3
夢を見ているのではないかと、香穂子は思う。 目の前には、映画に出て来る素晴らしい俳優が演じる花婿よりも素敵な吉羅が立っている。 見つめられるだけで、見つめるだけで、脚がガタガタと震えてしまう。 それほどまでに素晴らしい。 セクシィでハンサムで綺麗で…。 沢山言葉を並べたとしても並べきられないほどに、今夜の吉羅は魅力的だった。 息を呑んで見つめていると、くらくらするほどに魅力的なモーニング姿の吉羅が近付いてきた。 何処か照れたような笑みを浮かべているが、香穂子を本当に魅力的だと思ってくれている熱いまなざしをくれる。 全身が燃え盛りそうだ。 こんな熱情が滲んだ官能的なまなざしで見つめられたら、このまま蕩けてしまうではないか。 鼓動がマラソンランナーのように早くなり、香穂子は喉がからからになった。 「…香穂子…素晴らしく綺麗だ…」 吉羅は感嘆の吐息が混じった声で囁くと、そっと耳に唇を近付けてくる。 「…このまま…君を抱きたくなるほどに…ね…」 低く艶やかな声で囁かれてしまい、香穂子はとろとろになるほどに甘い艶を感じ取った。 「…今夜は覚えておくんだね…」 吉羅の囁きに、香穂子はこのまま抱き上げられて、ふたりだけの世界に翔んで行きたいと思った。 「このままじっとしていたら、お二人が楽しそうに見つめ続けるから、行こうか」 「そうですね」 香穂子がくすりと笑うと、吉羅はその手を握り締めてくれた。 「では教会に行きましょうか。そこにはカメラマンさんもいらっしゃるから、写真を撮りましょう」 「本当に有り難うございます」 何もかもがふたりのために準備がなされていて、感激する余りに泣けてしまう。 「ほら、泣くな。化粧が台無しだからね」 吉羅に涙を拭われて、香穂子は小さく頷いた。 「…さあ、暁彦くん、香穂子ちゃん、一緒に行きましょうか」 「お願いします」 吉羅にエスコートをされて、美容師たちにサポートを受けて、用意されていたリムジンに乗り込む。 避暑地の夏の夕暮れはとても美しくて、光がラベンダー色に輝く。 夏の夕暮れは大好きだ。 こころの奥に語り掛けてくれるような紫が、本当に美しいと思う。 車窓を見ているうちに、教会には直ぐに到着した。 森の中にあるロマンティックな教会。 吉羅にエスコートされてリムジンから降りると、神父が既に待構えていてくれた。 「ようこそ、暁彦さん、香穂子さん。お待ちしていましたよ」 「宜しくお願い致します」 ふたりが頭を下げると、神父はにっこりと微笑んでくれた。 直ぐにカメラマンがふたりの前にやってくる。 「それでは、先に撮影しましょうか。奥に小さなスペースがありますから」 「有り難うございます」 香穂子と吉羅は礼を言うと、手を繋いでカメラマンの後を着いて行った。 小さな部屋に通されたが、そこは撮影用に確保された部屋のようだった。 「ではお二人とも先ずは立って撮影しますから。ここで立って下さいね」 カメラマンに立ち位置を指示されて、ふたりはその通りにする。 並ぶと、ローヒールを履いているせいでいつもよりも吉羅との身長差があるような気がした。 「はい。では最高の笑顔で。今の幸せを笑顔に映して下さいね」 カメラマンに言われた通りに、香穂子は笑みを零す。 幸せで幸せでしょうがない。 それが溢れる笑みに上手く反映された。 ストロボが炊かれて、撮影がされる。 感動の余りに、全身の震えが止まらないような気がした。 その様子を夫妻が見守るように見つめている。 その瞳に、ふたりは感謝していた。 「ではこれで撮影は…」 カメラマンがそこまで言ったところで、吉羅が待ったを掛けた。 「申し訳ないですが夫妻と一緒に撮りたいのですが…」 「私からもお願いします」 吉羅と香穂子の気持ちを汲んでくれたのか、カメラマンはそっと頷いてくれた。 「解りました。では、新郎新婦を真ん中にして四人でと、ご夫妻を真ん中にして、もう一枚撮りましょう。ではスタンバイして下さい」 カメラマンの気遣いが嬉しくて、香穂子は吉羅と顔を合わせて見つめる。 先ずはふたりを真ん中にして一枚、更には夫妻を真ん中にして一枚撮影をした。 「はい。良い感じに撮れたようですよ」 「有り難うございます」 撮影が終わると、夫人は今にも泣きそうな顔をする。 嬉しくてたまらないようで、泣き笑いのようなまなざしを向けてきた。 「…有り難う…。本当にこれほどまでに嬉しいこてはないです…。有り難うね、ふたりとも」 夫人の瞳に光る涙はとても美しくて、香穂子も思わず涙ぐんだ。 「こちらこそ有り難うございます…」 ふたりが涙目で見つめあっているのを、吉羅と主人は微笑ましそうに見つめていた。 「そろそろ式の時間です。スタンバイして下さい」 「有り難うございます」 吉羅は香穂子の手を握り締めると、教会入り口までエスコートをしてくれる。 夫妻は一足先に、教会のなかへと向かう。 吉羅と香穂子は、教会の重厚なドアの前に立つと、開くのを待ち構える。 音楽が聞こえ始めて、ドアが開かれて、いよいよ腕を組んで祭壇へと歩いていく。 こんなに幸せな道は今までない。 ふたりを、夕焼け色に染まった見事なラベンダーの光が照らしている。 幻想的な雰囲気にうっとりとしてしまいそうだ。 いよいよふたりは祭壇の前に立ち、愛を永遠に誓う。 愛を誓っている間、香穂子は感きわまる余りに、涙の粒を幾つも零していた。 誓いの永いキスを受けた時、こんなにも幸せな瞬間はないと、香穂子は思う。 キスの後、吉羅は抱き寄せて、そっと囁いてくれた。 「愛している…。君は本当に綺麗だね…」 「…暁彦さん…、私も愛しています…。今夜の暁彦さんも最高に綺麗です」 香穂子がうっとりと囁くと、吉羅は更に強く抱き寄せてくれた。 きっとこの結婚式を一生忘れないだろう。 参列者は少ないが、それでも幸せは溢れてくる。 こんなにも素敵な幸せをくれた夫妻に、何度礼を言っても言い切られなかった。 「…本当に有り難うございます。こんなにも月並みな言葉しか言えませんが感謝しています。嬉しいです。こんなに嬉しいことはありません」 香穂子は涙をめいいっぱい零しながら、夫人に礼を言う。 「こちらこそ素晴らしい夢を見せて頂いて、感謝していますよ」 「有り難うございます」 香穂子は車椅子ごと抱き締めると、暫く甘えるようにじっとしている。 「甘えん坊ですね、香穂子ちゃんは…」 何度も背中を叩かれて慰めて貰らうと、とても心地好い幸せだ。 「…さてと。折角の式も終わりましたから、ディナーを用意していますよ。みんなでゆっくりと食事をしましょう!」 「はい。有り難うございます」 香穂子が笑みを零すと、夫人から柔らかな笑みがこぼれ落ちた。 食事の後、ふたりはホテルへと向かう。 今夜の部屋はスィートだ。 伝統に乗っ取って、吉羅に抱き上げられて部屋へと入る。 何だかお姫様になったような微笑みだった。 「こうして入ればいつまでも幸せでいられるそうだよ」 「有り難うございます」 香穂子が吉羅に礼を言うと、香穂子はホッとした。 「さて、お互いにホッとしたところで、分かるね?」 「はい…」 香穂子が恥ずかしそうに俯くと、吉羅はそのままベッドへと連れていってくれた。 |