*溢れる想い*


 小松と手を繋いだまま店を出る。

 手を繋ぐだけなのに、とても幸せで、甘く満たされた気持ちになるのは、やはりそれだけ小松を愛しているからだろうとゆきは思う。

 最初に小松と恋するふたりらしいことをしたのは、こうして手を繋ぐこと。

 初々しい恋の始まりを感じさせる最初のスキンシップであると同時に、とても深く親密な行為なのではないかと、ゆきは思わずにはいられない。

 小松とはそれ以上の愛情交換をしているけれども、原点である“手を繋ぐこと”は、そのなかでも特別なのではないかと思う。

 お互いに離さない、離れない、ということをしっかりと確認をしているように思えてならないからだ。

 ゆきもまた、小松を離すつもりはないし、離れないつもりだ。

 だからこそいつも以上に手をしっかりと繋いでしまうのだ。

 ゆきが離れたくないと思っていることに気づいてくれたからか、小松は手をギュッと強く握りしめてくれた。

 こうして手を強く握りしめられていることに気づくだけで、愛されている、愛しているを感じられるのだ。

 車に乗り込んでも、ゆきはまだ手を離したくはなかった。

 もっと繋いでいたい。

 だが、小松は運転しなければならないために、ゆきからそっと手を離した。

 手を離されて、ゆきは仕方がないと思いながらも、ほんのりと切ない気分になった。

 ずっと小松の成分が不足していたからかもしれない。

 小松に随分と会えなくて、泣きそうな想いをしたのだ。

 だからこそ、ずっと手を繋いでいたいと思っていたのかもしれない。

 車は静かに海岸線を走ってゆく。 

 秋の海は清々しい雰囲気を醸し出している。

 見つめているだけで、本当に楽しい。

 ときめきを感じるが、それは小松が一緒にいてくれているからだと、ゆきは思わずにはいられなかった。

「このあたりの海はやっぱり素敵ですね。帯刀さんと一緒だから余計だと思います」

 ゆきはつい、うきうきとした気持ちで言う。

 すると、ほんの一瞬ではあるが、小松が手をギュッと握り締めてくれた。

 強く手を握りしめて貰えるのが嬉しくて、ゆきは更に笑顔になった。

「そろそろ車を停めるよ。君は海岸を散歩したいようだからね」

「はい。散歩したいです」

 ゆきが屈託なく答えると、小松は笑顔になる。

 小松と手を繋いで散歩がしたい。

 ゆきはそれだけが楽しみだった。

 

 車は海岸横の駐車場に停めて、ふたりは手を繋いで海岸へと向かう。

 いつもよりも強く手を握られているのに、ゆきはとても柔らかで幸せな気持ちを感じた。

「しっかりと手は握り締めておかなければね……。君が海岸で躓いたりしたらいけないからね」

「有り難うございます、帯刀さん」

 ゆきは小松の手をしっかりと確認するように握り締める。こうしていると、小松に守られているのが解る。

 実感することが出来るのが、ゆきには嬉しかった。

「こうして海岸を歩いていると、本当に気持ちが良いですね。帯刀さんといるからかな、一番素敵な秋散歩のように思えます」

「そう。それは良かった。確かにこうしていると気持ちが良いね。今度はこちらの世界の薩摩に行って、同じように君と海岸をこうして手を繋いで、散歩をしたいね」

「はい!是非!!」

 ゆきは想像するだけで嬉しくて、踊り出してしまいたくなる。

 小松とふたりでこの世界の薩摩に行くのも、悪くはないだろう。

 こうして柔らかくて優しい心地好い風に吹かれて、ふたりでのんびりと歩く。

 薩摩の海岸だと、ロマンティック度は上がってゆくだろう。

 それがゆきには楽しみだ。

 ゆきは、幸せでロマンティックで満たされた気分になりながら、すぐ横で支えてくれている小松を見つめた。

 小松は、ゆきだけに見せてくれる優しく魅惑的な笑みを向けてくれる。

 それがゆきには嬉しい。

 笑みを称える小松は、なんて素敵なのだろうか。

 愛しているから、誰よりも夢中になって見つめてしまう。

 つい小松を見つめるのに夢中になってしまっていたからだろうか。

 しっかりと小松に手を握られているにも関わらず、ゆきは砂浜に足をとられてしまった。

 声にならない悲鳴を上げた途端に、小松の逞しい腕にしっかりと抱き留められた。

「……全く、君って子はどこまで不注意なの!?」

 小松が不快そうな声を上げたものだから、ゆきはしょんぼりとしてしまう。

 いつも子供のように抜けているから、呆れられているのだ。

 ゆきはついしょんぼりとしてしまう。

 ゆきがしょんぼりとしていると、小松が更にギュッと強く抱き締めてきた。

 息が出来ないぐらい情熱的に抱き締められて、ゆきは驚いて小松を見上げた。

「……君は、私がこうして抱き締めて支えていないと、ダメな子のようだね……」

 小松は艶やかで何処か甘い意地悪が滲んだ声に、ついうっとりと聞き惚れてしまう。

 すると、小松の潔癖そうで、情熱的な唇がゆっくりと落ちてきた。

 唇が重なると、世界で一番幸せな女の子になる。

 大好きなひとのキスは、何よりも威力がある。

 何度もキスをして、時には深くキスをする。

 こうしてキスをして、されているだけで、全身が満たされて甘い気持ちになる。

 何度も、何度も、唇を重ねて、ゆきは情熱で全身がとろとろにとろけてしまうのではないかと思った。

 このままこの先のこともしてみたい。

 何度も唇を重ねてしてみたい。

 なんて欲望の強い淫らな女なのだろうかと、つい思ってしまう。

 何も知らない状態で、小松色に染められてしまったが、されはとても嬉しいことだと、今は思っている。

 小松色に染まった自分が好きだ。

 とはいえ、未だに自分からは「抱かれたい」とは、ゆきは言えない。

 小松から言ってくれるのを待ってしまう。

 お互いの唾液でベタついた唇が離された。

 ようやく空気を吸うことか出来るのに、ゆきは物足りない。

 まだまだ情熱的にキスをしたいとすら思ってしまう。

 大好きな小松だから、直ぐにキスをして欲しいと思った。

 その気持ちを眼差しに込めて、ゆきは潤んだ瞳で小松を見つめた。

 だが、小松は真摯な眼差しを向けてくるだけで、甘さが足りない。

 はしたないと思っているのだろうか。

 ゆきは不安になって小松を見上げた。

 すると小松は、ゆきを更に引き寄せるように、しっかりと支えるように抱き締めてきた。

「……ゆき、これから大切な話をするよ。よく聞いていて」

 小松のシリアスで、低い落ち着いた声に、ゆきは戸惑いながらも頷いた。






マエ モドル ツギ