後編
|
小松の赤ちゃんがお腹にいる(かもしれない) そう考えるだけで、ゆきは緊張してしまう。 緊張といっても、決して嫌なものではない。 幸せで期待してしまうあのドキドキ感だ。 ゆきは出来る範囲でシャワーを浴びて、寝る支度をする。 ベッドに入ると、暫くして小松もベッドに入ってきた。 「気分は?」 「今はましです」 「そう。だったら眠れそう?」 小松はゆきを背後からゆっくりと抱き締めて、引き寄せてくれる。 こうして抱き締めて貰うと、安堵する。 ゆきは小松に総てを委ねることが出来る。 それは、小松を深く愛しているのに他ならない。 「……有り難うございます。ゆっくり眠れそうです。本当は、赤ちゃんがお腹にいたら、凄く嬉しいなあって、想像すると嬉しくてしょうがないんですけれど、興奮よりも眠気には勝てないみたいですよ」 「そうだね。私も明日になって、ちゃんと確定するまでは、ドキドキして眠れないんだけれどね。だけど、君はちゃんと眠りなさい……。今の君には休養が大切だと、私は思っているからね」 「……はい」 ゆきは素直に頷くと目を閉じる。 ゆきの手が、ごく自然にお腹に来るのと同時に、小松の手が重なる。 小松も誰よりもふたりの子供のことを愛してくれるひと。 ふたりの子供。 本当に嬉しい。 小松の手のひらから、子供への愛情がたっぷりと感じられて、ゆきは嬉しかった。 「明日はドキドキします。赤ちゃんがいたら本当に嬉しい」 「そうだね。私もそう思っているよ……。ほら、早く寝なさい」 「はい。お休みなさい」 「おやすみ」 ゆきはゆっくりと眠りに落ちて行く。本当に心地が良くて、すてきな夢が見られそうだった。 ゆきの寝息が聞こえて、小松はホッとして、更にしっかりとゆきを抱きしめる。 「……ゆき、君のお腹に私のややがいることは、確信しているよ……。それ以外には考えられないからね……」 小松は低い声で囁くと、ゆきのまろやかな頬にキスをする。 「……明日は病院に付き添うからね」 小松は興奮して眠れそうにないと、つい思ってしまう。 ゆきとの子供を授かることが出来るなんて、こんなに素晴らしいことは他にはない。 この時空での小松帯刀は、愛する妻との間には子供がなく、妾との 間に子供がいたと聞いている。 だが、名前と役職が同じ以外は共通点がないのだ。 だからなにも心配することはない。 こうして、ゆきとの間に子供が出来たことは、それを表しているではないか。 小松は、幸せな状況を感謝せずにはいられない。 「……ゆき、明日は私も一緒に病院に行くからね……」 小松はゆきに甘く囁きながら、深く目を閉じる。 明日が楽しみでしょうがなかった。 ゆきは気持ちが逸るのか、いつもよりも早く目が覚めた。 小松を見ると、まだ眠っているのが見える。 安らかに眠っている小松を見つめるだけで、ゆきは幸せな気持ちになる。 いつも以上に張り切って朝食を作る。 小松に喜んで貰えるだけで、嬉しかった。 食卓に朝御飯の準備が出来る。 温かな湯気と美味しそうな香りに、ゆきは幸せな気持ちになる。 だが、食べ物の臭いを嗅いでいるうちに、また気分が悪くなってしまう。 それがゆきには辛い。 小松が準備を整えてダイニングにやってくる。 ゆきが何度か浅く呼吸をしているのに気付いたのか、小松が直ぐに様子を見に来てくれる。 「ゆき、大丈夫?今朝は臭いをのこともあるから、食事は良かったんだよ」 「作りたかったんです。それだけなんですよ……」 「君らしいね。全く。休んでいなさい」 「大丈夫です」 ゆきはなるべく小松のそばにいたくて、黙っていることにした。 小松のそばにいることが、一番の特効薬であることを、ゆきは一番解っていたから。 小松と一緒に食事を始める。 こうしてふたりで笑顔で食事をすることが、ゆきには一番幸せなことだった。 ゆきは流石に自分の分は、お粥を作っておいた。 「ゆき、病院には私も一緒に行くからね。そのつもりで」 「お仕事は?」 「遅れていくと秘書には連絡しているから大丈夫だよ」 「はい」 小松の気遣いが有り難いと思いながら、ゆきはにっこりと微笑んで頷いた。 「ゆき、余り無理はしないようにね」 「はい」 小松の優しさを深く感じながら、ゆきは感謝を深く感じていた。 小松と車で病院に向かう。 ゆきが酔わないように、小松は細心の注意を払ってくれている。 これは有り難いとゆきは思わずにはいられなかった。 病院に入ると、早速、様々な検査が行われる。 ゆきは、緊張しながら様々な検査を受ける。 ドキドキして、緊張し過ぎてカチカチになってしまった。 たかが、妊娠しているかの検査を受けるだけなのに。 ゆきは緊張し過ぎている自分に、苦笑する。 検査が終わった後、小松と一緒に診察室に入る。 「小松ゆきさん。おめでとうございます、ご懐妊ですよ。今からだと、秋ですね。秋といっても、まだ暑い時期ですけれどね」 医師はにっこりと微笑んで、ゆきと小松を祝福してくれた。 これは嬉しくて、ふたりは顔を見合わせて、笑顔になった。 「有り難うございます」 小松は静かに礼を言ったが、ゆきの手を握る手のひらからは、慶びが滲んでいた。 本当に幸せで、ゆきはつい笑顔になってしまう。 「では、奥さまは少し診察台に上がって下さいね。ご主人はこちらのモニターを御覧下さい」 「はい」 医師はゆきのお腹を出すと、ジェルを塗り、超音波を当てて、モニターにお腹のなかの様子を映し出す。 そこには、小さな小さな陰が映っている。 「この豆粒のように小さなものが赤ちゃんですよ」 優しい医師の言葉に、ゆきは頷く。 小松を見ると、熱心に画像を見つめている。まるで生命の神秘を見つめているような、眼差しをしている。 「こちらの画像はプリントアウトしておきますね」 「有り難うございます」 小松はかなり熱心に画像を見つめ、本当に嬉しそうだった。 結局、画像を二枚プリントアウトしてもらい、病院を後にした。 「帯刀さん、とっても幸せで楽しみです」 「私もだよ。ただ、君は無理をすぐしてしまうから気を付けるように」 「はい」 ふたりは顔を見合わせて微笑みあう。 新しい幸せが今始まる。 |