4
|
人と人の繋がりや、普遍的な愛の話を聞くと、引き締まった厳かな気持ちになる。 「……今のお話は、あなたの隣いる心から愛するひとと、分かち合って下さい。そして、あなたの隣にいるひとは、何億の魂があるなかで、あなたに向き合った大切なかけがえのないひとです。どうか大切にされてください。感謝をして、愛してください」 吉羅との出逢いは、大切なもの。 生涯で、最も大切な出逢いだ。 宝石よりも輝いて大切な出会いだから、香穂子はずっと大切にしたいと思う。 香穂子は、吉羅の手を強く握り返してみる。 すると、吉羅は、香穂子に返事をするように、握り返してくれた。ふたりで出逢いを共有することが出来るのが、何よりも嬉しいと思う。 ちらりと吉羅を見つめると、同じように穏やかな笑みを浮かべながら香穂子を見つめてくれるのが、嬉しかった。 「暁彦くん」 神父様の有り難い話が終わり、ふたりが教会を出ようとすると、呼び止められた。 振り返ると、穏やかに微笑んでいる神父様が立っていた。 「毎年、クリスマス礼拝に参加してくれて有り難う。初めてだね、君が家族以外の方と参加するのは」 神父の言葉に香穂子は驚いてしまい、吉羅を見た。 何だか嬉しくて泣きそうになる。 「……君にとっては本当に大切なお嬢さんなのだね」 「はい」 吉羅がキッパリと認めてくれるものだから、香穂子は嬉しい喜びに、瞳に涙をいっぱい貯めてしまう。 「二人だけでなく、将来的に人数が増えていくのを、私は期待していますよ」 神父様は嬉しそうにそれだけを伝えると、他の信者に挨拶にいった。 二人以上に家族が増える。 それがなにかが分からない訳ではないから、香穂子は恥ずかしくて、嬉しくて、照れた表情しか出来なかった。 「さあ、行こうか。日野くん」 「はい」 このまま吉羅に駐車場へと連れていかれるかと思っていたのに、そのまま教会の裏手へと向かう。 ロマンティックであると同時に、何だかドキドキする。 吐く息が白く見えるぐらいに。 吉羅は大きな木の下までやって来ると、香穂子をその下で抱き締めてきた。 いきなりのこと過ぎて、香穂子は心臓が飛び出て何処かに行ってしまうのではないかとすら、思ってしまう。 誰もいない。 だから、恥ずかしくはないけれど、ドキドキしてしょうがなかった。 「……この木の下で、キスをすると、そのふたりは、永遠に幸せになれるそうだよ」 吉羅はらしくなくロマンティックなことを囁くが、それがまた似合う。 「……吉羅さんに言われると、そうなるんじゃないかって気になってきました……」 「……日野くん……」 吉羅はフッと艶やかに微笑むと、香穂子に顔を近づけてきた。 クリスマスイブのキス。 素敵すぎて、このままうっとりと蕩けてしまうのではないかとすら、香穂子は思う。 それぐらいに素晴らしい。 吉羅と唇がしっとりと重なる。 なんて素敵な感覚なのだろうか。 ロマンスが溢れすぎて、香穂子は現実ではなくて、夢のなかにいるのではないかと思った。 何度も角度を変えて口づけをして、ふたりはお互いの情熱を交換しあう。 幸せだ。 こんなにも素敵なクリスマスイブは、今まで経験したことがない。 何度もキスをしたあと、ふたりは互いに見つめあった。 「木の下でキスをしたし、それに神父様からも御墨付きを頂いた。君は私から逃げられないよ?」 ほんのりと意地悪で艶やかな声で呟かれてしまうと、香穂子はもう降参するしかない。 「……はい。元から、私は吉羅さんから逃げることなんて、出来ないですから……」 「そうだね。君は私に捕まってしまっているからね……。さ、ディナーに行こうか」 「はい」 吉羅は香穂子の手を引くと、そのまま駐車場へと向かう。 香穂子は最高のクリスマスプレゼントを貰ったのではないかと思うほどに、幸せだった。 クリスマス寒波が来ているというのに、なんとロマンスが溢れているのだろうか。 温かい。 幸せで、香穂子は少しも寒くはないと感じていた。 クリスマスイブのディナーは、夜景の美しい場所に連れて行って貰った。 食事も夜景も最高だが、それよりも香穂子は、吉羅に夢中だった。 吉羅以上に、夢中な相手は、他にいないだろうと思ってしまうぐらいに。 食事はとても美味しかったけれども、それ以上に、香穂子は幸せを感じていた。 大好きなひととクリスマスイブを過ごしている。 それだけで幸せだ。 だが、幸せな時間は、直ぐに終わってしまう。 デザートの時間になると、香穂子は切なくて切なくてしょうがなかった。 「吉羅さん、私からのクリスマスプレゼントです。大したものではありませんが、いつもの感謝を込めてです」 香穂子は、プレゼントをおずおずと差し出す。 「有り難う。開けて構わないかね?」「どうぞ」 吉羅がプレゼントを開けるのがとてもドキドキする。 「CDと妙なオブジェだね」 吉羅は幸せそうに笑っている。 「CDは、私のヴァイオリン演奏を収録しています。オブジェは、リリに似ているから選んだんですよ」 「リリにね……」 吉羅は、オブジェの頭を愉快そうにつついていた。 「日野くん、私からのメリークリスマスだ」 吉羅はそっとプレゼントを差し出してくれる。 「有り難うございます。あ、開けて良いですか?」 「どうぞ」 香穂子は嬉しすぎてドキドキしながら、プレゼントのパッケージを開けた。 すると、ヴァイオリンをモチーフにしたペンダントが入っている。 嬉しくて胸がいっぱいになり、香穂子は何とか声を絞り出して礼を言った。 「有り難うございます!」 「アクセサリーをプレゼントするということは、君をもう離さないということだよ」 「吉羅さん……」 吉羅は香穂子の手を握り締めると立ち上がる。 「来なさい。ついておいで」 吉羅の言葉に、香穂子は立ち上がってついて行くしか出来なかった。 吉羅と繋がれた手が、お互いに緊張感を宿す。 鼓動が素晴らしいBGMとなる。 吉羅との関係が望んだものになるのだ。 恋をした時から、ずっと望んでいたことなのだ。 吉羅と結ばれることを。 それが、今なのだ。 この先、一つの大きな甘い緊張を越えるのだと、覚悟を決めながら。 ロマンティックな覚悟。 それ以上に、香穂子に必要なものはなかった。 |