*Christmas Love*


 クリスマスツリーを見つめながらキスをすることを、香穂子はずっと憧れていた。

 まさかそれが、本当に大好きなひとと叶うなんて、香穂子は思ってもみなかった。

 香穂子が、本気で好きになった初めてのひと。

 好きというよりは愛してしまったひとなのかもしれない。

 今までで、ふわふわしたほんのりとした“好き”は、確かにあった。

 だが、心から愛したひとは、吉羅が初めてだ。

 背が高く、細身なのにがっしりとした男らしさがあり、腕と脚が長い、しなやかで逞しい身体の持ち主で、誰よりも仕立ての良いスーツの似合うひと。艶やかな黒い髪と、艶と冷徹さが滲む形の良い魅力的な瞳。そして猫科の動物のような優雅な仕草。

 何処を取っても、完璧なハンサムだし、優美な雰囲気を兼ね備えている。

 仕事に対しては、成果に対しては、本当に冷徹で厳しいひとではあるけれども、努力して頑張っていれば、必ず助けてくれるひとだ。

 本当の意味で優しさを持っているひとだといっても過言ではない。

 香穂子には素晴らしい態度で接してくれている。

 甘い恋愛小説をお好みの女性なら、誰もが夢を見て、夢中になるタイプの男だ。

 香穂子もまた、ロマンティックが大好きで、吉羅に夢中になってしまっている。

 吉羅を知れば、知るほどに、本当の意味で夢中になっている。

 そんなひとにキスをされたのだから、香穂子のドキドキは頂点に達していた。

 恥ずかしくて、だけど踊り出したくなるぐらいに有頂天にドキドキしている。

 本当に幸せで幸せでしかたがない。

 全身がときめきから来るドキドキで、どうかしてしまいそうだ。

 こんなにときめくなんて思ってもみなかった。

 もうここからは、クリスマスツリーの演奏なんて、本当にどうでも良くなってしまいそうだ。

 香穂子には、吉羅から受けたキスしか、考えられなくなってしまう。

 吉羅からのロマンティックなキスは、クリスマスプレゼントなのだろうかと、香穂子は思わずにはいられない。

「……顔が 随分と紅いね。少し、火照りを冷ます為に歩こうか……」

「はい……」

 香穂子は吉羅の手をしっかりと握り締めて、はにかみながら呟いた。

 クリスマスツリーの演奏が終わった後、ふたりはゆっくりと歩き出した。

 寒いはずなのに、外の空気がとても気持ちが良かった。それだけ顔が火照っていたということなのだろう。

 ただ、歩くだけで気持ちがよくて、幸せだ。

 カップルが多くいる、夜景が美しい場所にたどり着いた。

 どのカップルも、お互いと夜景に夢中になっていて、周りに人がいるなどとは、感じてはいないようだ。

「穴場があるんだ。そこまで歩こうか?」

「はい」

 吉羅ならば、ロマンティックでスウィートな場所は、よく知っているのだろう。

 誰と行ったのか、ほんの一瞬だけ、嫉妬に似た感情を抱いてしまっていた。

「ここだよ、ここなら誰もいないが綺麗な夜景が見られるからね。地元の特権かな?」

 吉羅はフッと柔らかく笑うと、香穂子の肩を抱き寄せてきた。

 身体の芯までとろとろになってしまうぐらいだ

 吉羅と見る、横浜の夜景は、本当に特別な気持ちになれた。

 ふと吉羅と眼差しがぶつかる。

 すると吉羅の顔が近づいて、唇が重なりあう。

 香穂子は吉羅からキスを甘く受ける。

 先程、ツリーの前で受けたキスよりも、ずっとずっと深くてロマンティックなキスだ。

 大人のキスといっても、過言ではなかった。

 なんてロマンティックなのだろうかと、香穂子は思わずにはいられなかった。

 思わず、吉羅にしっかりと抱きついてしまう。

 このままだと立っていられないような気がしたから。

 吉羅に捕まっていないと、香穂子は立てないぐらいに、身体が震えるキスを受けた。

 甘くてロマンティックで、香穂子は何もかも考えられないぐらいに、夢中になってしまっていた。

 ドキドキする。

 同時にときめいてしまう。

 キスが、どんどん深くなり、香穂子は吉羅以外のことを考えられなくなっていた。

 唇の周りが、唾液でベタついてしまう。

 息が出来ないぐらいのキスなんて、ロマンス以外に何があるというのだろうかと、香穂子は思った。

 呼吸が出来ないぐらいにキスをした後、香穂子は胸を震わせながら、吉羅の逞しい胸に凭れた。

 こうしているとかなり楽だ。

 そして何よりも安心する。

 何も話さなくても幸せだった。

 ロマンスが沢山心に溢れているから。

「……吉羅さん、私にキスをしたのは、クリスマスの戯れですか?」

 香穂子は瞳に恋心を滲ませながら、吉羅を見る。

 戯れなら、こんなにも辛いことはない。

 それは、香穂子が吉羅を真剣に愛しているからに違いない。

「……私は、戯れでキスをするような酔狂な奴ではないよ」

 吉羅は静かに呟くと香穂子を抱き締め、逆に真っ直ぐ見つめてきた。

「日野くん、君は私のキスを、クリスマスの戯れだと思って受け入れたのかね?」

 吉羅は冷たく輝く星のような眼差しを、真っ直ぐ香穂子に向けてくる。

「……いいえ。私は、真剣な気持ちで受け入れました」

 本当のことを話すのに、香穂子はドキドキしてしまう。

「……私も真摯な気持ちで、君と向き合っているよ。私は」

 吉羅はいつも以上の甘くて低い魅力的な声で呟くと、香穂子を更に抱き締めた。

 真摯に向き合ってくれているのならば、愛してくれているということなのだろうか。

「……私は吉羅さんのことが好きです……。だけど、吉羅さんには大切なひとがいらっしゃるのでは、ないですか?」

 香穂子は胸からの支えを吐き出すように呟く。

 すると吉羅は、フッと甘く微笑み、香穂子を見つめた。

「そんな相手はいないよ。日野くん、クリスマスは一緒に過ごさないか?そこで君に証明をしよう。クリスマスを一緒に過ごさないか?」

 吉羅から、とても魅力的な提案が、申しだされる。

 クリスマスを吉羅と過ごす。

 ずっと夢見ていたことだ。

 香穂子には大切な夢。

 断る理由なんてない。

 香穂子もまた、フッと微笑むと、頷いた。

「はい。御一緒します」

 運命が走り出す。

 恋するキモチと一緒に。

 華やかなファンファーレを、香穂子は感じていた。



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