2
|
小松は肌で感じ取る。 小松はさりげなくゆきの手を握り締めた。 「ゆき、気にしなくても良いよ」 囁くように言うと、ゆきは少しだけホッとしたように微笑んだ。 その微笑みがまた可愛くて、小松はつい夢中になって見つめてしまう。 「ではご案内致します。小松さま」 店のものに言われて、小松はそのままゆきの手を引いて中に入る。 ゆきは、店のものの視線や態度が慇懃無礼だからか、一瞬、手を離そうとする。 だが、小松はあえて手をしっかりと握り締めた。 すると、ゆきは驚いたようだったが、嬉しそうに頬を染めて、微笑んでくれた。ギュッと小松にすがるように手を握り締めてくる。 それが小松の心をより暖かくした。 ふたりで座敷に通される。 二人きりであるからホッとしたのか、ゆきの笑顔は先ほどよりも良くなった。 「昼食だからね。畏まらなくても大丈夫だよ」 「有り難うございます。だけどカジュアル過ぎましたね、私」 ゆきは育ちが良いからか、どのような格好でも、気品が感じられる。 いや、育ちなどは関係なく、ゆきが持つ資質がそうさせているのかもしれない。 だからこそ、龍神の神子に選ばれたのかもしれない。 小松はそう思わずにはいられない。 人の気品や本来の美しさというものは、格好や家柄が関係するものではないことは、小松が一番解っている。 だからこそ、ゆきをどのようなシーンでも、いつでも敬える。 本当に気品がある美しさに、小松は思わず見惚れてしまう。 「小松さんと一緒で良かったです。落ち着きました」 ゆきは眩しいぐらいの笑みを向けてくる。 小松は、このままゆきをしっかりと抱き締め、押し倒してしまいたいと思わずにはいられなかった。 食事が運ばれてきて、ゆきは瞳を輝かせて小松を見つめる。 「美味しそうです、帯刀さん!いただきます」 ゆきの笑顔や、然り気無く洗練された立ち振舞いを見ているだけで、小松は幸せな気持ちになる。 自分が食事をするのを忘れてしまいそうになるぐらいだ。 ゆきがニコニコと微笑んでいると、小松は自分が幸せになるような、そんな気分になった。 「帯刀さん、食べないのですか?」 「いいや、頂くよ」 「鎌倉って、やっぱりしらすが美味しいですね。有り難うございます。素敵なお店です」 先ほどは気後れをしていたようだが、すっかりそのあたりは大丈夫のようだった。 これには小松もホッとした。 ゆきにはいつも幸せな気持ちでいてもらいたいと、常日頃から思っているからだ。 ゆきはつねに幸せそうな笑みをにじませながら、デザートまでを美味しそうに食べる。 食べる姿や、優しい笑みを見つめていると、ゆきが見ないうちに随分と大人びて美しくなっていることを、小松は思い知らされていた。 本当にゆきは日に日に美しくなる。 一日たりとも見逃すことが出来ないのではないかと思ってしまうぐらいに、ゆきは美しさを増している。 一日会えないことが勿体ないのではないかと思ってしまうぐらいだ。 見逃せない。 だが、どうすれば良いのだろうか。 そんなことを考えていると、ひとつの事実が浮かんでくる。 一緒に住んでしまえば良いのだ。 小松は強く思うと、すぐにその手配をしなければならないと考えてしまう。 ゆきの美しさを見逃すなんてことはしたくない上に、時間をこれ以上無駄にしたくはなかった。 食事が終ると、ゆきは幸せそうに古風な庭を眺めていた。 「やっぱり、こうした庭を見つめると、落ち着きますね。何だかのんびりしたくなります」 「少しだけのんびりしたら、海にでも行こうか。折角、鎌倉に来たんだし」 「はい、そうですね」 ゆきは立ち上がり、うきうきした笑顔を浮かべる。 「少しだけのんびりした後だよ。そんなに慌てなくても、鎌倉の海は逃げないよ」 「そうでした」 ゆきは少しだけ苦笑いを浮かべると、再び座った。 ぺたんと座ったので、見つめていると膝枕にピッタリな格好だった。 「ゆき、膝枕をして」 「はい」 ゆきは恥ずかしそうにしていたが、それがまたとても可愛らしい。 「照れないの。私たちしかいないでしょ?ゆき、君は照れすぎだよ。初めてではないんだからね」 「は、はいっ」 ゆきは恥ずかしそうにほんのりと頬を真っ赤にさせて、小松を潤んだ瞳で見つめる。 それがまた可愛い。 小松は幸せな気分に浸りながら、ゆきに膝枕をしてもらう。 ゆきに膝枕をしてもらうだけで、心は満たされて癒される。 こうして一緒にいて、膝枕をして貰うだけで、沢山の力を蓄えることが出来る。 ゆきには本当に癒される。 ゆきがいれば、この先も、ずっと力を蓄えていられるだろうと、小松は思った。 離せない。 放したくない。 小松は、激情が、魂の奥底から涌き出てくるのを感じていた。 ゆきがゆっくりと柔らかく髪を撫でてくれる。 愛しい瞬間が溢れてくる。 これ以上に幸せでのんびりとした時間は他にはないのではなかろうか。 小松は思わず幸せに目を閉じた。 忙しいからしょうがないと、どうしてずっとゆきに逢わなかったのだろうかと、そればかりが気にかかってしまう。 ゆきに逢えたからこそ、こんなにも幸せな気分になれるのだから。 これはどんなものにでも勝る幸福だ。 小松は強く思う。 ゆきを離したくはない。 ゆきをすぐにでも自分だけのものにしてしまいたい。 小松は、ゆきをすぐそばに置くしかないと考えていた。 幸せで満たされていたからか、しばらくうとうととしていた。 こんな無防備なところを晒せるのは、ゆきしかいない。 ぞろぞろ、ゆきの膝も痺れてくるところだろう。 小松は起き上がることにした。 「ゆき、有り難う。そろそろ身体を起こすよ」 「はい」 小松が身体を起こしてゆきを見つめると、恥ずかしそうにチラリと見つめ返してきた。 「脚は痺れていない?」 「大丈夫です」 「だったら、海に行こうか」 「はいっ!」 ゆきの無邪気な笑顔を見つめながら、小松は言わなければならないと感じていた。一生そばに置くということを。 しっかりとゆきと手を繋いで、小松は車に向かう。 こうしているだけでほのぼのとした幸せが立ち上る。 だから離せない。 ゆきがいなければ幸せにはなれない。 逆にゆきさえいれば幸せになれる。 小松は強く感じながら、ゆきへの言葉を意識して考えていた。 |