3
さあ、こちらのドレスをお召しになって下さいね。とってもお似合いになるかと思いますよ」 女性はニコニコと微笑みながら、ゆきとドレスを交互に見て、幸せそうにしている。 ゆきは自信がなくて、なかなかドレスに手を伸ばせない。 小松がドレスを選んで下さったのは嬉しい。 だが、そのドレスが似合わなかったら、泣くよりも哀しいとゆきは思った。 だから勇気がない。 このドレスを身に纏うのが。 ゆきの気持ちに気付いたのか、女性は落ち着いた笑みを浮かべて、ゆきを励ますように見つめてくれた。 「大丈夫ですよ。小松さまがあなた様の為だけに選んだドレスなんですから。あなただけのことを思って、小松さまが選んで下さったドレスなんですから、似合わない筈がございません。お似合いになるって決まっていますから」 女性はゆきを全面的に肯定してくれて、勇気をくれる。 ゆきも絵がになる。 大好きなひとが選んでくれたものだから、必ず似合う。 ゆきはとてもロマンティックで満たされた幸せな気分に浸りながら、女性を見つめた。 「では、着てみます。帯刀さんが選んで下さった素敵なものだから」 ゆきはなんて幸せなのだろうかと思いながら、ドレスに手を伸ばす。 「ではお着替えをしましょうか」 「はい」 今度は自信を持って、小松の選んだドレスに袖を通すことが出来た。 ゆきは、深紅のオフショルダーのミニドレスに身を通して、最後に気品あるアクセサリーを着ける。 「まあ!素敵ですよ!」 「有り難うございます」 スタッフに絶賛されて、ゆきは更に自信を持つ。 先程までは、小松にこの姿を見せたくはなかったのに、今は見せたくてしょうがない。 小松に綺麗だと、可愛いと言って貰いたかった。 「では、鏡の前で確認されますか?とってもお似合いですよ」 スタッフに鏡の前に連れていかれて、ゆきは驚く。 自分だとは思えないぐらいに、綺麗にして貰えている。 素直に嬉しい。 まるで魔法だと思えてしまうぐらいに素晴らしい。 だが、こんなに綺麗にして貰っても、まだ小松とは釣り合わないのではないかと思ってしまう。 小松ならば、もっと美しく知性の溢れた大人の女性が似合うのではないかと、思わずにはいられない。 ゆきはほんのすこし自信なく微笑んだ。 「後はハイヒールを履きましょうか。お似合いですよ、このスタイルは」 女性が差し出してくれたハイヒールは、程よい高さで、ゆきは履きやすかった。 恐らくは、小松がゆきがハイヒールは初心者レベルだと察して、用意してくれたものなのだろう。 だから履きやすい。 だが、大人の女性になった気分にもなれた。 「これでバッグを持てば完成です。気品が溢れていて、とても綺麗ですよ」 「有り難うございます」 差し出されたバッグは小振りだが、とてもスマートで気品がある。 合理的な小松が選んだのに相応しいものだ。 「後はこのピアスを着けてください。お似合いです。小松さまが選んで下さったアクセサリーです。シンプルで美しく、あなたにピッタリですね」 「有り難うございます」 ゆきはうっとりと笑顔になりながら、泣きそうなぐらいに幸せな気分になった。 不意に若手の女性スタッフがやってくる。 「先生、小松さまが到着日されました」 「有り難う」 小松が戻ってきた。 ゆきはドキドキし過ぎて、急に様々なものを意識してしまう。 ドキドキし過ぎて、何だか落ち着かなくなった。 ゆきが背筋を伸ばしながら、ドキドキして待っていると、小松がスーツ姿で颯爽とやってくる。 タキシードを然り気無く着こなした小松は、どこから見てもパーフェクトだった。 素敵だと思うのと同時に、ゆきは急に不安になってしまった。 こんなにも素晴らしい小松に、自分は釣り合うのだろうかと。 小松のうっとりとするほどの素晴らしさを見ることが出来るのは嬉しい。 だが、それだけだ。 「ゆき、行こうか」 「はい」 小松は相変わらずクールな眼差しをゆきに向ける。 まるで、ゆきの姿を値踏みするような姿だ。 クールな眼差しで見つめられると、ゆきはどうして良いのかが解らないぐらいに、緊張してしまう。 小松は称賛もけなしもしない。 気に入ってはくれていないのだろうか。 それが不安で堪らない。 ゆきは妙に緊迫した気分になりながら、小松を見上げた。 「さ、行くよ。余り時間がないからね」 小松はさらりと呟くと、ゆきの手を取った。 しっかりと手を繋がれる。 まるでゆきを何処にも行かせないとばかりに強く手を握られる。 その強さは、小松がゆきをしっかりと引っ張ってくれているのに他ならない。 ゆきは手を握り締める強引な強さを、更に好ましく思った。 パーティー会場に行くのは、運転手付の車だと思っていたが、そうではなく小松自らの運転だった。 ゆきにとってはそのほうが、有りがたかった。 小松と二人きりの方が良かった。 車内では小松は無駄なことは話さない。 いつもそうだからしょうがないのだが。 運転している小松を横目でちらりと見つめる。 やはり隙がないぐらいに素敵だとゆきは思った。 「ゆき、もうすぐパーティー会場のホテルだよ。気を引き締めて」 「はい」 ゆきは更に緊張を感じながら、背筋を伸ばした。 きっと小松がリードしてくれるから大丈夫だ。 会場であるホテルが見えてきた。 かなりのハイクラスだ。 ゆきは見上げるだけで、また緊張してしまった。 ホテルの手前で、不意に車が停まった。 「ゆき、緊張している?」 「少しだけ……」 ゆきが素直に言うと、小松は顔を近づけてきた。 「……緊張が飛んで行くおまじないだよ」 小松は低い声で囁きながら、ゆきを不意に抱き寄せてくる。 緊張どころか、余計にドキドキしてしまうではないか。 小松は、ゆきの反応を楽しむかのようにくすりと笑うと、そのまま唇を荒々しく重ねてきた。 先程までのソフトな雰囲気とは正反対の、官能的で情熱的なキスだ。 ゆきの総てを奪ってしまうような、そんな激しいキスだ。 今、ここが街中で、車の中であることを忘れてしまいそうになるぐらいに、激しく艶のあるキスだった。 小松の舌が口腔内に入り込み、ゆきを艶やかに追い詰めて行く。 舌を絡ませあって、限界になるぐらいに心も身体も昂る。 唇が艶やかに腫れるまでキスを受けて、ようやく離して貰えた。 ゆきがとろんと艶のある眼差しで小松を見つめても、目の前のひとは全く変わらない。 「……さ、行くよ」 「……はい」 小松は何事もなかったかのように、車をホテルまで進める。 小松が冷静なのが、ゆきは悔しくてしょうがなかった。 |