*溢れる想い*


 小松は、海岸で秋風と戯れるゆきを見つめていると、とても美しくてこのまま抱き締めて、離したくないと思った。

 息が出来ないぐらいに美しい。

 ゆきを見つめるだけで、胸がいっぱいになる。

 こんなにも満たされる感情を抱いた事はなかった。

 同時にこれほどまでに誰かを愛した経験も、小松にはない。

 ゆきと出逢うまでの永い月日は、一体なんだったのかと思わずにはいられない。

 ゆきと出逢うまでは、本当の意味で、愛というものが何なのかということが、解らなかった。

 小松は、ゆきと出逢えたことを感謝せずにはいられない。

 誤って小松の時空に召喚されてしまった神子。

 よくぞ間違えてくれたと、小松は思わずにはいられない。

 間違えなければ、ゆきとは出逢うことはなかったし、こうして恋仲になることもなかったのだ。

 それは本当に感謝せずにはいられない。

 奇蹟の出逢い。

 そう呼んでも過言ではない。

 小松は自分の運命に心から感謝をした。

 ゆきの美しさに、小松は見惚れながら、そのまま抱き締めたくてしょうがなかった。

 この腕に閉じ込めて、そのまま離したくはなかった。

 これほどまでに愛している相手はいないと、思わずにはいられなかった。

 どんなカジュアルなスタイルをしていたとしても、ゆきは誰よりも気品に溢れ、そして美しい。

 清楚なイメージを越えた気品が、そこにはある。

 小松はゆきを見つめながら、こんなにも気品があるのは、ゆきだけだと、思わずにはいられなかった。

 今まで様々な姫を見つめていたけれども、その中でも、ゆきは気品が溢れていた。

 輝いていた。

 それはきっと、ゆきが誰よりも強い信念を持っていたからだろうと、小松は思わずにはいられなかった。

 不意に、ゆきが砂浜に足をとられてしまった。

「……あっ……!」

 ゆきらしいと言えば、ゆきらしい。

 小松は、ゆきが転んで砂だらけにならないように、咄嗟に腕を出して、柔らかな身体を抱き留めた。

 抱き留めた瞬間、余りにも柔らかくてふわふわとしたゆきを、小松はギュッと抱き締めてしまう。

 このまま腕に閉じ込めて、離さないようにしてしまいたい。

 柔らかくてこれ以上ないぐらいに愛しい。

 もうこれ以上、ゆきと離れてはいられない。

 ゆきを愛している。

 ゆきをこれ以上、ひとりには出来ない。

 それを抱き締めている一瞬に、小松は感じていた。

 小松はゆきとしっかりと向き合う。

 もう言うしかないのだ。

 愛しいひとへの一言を。

 誰にも渡す気はない。

 本当に誰にも。

 小松は、ゆきとゆっくりとふたりで向き合う。

「……ゆき、今から言うことはとても大切なことだから、きちんと聞いていて」

「はい……」

 ゆきはほんのりと緊張しているように、身構える。

 ドキドキしているようで、それがとても可愛かった。

 だが、小松もやはり柄になく緊張していた。

 それはやはり、人生で最も大切な話を伝えなければならないからだ。

 これを伝えれば、ゆきは自分のものになってくれるのだろうか。

 そんなことを、小松もつい考えてしまい、緊張していたのだ。

 ゆきの澄んだ柔らかな眼差しが、小松だけを見つめている。

 小松は深呼吸をして、ゆきと向き合った。

「……ゆき、私は、もう耐えられないし、我慢が出来なくなっているんだよ……」

 ゆきは小松の言葉をネカティブに取ったのか、ほんのりと泣きそうな顔をしている。

 泣きそうな顔が最も可愛いと思うなんて、サディスティックな部分があるのだろうか。

 こんなに可愛いゆきの顔は、絶対に誰にも見せたくはない。

 自分だけのものだと、小松は強く思った。

 本当に可愛い。

「……ゆき、君ももう我慢が出来なくなっているはずだよ?」

 小松は、ゆきを焦らすように、フェイスラインをゆっくりとなぞってゆく。

 すると、ゆきは本当に全身が蕩けてしまうとばかりの、官能的で優美な表情を浮かべた。

「……ゆき、もう私から離れては駄目だよ。君はずっと私のそばにいなさい。逢えない時間なんて、合理的ではないからね。全くの時間の無駄だよ。だから、あえて言うよ。一緒に暮らすよ。離れている理由なんて、私たちにはないからね……」

 つい真っ直ぐものが言えないのは、やはり性格が殃していると、小松は思わずにはいられない。

「……同棲……ですか?」

 素直すぎるゆきの反応に、小松は苦笑いを浮かべた。

「そんなわけがないでしょ。ゆき、お嫁に来なさい、私のところに」

 小松は、あえて結婚して欲しいとは言わずに、ゆきに命令口調で言い切った。

 ゆきは一瞬、驚いた様子だったが、直ぐに顔を真っ赤にさせる。

 その表情はとても初々しくて可愛らしいに、大人の女性としての艶やかな美しさが同時に見受けられる。

 可愛らしさと艶やかさと美しさ。

 これが同時に輝かせることが出来るのは、ゆきしかいない。

「……はい……」

 ゆきは消え入るような声で、そっと呟く。

「何、聞こえないよ、ゆき」

 小松はわざと聞き返す。

 本当は、踊り出したくなるぐらいに幸せなのであるのだが。

 小松はわざと意地悪に訊いてしまう。

「ゆき、もう一度」

「……はい」

 ゆきは本当に恥ずかしそうにしながら、言葉を集めているのが解る。

「……帯刀さんのお嫁さんにしてください……」

 ゆきは本当に恥ずかしそうに話しているが、それがまた可愛い。

 小松とは、既に大人の男女の関係であるのにもかかわらず、なんて初々しくて可愛いのだろうかと、思わずにはいられない。

「今すぐにでも君を妻にするよ。ご両親のお許しを頂いたら直ぐにでも」

 小松はゆきにキッパリと宣言する。

 ゆきの両親には、直ぐにでも許しが貰える自信はある。

 そのために色々と根回しをしてきたのだから。

 本当は、今すぐにでも、ゆきをお持ち帰りしたいと思う。

 そして一生離れないのだ。

 ゆきをずっとそばにおきたかった。

 ただ、やはりきちんとやるべきことはやらなければならないと、小松は思ってはいる。

 きちんと結婚式を行わなければならない。

 それにもう少しだけは、ゆきにもゆきの両親も一緒にいたいと思うだろう。

 そんなことを考えたら、実際には今すぐにでも一緒になりたいという小松の我が儘は通らないだろう。

 これはしょうがない。

 小松はそれでも、今よりも堂々とゆきと一緒にいられるようにしたいと、思わずにはいられなかった。

 週末だけでもずっと一緒にいるようにしたい。

 小松はそれが出来るように、得意の根回しをすることにした。





マエ モドル ツギ