*レディになるまでに〜愛の告白〜*


 吉羅に大人の女性にして貰う。
 それがどういうことかは解っている。
 ほんの近い未来に吉羅とそうなりたいと思ってはいた。
 こんなに早くその日が来るとは、思ってもみなかったが。
 吉羅は何も話さずに、ただ香穂子の手を強く握り締めている。
 横顔を見ていると、とても精悍で落ち着いた大人の男性だ。
 このひとが自分のものになる。
 それだけでどうしようもないほどにときめきを覚えた。
 エレベーターに乗り込んでふたりきりになると、緊張が最高潮になる。
 今まで何度もふたりきりになったことはあるのに、今回は特別緊張する。
 しかも今までにない緊張だ。
 不意に吉羅が頬に手を宛てて来た。
「…相当…緊張しているようだね…?」
「…あ、あの…」
 柔らかく頬を触れられるだけで、躰の芯が蕩けてしまいそうになる。
「…緊張しないで…。力を抜いてくれたら良いから…」
「…はい」
 吉羅の頬の温もりにうっとりとしながら、香穂子は目をそっと閉じた。
 気持ちが良くて、蕩けてしまいそうだ。
 エレベーターが静かに止まり、吉羅がエスコートをしてくれた。
「行こうか?」
「…はい…」
 エスコートされるがままに、ホテルの一室へと向かう。
 そこがスペシャルなフロアだということは、香穂子は直ぐに解った。
 吉羅はドアの前で止まると、カードキーで開ける。
「さあ、どうぞ」
 吉羅がドアを開いてくれ、香穂子は喉を鳴らしながら中へと入った。
 部屋は今までにないと思うような、スタイリッシュな雰囲気だった。
 興味深い気分で部屋の様子を見つめていると、いきなり背後から抱き締められてしまった。
「…あ…」
「…君を大人の女性にする。…私のものにする。君がもう何を言っても離さないからそのつもりで」
 吉羅は囁くような甘い声で言うと、香穂子の首筋に唇を寄せてくる。
 くすぐったいのに気持ち良い感覚に、香穂子は思わず甘い吐息を漏らした。
「…暁彦さん…っ、じゅ、準備が…っ」
「何も準備なんていらない…」
「…だけど…。せめて…シャワーだけでも…」
 泣きそうになりながら言うと、吉羅は苦笑いをしながら解放してくれた。
「しょうがないね…。シャワーを浴びる時間を与えようか…」
「有り難うございます…」
 香穂子が少し緊張した笑顔を向けると、吉羅はフッと優しい笑みを浮かべた。
「…ただし余り待てないからそのつもりで」
「はい…」
 香穂子は恥ずかしい気分で、そっと頷いた。

 用意されていたバスローブを手に取って、香穂子はバスルームへと入った。
 緊張し過ぎて肌が震えてしまっている。
 熱いシャワーを浴びながら、肌が艶やかに目覚めていくのが解った。
 アメニティで置かれていたのはナチュラル系の化粧品会社のボディソープ。
 甘くて優しい香りを肌に刻み付けた。
 吉羅には心地好い肌で抱いて欲しかったから。
 バスルームから出ると、吉羅が交代に入る。
「…待っていてくれ」
「…はい…」
 香穂子がはにかみながら答えると、吉羅は頬をふわりと撫でてくれた。

 吉羅がシャワーを浴びている間、緊張する余りに震えてしまう。
 だがそれは不快なものでは決してなかった。
 香穂子は小さくなりながら待つ。
 吉羅はがっかりしないだろうか。
 他の綺麗で妖艶な女性と比べたら足りないと思わないだろうか。
 香穂子はそれだけが気にかかってしょうがない。
 抱かれることに嫌悪感なんて全くないのに、吉羅に嫌われることへの恐怖が、香穂子を不安にさせていた。
 本当に取り留めて優れた容姿じゃない。
 だから余計に自信を無くしてしまう。
 耳の下が痛くなるぐらいに鼓動が激しくなり、香穂子は膝を抱えた。
 どうか吉羅ががっかりしませんように。
 今はそれだけが願いだった。

 吉羅は手早くシャワーを浴びる。
 こんなに余裕のない自分は始めてなのかもしれない。
 何をしても、本当に緊張する。
 喜びと欲望が突き上げて来る、幸せな緊張と余裕のなさではあったのだが。
 吉羅はシャワーを浴び終えて、バスローブを手早く羽織った。
 いよいよ愛しい香穂子を自分のものにすることが出来るのだ。
 こんなに幸せなことはない。
 吉羅は余裕のなさをそっと隠して、ゆっくりと香穂子のいる場所に向かった。
 琥珀色の柔らかな照明に照らされた香穂子は、本当に美しかった。
 まるで清らかな天使のように見える。だがそれと同時に、艶やかさが滲んでとても綺麗だった。
 出会った頃はまだまだ子どもだと思っていた。
 それがいつしか吉羅の前で猛スピードでどんどん美しくなっていった。
 それはもう目を見張るほどのスピードだった。
 そして、異性として吉羅を堂々と引きつけてくるようになり、今やこちらが溺れている。
 愛しくてしょうがない宝物のような存在。
 その香穂子がようやく自分のものになるのだ。
 手に入れたら、もう離さない。
 吉羅は香穂子にゆっくりと近付いていった。

 艶やかなオーラを感じて、香穂子は振り返る。
 目の前にはシャワーを浴び終えた吉羅がいる。
 息が出来ない程に艶やかで、本当に綺麗で魅力的だ。
 香穂子は吸い寄せられるように、視線を吉羅から離せなかった。
 こんなにも魅力的で、素敵過ぎるひとが自分の恋人だなんて、信じられないぐらいだ。
 素敵過ぎて、香穂子は息を乱した。
 吉羅は香穂子に近付くと、官能的な甘い視線でじっと見つめて来る。
 そんなまなざしで見つめられたら、躰の芯まで蕩けてしまうではないか。
 香穂子がうっとりと見つめていると、吉羅の美しい指先が、香穂子の頬を捕らえた。
 余りに気持ちが良くて、香穂子は思わず目を閉じた。
 吉羅はスッと香穂子から指を離すと、抱き上げてくる。
 そのままベッドへと運ばれる。
 愛の儀式なのだ。
 この先もずっとずっと一緒にいることが出来るように。
 お互いの気持ちを交換し合うのだ。
 香穂子はぎこちなく吉羅の首に手を回して、甘えるように総てを預けた。
 吉羅は丁寧に香穂子をベッドに寝かせてくれると、組み敷くように躰を重ねてくる。
 肘をついてほんの少しだけの間隔を開けてくれていた。
「香穂子…愛している…。怖がらなくても大丈夫だ…」
 吉羅に輪郭を柔らかく撫でられて、香穂子は思わず目を閉じた。
「…私も暁彦さんを…、世界で一番愛しています…」
 香穂子は白い頬を上気させながら、吉羅を真直ぐ見つめる。
 吉羅はフッと笑みを浮かべると、香穂子に唇を重ねてきた。
 しっとりと唇を重ねられて、それだけで躰の中心が沸騰していく。
 お互いに何度も唇を吸い上げながら、熱い想いを交換した。
 舌を絡ませながら、キスはどんどんと激しさを増して行く。
 香穂子は吉羅の背中に手を回すと、しっかりと抱き締めた。
 逞しく精悍な背中を抱き締めると、吉羅への想いがより深まってくるのを感じる。
 吉羅は自分のものだ。
 誰がなんと言おうとも、好きで堪らない。
 お互いに息が出来ないほどに激しいキスを交わした後、吉羅は香穂子から唇を離した。
 キスだけで、躰が潤む。
 息を整えながら吉羅を潤んだ瞳で見つめると、いきなりバスローブの胸元を大きく開けられてしまった。
 白い肌が吉羅の視線に晒されてしまい、香穂子は恥ずかしさの余りに、隠そうとしてしまう。
「…隠さなくて良いんだ…。君はそんなことをしなくても充分に美しいのだから…。今宵は…、君の美しさを 堪能させて貰うよ」
 吉羅の言葉に躰が更に燃え上がった。



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