*アナタイロ*


 パーティーの間中は、小松は常にゆきの傍に居続けてくれた。

 どう立ち振舞えば良いかが分からなかったから、ゆきは助かった。

 ずっと小松は、手を繋いだり、腰を抱いたりして、ゆきを傍らから離さないようにしてくれている。

 それがとても嬉しい。

 同時に、小松の動きがあからさま過ぎて、ドキドキもした。

 いつもよりもかなり密着されているようで、それが苦しいぐらいに甘い緊張を生む。

 頬が常に赤くて、チークなんて要らないのではないかと思わずにはいられなかった。

 

 ようやくパーティーがお開きになり、ゆきはホッとした。

 小松が望むように、たち振る舞うことが出来たのだろうか。

 それがとても気になる。

 ゆきは、ドキドキしながら、小松を見上げた。

 相変わらず、その横顔は、冷徹なぐらいに美しかった。

 余りに綺麗すぎて、近寄りがたさすらある。

「さて、行くよ」

 小松は何も言わずに、ただ歩いていく。

 怒ったのだろうか。

 それともいつも通りなのだろうか。

 ゆきとしては、よく分からない。

 ただ横顔を見つめながら、小松の様子を伺うことしか出来なかった。

 小松は駐車場がある地下ではなく、ホテルのフロントへと向かう。

「帯刀さん、フロントに用があるのですか?」

 ゆきの言葉に、小松は呆れたように溜め息を吐いた。

「……先ほど言ったことを忘れたの?」

 小松は少し苛立たしげに呟くと、ゆきの手をしっかりと握り締めた。

「……今夜は君とこのままここで過ごす。君を返さない。それだけだよ」

 小松は甘い囁きをゆきの耳許に吹き掛けると、フロントで素早く手続きをした。

「ゆき、行くよ」

「はい」

 小松とふたりきりで過ごす。

 そう考えるだけで、ゆきはドキドキし過ぎて堪らなくなる。

 ゆきは息が出来なくなるのを感じながら、小松に着いていった。

 エレベーターで上層階へと向かう。

 その間も、小松は何も話さない。

 ゆきはただその横顔を見守り続けていた。

 目的階にたどり着くと、小松はエスコートをして部屋まで連れていってくれる。

 一緒に夜を過ごすのは初めてじゃない。

 だが、着飾って高級ホテルで過ごすという行為が、ゆきに更なる緊張を生んだ。

 部屋に入ると、ジュニアスィートなだけあり、ゆったりと過ごすことが出来るようになっている。

 広すぎてしまい、かえってゆきは緊張してしまった。

 こんなに広い空間にふたりきりは、本当にドキドキしてしまう。

「ゆき、先ほど言ったように、ルームサービスを頼んであるから、適当に食べると良いよ。お腹すいたでしょ?」

「……それは、そうなんですけれど……」

 お腹は確かに空いているのだけれど、甘い緊張が凄くて、ゆきは余り食べられそうになかった。

 ゆきは落ち着かないのに、小松は全く余裕があるようで、静かにしている。

 ゆきは余りに落ち着かないから、つい夜景を見てしまった。

 やはり高層ホテルから見つめるホテルは、ゆきにとっては最高にロマンティックだ。

 とても美しい。

 だが、落ち着かないままで見ると、やはり美しさを半分程度しか楽しめなかった。

 小松は、直ぐにルームサービスの対応をしてくれる。

 飲み物とフルーツに、甘いチョコレート、そしてサンドイッチなどが、皿に綺麗に置かれていた。

 綺麗だと思う。

 だが、食欲は湧かない。

「ゆき、先程は余り食べなかったでしょ?しっかりと食べておきなさい」

「……はい」

 返事はしたが、胸がいっぱいで余り食べられない。

 ゆきが窓際で夜景を見つめていると、小松がいきなり背後から抱き締めてきた。

「……あっ……!」

「……どうしたの? しっかりと食べなさい」

「余りお腹が空いていなくて……」

 ゆきがはにかみながら呟くと、小松は首筋に自分の唇を押し付けてきた。

「……あっ……!」

「食べ物よりも、夜景で胸がいっぱいになってしまったのかな?夜景だけだと、後からお腹が空いてしまうでしょ?」

 小松は甘く囁きながら、ゆきの首筋にキスをしてゆく。

 こんなにもドキドキする行為をされてしまうと、余計にドキドキしてしまって、どうしようもならなくなることを、小松は絶対に分かっている。

 なのにこうしてゆきを攻めてくる。

 全くズルいとゆきは思った。

「夜景は確かに綺麗だけれどね。だけど今は、少し食べたほうが良いと、私は思うけれどね……」

 小松はゆきの剥き出しのデコルテを、柔らかく優しく撫で付けてくれる。

 そうされると、背筋が震えるぐらいに感じずには、いられなかった。

「さ、フルーツでも食べようか。おいで」

 小松はゆきの手を引くと、ルームサービスの食べ物が置いてあるテーブルまでエスコートしてくれた。

 とても座り心地が良いソファーに腰を掛けると、かなり密着してくる。

「イチゴでも食べる?」

「はい、いただきます」

 ゆきが手を伸ばそうとすると、小松に制されてしまった。

「じっとしていて。私が取ってあげるよ」

「有り難うございます」

 小松はクスリと笑うと、イチゴを指先で美しく取る。

 相変わらず、こちらがうっとりとしてしまうほどの仕草だ。

 本当に綺麗で、ゆきはついじっとその指先を見つめてしまう。

「……はい。口開けて」

 小松は楽しそうに、ゆきの唇の前にイチゴを運んでくる。

 恥ずかし過ぎて、ドキドキし過ぎてしまい、耳の後ろが痛くてしょうがなかった。

 顔が熱くて堪らない。

「ほら、口を開けなさい」

 小松に言われると恥ずかしくて、なかなか出来ない。

「ほら、君って言う子は。食べさせてあげると、言っているんだけれど」

 小松が軽く叱るように言うものだから、仕方がなくゆきは小さく唇を開けた。

「もう少し開けられないの!?」

 小松に言われてゆきは口を更に開ける。

「良い子だね……。君は」

 小松は柔らかく微笑むと、ゆきの唇にイチゴを入れる。

 なんて官能的なのだろうか。

 背筋が震えてしまうぐらいに、甘い緊張を覚えた。

 いつも以上に、イチゴが甘酸っぱい。

 食べているだけで、官能的な感情が、盛り上がってくる。

 ゆきはイチゴを食べながら、ドキドキが激しくなる。

「次は何を食べる?そうだね……、葡萄とか……」

 小松は葡萄を一粒指先で取ると、皮を剥いて口の中に入れてくれる。

 イチゴよりも葡萄が更に艶やかで、ゆきはつい瞳をとろんとさせてしまう。

「……ゆき、良い子だね……。そうだよ、もっと素直になって……」

 小松は官能的に囁くと、ゆきをそっと抱き寄せた。

 





マエ モドル ツギ