをしても止められそうになかった。 吉羅は上手く眠れなくて、結局は眠りを誘うために、飲み物に頼る事にした。 キッチンに向かうと、見慣れた影を見掛ける。 香穂子だ。 香穂子もまた眠れないのだろうか。 ほっそりとしているのにとても柔らかくて甘い肢体をしている。 こんなにも綺麗な躰のシルエットは、他にない。 掴まえて、このまま抱き締めたくなった。 「…香穂子、君も喉が渇いたのかね…」 「…少しだけ…。月に呼ばれたのかもしれません…」 香穂子は、リビングから見える見事な満月を見つめながら、くすりと笑った。 「…君は相変わらずロマンティストなんだね」 「オオカミ女かもしれませんよ? がおーって叫ぶためにここに来たのかもしれませんね」 香穂子がくすくすと笑いながら素直に言うのが、とても魅力的に映った。 本当に魅力的な女性だと思う。 今まで、自慢には出来ない程女性と付き合ってきた。 いつも最愛を見つけることが出来なくて、漂っていたのだ。 そうしてようやく最愛を見つけることが出来た。これが香穂子だった。 最愛だと自覚していたくせに、そう扱う事が出来なかった。 香穂子の純粋な想いを利用していたのかもしれない。 「一緒に飲まないかね?」 「有り難うございます。私はミルクを飲みます。殆ど授乳は離れましたけれど、あきちゃん、まだおっぱいを欲しがるので」 「では私も、ミルクに少しだけアルコールを落として飲む事にするよ」 「だったら一緒に温めますね。アルコールの量は、吉羅さんで調節されて下さいね」 香穂子は手早くミルクを鍋に入れて、人肌に温めてくれる。流石の手際の良さだ。 ずっとこうしてくれていたら、こんなにも嬉しいことはないのにと、吉羅は思う。 「…電気、つけなくても良いですよね? 折角、お月様がこんなに綺麗ですから…」 「そうだね…」 かつてふたりで暮らした短い日々にも、こうしてふたりで灯を消して月を眺めたことがあった。 とても綺麗で幻想的であったことを覚えている。 ふたりで背中をくっつけてのんびりと温かな飲み物を飲んだものだ。 「出来ましたよ」 「有り難う」 吉羅にミルクを渡してくれた後、そこにブランデーを数滴入れる。 芳醇な香りが心地好かった。 かつてのようにふたりでリビングに向かい、肩を並べて月を見上げる。 本当に美しくて、吉羅は恋をしたような気分になった。 「…本当に…綺麗だね…」 「…お月様、本当に綺麗です。いつまでも見ていたいですし、見て貰いたいって思います」 「そうだね。いつまでも見守っていて欲しいね」 「はい」 ふたりで目を合わせて、フッと笑う。 こんなにも温かくて、柔らかな感情を、吉羅は今まで知らなかった。 本当に愛しい。 恋をする熱情が、更に高まったような気分だ。 何も語らず、ふたりでミルクを飲むのがとても心地好かった。 絆が深まっているのを感じる。 ただ純粋に愛している。 ふたりは月を眺めながら、どちらからともなく寄り添っていた。 |