*恋想曲*

10

 
 妹だなんて今まで思ったことはない。
 吉羅は香穂子をひとりの女として見ているのだから。
「…私は君を掛け替えのない女性だと思うが…、妹だと思ったことはないよ…」
 それは真実だ。
 妹ではなく、同胞でもやく、ひとりの女として見て来たのだから。
「…じゃあ…あのキスの意味は…?」
 香穂子は今にも泣きそうな瞳をして、感情を湛えている。
 本当に美しい。
 香穂子よりも綺麗な女はいくらでもいるだろう。
 だが、吉羅にとっては最高の女だと言っても、言い過ぎではなかった。
「…普通、妹には唇にキスはしないと思うがね…」
 まるで謎掛けのように、吉羅は呟く。
 唇はやはり愛情のキスだ。
 香穂子のまなざしが、甘く切なく弛む。
 次の瞬間、香穂子は思い切り吉羅の胸に飛び込んできた。
 吉羅はしっかりと香穂子を受け止める。
 こんなにも愛しいと思った存在は、他にいないのだから。
 吉羅が柔らかくて華奢な香穂子の肢体を抱き締めると、更に強く抱き付いてくる。
 香穂子が不意に顔を上げた。
「…私…吉羅さんのことが…」
 それ以上は先に言わせたくない。
 折角、香穂子がこの胸に飛び込んできてくれたのだから。それを受け止めなければならない。
 そして自分が先に愛の言葉を言うべきだと、吉羅は思った。
 香穂子の言葉を飲み込むようにして唇を塞ぐ。
 そのまま深い角度で、甘く円やかな唇を吸い上げた。
 先ほど教会では出来なかったキスを香穂子に贈る。
 自分の想いを込めて、深い愛撫を繰り返した。
 息が出来なくなるまで。
 欲望で震え上がるまで、吉羅は容赦なくキスを続けた。
 香穂子の甘い肢体が震えたところで唇を離す。
 潤んで艶めいた香穂子の瞳を自分に向かせて、じっとその中を覗きこんだ。
「…私は…、君が好きだ…。君をひとりの女性として…愛している」
 吉羅は低くいつもよりも甘い声で、香穂子に囁く。
 香穂子は今にも泣きそうな瞳になると、一生懸命笑おうとした。
「…私も…、吉羅さんが大好きです…。ずっとあなたが好きでした…。今も好きです」
 香穂子は震える声で呟くと、吉羅の胸に顔を埋めた。
 香穂子に相手がいようがいまいが関係ない。
 愛する激情を止めることなんて出来ない。
 愛する、好きになる感情は、究極、抑えることなんて出来やしないのだから。
「…香穂子、君に恋人がいてもいなくても、私には関係ない…。君を想う感情を抑えることは出来ないから」
「…私…、吉羅さんのこころを一生得られないんじゃないのかなって思って…、あなたのことを諦めようとして…、彼とは友達としてお付き合いを始めたんです…。…だけどダメでした。一緒にいても、あなたと比べて、 あなたのことばかりを思い出してしまっていました…。だからそれ以上は踏み込めなかった…」
 香穂子は今までの切ない恋情を押し流すような涙を零すと、吉羅を見上げた。
「…私のファーストキス、あなただったんですよ…? 夢見ていたあなたと教会でキスをすることが出来て、とても嬉しかった…」
「…日野君…」
 吉羅は香穂子の頬をもう一度包み込むと、額に自分のそれを宛てる。
「…君が好きで…私はどうしても…君にキスをしたかった…。君以上に愛することが出来る相手は、いないよ…」
 吉羅は香穂子の瞳をもう一度見つめる。
「…愛している、香穂子…」
 吉羅は唇をしっとりと重ねて、誓いのキスを贈る。
 こんなにも嬉しい瞬間はないと思う。
 唇を離すと、香穂子が幸せそうに笑ってくれた。
 その笑顔が何よりも可愛いかった。

 吉羅に愛されている。
 これ以上に幸せなことはない。
 誰よりも一番愛してしまった相手だから、香穂子は何よりも嬉しく感じる。
「…吉羅さん…大好きです…」
「私も愛しているよ」
 吉羅は甘く優しく香穂子に囁くと、ゆっくりと離れた。
 離れたくない香穂子は思わずには泣きそうになる。
「…吉羅さん…」
 香穂子が迷子になった子どもこような表情を向けると、吉羅はフッと苦笑いを浮かべる。
「…日野君…、これ以上君と密着してしまうと…、キスどころでは済まなくなってしまうからね…。了解して頂けないかな?」
「…キス以上…」
 香穂子は反芻しながら、吉羅を見上げた。
 香穂子も年頃の娘だ。それが何を意味しているのかは解っている。
「…吉羅さん…、私…あの…」
 吉羅が相手ならば、その先を経験したいと思う。香穂子はそれを瞳に滲ませた。
 勿論、口では表現することが出来ないでいたが。
「…吉羅さん…、私…」
 思い詰めるように言うと、吉羅は香穂子の顎を持ち上げる。
 吉羅もその想いを酌んだようだ。
「…解った…。私たちは同じ気持ちのようだね…。…私もどうしようもないほどに君が欲しいよ…。君を驚かせたくはなかった離れたが…、良いんだね…?」
「はい」
 香穂子は覚悟を決めて頷く。
 ここで吉羅に抱かれなければ、後悔するような気がしたから。
 これからは長いかもしれないが、それでもこの愛しくて素敵な夜を、最高の想い出の夜にしたかった。
 吉羅は、香穂子を抱き上げると、ベッドへと連れていく。
 初めてだから少し怖いが、それでも抱かれたい気持ちには変わりはなかった。
 吉羅は、香穂子をゆっくりとベッドに寝かせると、そのまま組み敷いて抱き締めてくる。
「…君が好きだ…」
 吉羅は掠れる声で感情豊かに呟くと、唇を重ねてきた。
 こんなにも素敵なキスは他にないと思いながら、香穂子は愛の感情に溺れていく。
 愛を交わすように何度も啄むようなキスを重ねてながら、強く抱き合った。
 吉羅が香穂子の首筋に軽く口づけながら、パジャマのボタンを慣れた手つきで外していく。その巧みな指先に、香穂子は少しだけ悔しい想いをした。
「…香穂子…」
 吉羅の蕩けるような甘い声が、香穂子の名前を呼んでくれる。
 それが堪らなく嬉しい。
 もっともっと、その声で名前を呼んで貰いたかった。
 吉羅は、香穂子のパジャマを脱がすと、晒された白い胸に息を呑むのが聞こえた。
 気に入って貰えないのだろうか。
 きっと吉羅が今まで相手をしていた女性に比べたら、何もかもが足りないのは解っている。
それが哀しい。
「…吉羅さん…」
「そんな泣きそうな顔をしなくても良いんだ…。香穂子…。君はとても綺麗だから…」
「はい…」
 吉羅は愛しいとばかりに、胸の柔らかな部分にキスをすると、両手で持ち上げてきた。
「…んっ…! 吉羅さ…」
「…見えるところには痕はつけないから、安心したまえ…」
「…はい…」
 では見えないところには痕を付けるのだろうか。
 吉羅は首筋に柔らかく唇を押し当て、デコルテ部分を愛してくれる。
 乳房を揉み上げられて、香穂子は呼吸が止まるかと思うほどの甘い疼きを感じた。
 こんな風に誰かに触れられたことなんてなかったから、甘過ぎてどうして良いかが解らない。
 激しく呼吸を乱すと、吉羅は香穂子に更に激しい愛撫を施してくる。
「…本当に君は綺麗だ…」
 吉羅は溺れるように呟くと、香穂子の胸の頂きに唇を寄せた。

 こんなにも完璧な躰は今まで知らない。
 吉羅は香穂子の躰をじっくりと見つめながら、息を呑むほどに魅了されていた。
 とても美しい躰。
 恐らくはじっと見つめていても飽きないだろう。
 吉羅は夢中になりながら、香穂子の躰を愛した。
 本当は痕をつけたい。
 自分のものである証を。
 だが、香穂子のために何とか踏ん張った。
 吉羅は香穂子の乳房に手をかけると、その柔らかさに息を詰めた。



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