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吉羅とのデートだから、セレブリティ宜しく、洗練されたデートに違いない。 どのようなスタイルをすれば良いのか、香穂子は悩んでしまう。 吉羅のことだから、とてもきらびやかなスタイルでないと、相応しくない場所に連れて行ってくれるだろうから、どうしようかと思ってしまう。 だが、あまり気をてらったスタイルは嫌だ。 それを考えると香穂子は、苦しくなるのを感じた。 それに、ゴージャスな洋服なんて持っていない。 少しだけ背伸びをして、ハイヒールと大人びたワンピースのセットのスタイルにすれば良いだろうか。 化粧は少しだけ大人っぽいものをしたい。 セクシーなんて程遠いかもしれないが、それに近いメイクをしてみたい。 少しでも吉羅に近付きたかった。 吉羅からメールで連絡が来て、クリスマスイブに迎えに行くと、書かれていた。 今年のクリスマスイブは、ロマンティックな土曜日だ。 多くの恋人たちが、この日程に感謝しているだろう。 香穂子も、こんなにもロマンティックな日に、吉羅とデートが出来るなんて、素晴らしいと思わずにはいられなかった。 メールを見ると、注意書がされていた。 クリスマス礼拝に行くから、それに相応しい格好をしてきて欲しい。 と。 クリスマス礼拝に相応しい格好だなんて、どのようなものなのだろうかと、香穂子は考えてしまう。 そうして、結局は、黒のシンプルなワンピースに、真珠のチョーカーという、スタイルになってしまった。 髪はアップにして、華やいだ恋人たちのデートだというよりは、何処かロマンティックが少ないデートスタイルになってしまった。 だが、吉羅が礼拝に相応しい連れて行ってくれるのは、香穂子にとっては、嬉しいことであった。 吉羅とふたりで、厳かな雰囲気のクリスマスも悪くはないと、思っていた。 だが、それでも綺麗だと思われたいのは女心だ。 吉羅が不快に思わない程度に、香穂子はお洒落をしたかった。 姉や天羽にアドバイスを貰い、香穂子は精一杯のメイクと、お洒落を楽しむことにする。 綺麗になりたい。 大好きなひとの為に。 「香穂子、香水だけれど、意外にシンプルな香りが好まれるから、それにしなさい。石鹸の香りだとかが、受けるんだから」 「そうなんだ。だけど、いつも濃密な香水をつけたひとばかりと付き合っているひとならば、何だか物足りないんじゃないかな」 「だから、シャボンの香りが新鮮で良いんじゃない!それに、シャボンの香りは、万人受けするからね。香らせた者の勝ちよ」 姉は、やはり香穂子よりも年上であるからか、アドバイスは的確だ。 「うん、そうするよ。シャボンの香りが、私らしいから」 「そうだね。あなたらしいよ」 香穂子は姉の意見を取り入れて、当日のスタイルを決定した。 クリスマスイブ当日は土曜日でもあり、香穂子にとっては、ヴァイオリンを練習する日でもあった。 朝から近くの公園でみっちりとヴァイオリンを練習する。 今日は、吉羅とは夕方以降に約束があるから、ランチはしないのだ、 それが少しだけ淋しい。 吉羅と一緒に過ごすランチタイムが、香穂子にとっては、絶好の癒しの時間になっているのだから。 ヴァイオリンの練習を終えた後、香穂子は直ぐに準備に向かう。 何だか、ドキドキして恥ずかしい。 大好きなひととデートの準備をするなんて、なんて幸せなのだろうかと、香穂子は思う。 化粧は透明感が出るように、色はおさえ目で大人びたメイクをする。 そして、黒のシックなワンピースを着て、自慢の髪はアップにする。華美なものは拙いと感じ、ヘアアクセサリーも至ってシンプルなものにした。 パールのチョーカーをつけて、控えめなイヤリングをして、完成だ。 控えめなお洒落ではあるが、香穂子は満足していた。 吉羅は約束通りの時間に迎えに来てくれた。 家の前で待っていると、吉羅が颯爽と車でやってくる。 吉羅は車から降りるなり、香穂子の姿をじっくりと見つめた。 クールな眼差しで見つめられると、香穂子はドキドキと不安が交互にやって来るような、そんな感情を抱く。 「日野くん、乗りたまえ」 吉羅は本当にクール過ぎるぐらいで、香穂子のスタイルには、全く反応しない。 それがまた、香穂子には切ない。 本当に礼拝だけをするのだろう。 そんな厳かな雰囲気だけが伝わってきた。 車に乗り込むと、山手教会へと向かう。 ロマンティックで荘厳な雰囲気だ。 クリスマスイブだから特にだろう。 山手界隈の住宅では、見事なイルミネーションが見られる家もある。 温かな家庭が透き通って見えて、香穂子は嬉しくなった。 ときめきに、つい笑顔が零れてしまう。 「幸せそうに笑うね」 「クリスマスイブですから。温かな色々なおうちから雰囲気が出ていて、素敵だと思っていたんですよ。ロマンティックってやっぱり素敵ですよね」 「そんなロマンティックな日に、私と過ごしてくれるのは、光栄だね」 吉羅の言葉に、ゆきは甘い笑みを浮かべる。 吉羅だからこそ、一緒に過ごすのだと言うことを、果たして知っているのだろうか。 香穂子はそのようなことを考えてしまう。 「さあ、教会だ。気を引き締めようか」 「はい」 吉羅の言葉に、香穂子は気を引き締める。 本格的なクリスマスイブのミサに参加をするのは初めてだから、香穂子はドキドキしてしまう。 呼吸が出来ないぐらいに甘い緊張をするなんて、思ってもみなかった。 それだけ、とても素敵な緊張が彩るミサなのだ。 車を駐車場に停めて、吉羅が教会へとエスコートしてくれる。 吉羅に手を差し出されると、香穂子はそれを手に取る。すると、吉羅はしっかりと握り締めてきた。 ドキリとするのと同時に、心が華やかに高まってくる。 手を繋いで、厳かな雰囲気の教会に入るなんて、なんてロマンティックなのだろうかと思う。 ドキドキし過ぎる。 吉羅と永遠の絆を結んだような気持ちになり、香穂子は胸がとろとろになるほどに、ときめくのを感じた。 そのまま、静かに吉羅のふたりで席につく。 席についた後も、吉羅は香穂子の手を離さないでくれる。 これ以上のクリスマスプレゼントはないのではないかと、香穂子は思った。 |