*愛するということ*


 小松の情熱に溺れてしまったら、肝心のことが訊けやしない。

 だが、小松は、いつもよりも激しくゆきを求めてくる。

 そこには欲望というよりは、激しい嫉妬と愛が感じられる。

 だからこそ、ゆきは拒めなかった。

 付き合うようになって随分経つし、肌を何度も重ねている。

 それでも、小松はゆきを激しく求めてくれている。

 欲望だけではないということは、ゆきにもいやと言うほど解る。

 だからこそ、このまま今は流されたいと思う。

 後で訊けば良いのだから、今は愛するひとに身を任せたい。

 ゆきは、自分自身のインナーにある、小松への愛情と欲望に、素直になろうと決めた。

 最初は、抵抗するかのように躰を固くしていたのに、ゆきは力を抜く。

 それを無言の同意だと理解をしたのか、小松はゆきを思いきり抱き締めてきた。

「……ありがとう、ゆき……」

 小松の艶やかな囁きに、ゆきは嬉しくて、蕩けてしまいそうになった。

 小松に、自分自身に素直になって、ゆきは愛するひとを抱き締める。

 小松は、ゆきの纏っているものを丁寧に剥がしてゆきながら、幸せそうに息を乱す。

「……ゆき、私は最近、ずっと君とこうしていたかった……」

 小松は切ないぐらいにゆきを、求めるように呟く。

 こんなにも切迫感のある甘い囁きを聴かされると、ゆきは胸でいっぱいになった。

 ゆきはそのまま小松の愛の世界に身を委ねる。

 こんなにも切なくて幸せな瞬間は、他にはないと思った。

 

 愛し合った後、ふたりはしばらく抱き合っていた。

 何も話さなくても、こうしているだけで幸せな気持ちになる。

 幸せな温もりが気持ち良くて、ふたりはゆったりと微睡んだ。

「……小松さん、疲れていますか?」

 「少しね……。最近は、かなり忙しくてね。ろくに眠っていないよ……」

 小松は苦笑いを浮かべながら呟いた。

 小松の顔色を見ると、確かにかなり疲れているように見える。

「……お休みになったほうが……」

「君と一緒にこうしていると疲れは取れるから大丈夫だよ」

 小松は更にゆきをギュッと抱き締めてくれる。

 小松はまるでゆきに甘えて依存するかのように、抱き締めてきた。

「……じっと、こうしていて……。構わない?」

「はい……」

 ゆきが返事をすると、小松は嬉しそうに微笑み、そのまま目を閉じた。

 小松は暫くじっとしていたが、直ぐに寝息が聴こえてくる。

 よほど眠かったのだろう。

 疲れが滲んでいるのが解る。

 小松の綺麗な髪を撫でてやると、ゆきは優しい気持ちになる。

 目覚めたら、一緒にいた女性のことや、ずっとメールの返事をくれなかった理由を訊かせてくれるだろうか。

 ゆきは少しだけ不安に思いながら、そっと目を閉じた。

 愛し合った時は、小松がゆきを愛してくれていることは、犇々と伝わってきた。

 だが、こうして抱き合って温もりを共有しているのに、ゆきは不安で堪らなくなった。

 ゆきは、切ない気持ちになるのを感じながら、目を閉じる。

 小松の情熱を深く受け取って心地よい疲労を手にしていたからか、ゆきはいつのまにか眠りに落ちていた。

 

 どれぐらい時間が経過したのかが解らない。

 ゆきは目覚めて時計を見る。

 すると、思っていたほど時間が経過していないことに、気がついた。

 まだ八時過ぎだ。

 今からならひとりで家に帰ることが出来るだろう。

 ゆきは、ベッドから静かに出ると、衣類を拾って、身支度を整える。

 小松には、女性のことや、ずっとメールの返事がなかったことを聞き出したかったが、それはまた後日が良いかもしれない。

 眠っている小松を起こしてしまうのは忍びないと思ったからだ。

 ゆきは身支度をしながら、ブラインド越しに夜景を眺める。

 この世界と小松の世界。

 こうして見ているとかなり違う。

 苦しくなるぐらいに。

 小松はこの世界に暮らしはじめて、息が詰まることはないだろうかと、ゆきはぼんやりと考えていた。

「……!!!」

 いきなり背後から抱き締められたかと思うと、首筋に体温よりも少しだけ冷たい唇を感じる。

「……何処に行くの……!?」

 息が出来ないぐらいに抱きすくめられて、ゆきは想わず目を閉じた。

「……ゆき、君がいないと私は眠れないんだけれど?」

 小松はゆきを帰さないとばかりに、かなりきつく抱き締めてくる。

「……帰らないほうが良いのですか?」

「帰らないで良いと言うよりは、帰さないってことなんだけれど」

 小松はクールに呟くと、ゆきに躰を押し付けた。

「……君は、君がいないと眠れない男を置いてきぼりにするの? そんなに君は冷たい子だったけ?」

 意地悪さと艶やかさが共存するかのような声で囁いた後、小松はわざと音をたてて、ゆきの首筋にキスをしてきた。

 小松に愛されて間がないから、ゆきはかなり敏感になってしまう。

「……小松さんのイジワル……」

「君が相手だと、私は“ドエス”とやらになるようだよ……。覚悟をしておくんだね……」

 小松はからかうように言いながらも、ゆきを離そうとはしない。

「……帰さない……。今夜は、帰してしまえば、後悔してしまうような気がするから……」

 小松には珍しく、ゆきに縋るように、強く抱き締めてきた。

 こんなにも求められたら、さっさと帰る訳にはいかなくなる。

「……帰らないですから……、小松さん、私が知りたいことを教えて下さい……」

「君が知りたいことを?」

 小松はゆきの瞳をじっと見つめた後、真摯な表情になった。

「ゆき、伝えて」

 小松は本当に知りたいとばかりに、ゆきを見つめた。

「……どうして、ずっとメールをくれなかったんですか?」

「忙しかったからだよ……。かなり色々とあったからね……。だけど、君のメールはきちんと読んでいたよ。忙しい中の、唯一の癒しで息抜きだった……」

 小松は切ない笑みを浮かべながら、ゆきの頬をゆっくりと撫で付けた。

「返事は出さなかったけれど、読んでいたよ。本当に癒しだった……」

 小松がゆきのことを誠実に思ってくれているのは、感じられる。

 だが、まだきちんとゆき自身が理解することが出来なかった。

「小松さん、時間がないと仰っていましたが、では、先日、とても綺麗な女性と楽しそうに歩いていましたが、あの方は、とのような方でしょうか?」

 遠回しで言ってもしょうがないから、ゆきは正直に言うことにした。

「……仕事がらみのひとだよ。それ以上でも以下でもないよ。それだけ」

 小松はクールに言うと、ゆきを更に自分の躰に密着させる。

「……小松さんはとても楽しそうにしていたから。大好きなのかなって……。その女の人のことを……。お似合いだったし……」

 ゆきがおずおずというと、小松はいきなり抱き上げて、睨み付けてくる。

「こ、小松さんっ!?」

「そういうことを言う子はおしおき……。決まっているでしょ?」

 小松はいじわるく言うと、再びゆきをベッドへと運んだ。





マエ モドル ツギ