*京都へ*


 とても気分よく、目覚めることが出来た。

 こんなことは、初めてかもしれない。

 ゆきがそばにいる。

 愛するものの温もりがそばにある。

 本当にそれだけなのに、小松は幸せで充ち溢れた気持ちになった。

 ゆきをしっかりと抱き締めているだけで、目覚めがとても良かった。

 疲れもきれいに取れてしまった。

 これならば、本当にずっとそばにいさせたいと、小松は思わずにはいられない。

 小松はゆきの寝顔を覗きこむ。

 じっと見つめるだけで、つい笑顔が魂の底から沸き上がってきた。

「ゆき、愛しているよ」

 ゆきを起こさないように、小松は囁いて、キスをする。

 いつものゆきなら起き上がったのかもしれないが、今日のゆきは疲れているのか、全く起き上がることがない。

 昨日は東京から京都へ移動したうえに、1日中、歩き回った。

 その上、昨夜はゆきにずいぶんと無理をさせてしまった。

 ゆきの艶やかで清らかな姿を見ただけで、もう自分を止めることが出来なくなっていた。

 切ないぐらいに苦しくも幸せな激情を、抑えることが出来なかったのだ。

 ゆきの清らかさを、自分の手で壊してしまいたい。

 ゆきを自分色に染め上げたい。

 ずっとそればかりを考えていた。

 ゆきの妖艶さと清らかさが交差した、官能的な女神のような姿は、自分だけが見つめていたい。

 そう強く感じた。

 だからこそ、あんなにも激しく奪ったのだ。

 あれほどまでに、誰かに欲情を覚えたのは、ゆきが初めてだ。

 勿論、そうなるだろうという自覚は、強く持っていた。

 だが、これ程のものだとは、正直、思ってもみなかった。

 今、こうして寝顔を見つめている。

 あどけなく、とても清らかな顔をしている。

 寝顔だけを見つめていると、何故だか悪いことをしてしまったような気持ちになる。

 だが、よくよく見ると、今までの寝顔とは明らかに違っていた。

 清らかであどけないのに、何処か女としての艶やかさがある。

 そこはかとなく美しい。

 その美しさは、男を知った女性にしか滲まないものだということは、小松が一番よく分かっていた。

 小松は、ゆきのまろやかな頬を指先でそっと撫で付ける。

 とても柔らかくて、気持ちが良い。

 柔らかな朝陽が、薄くゆきに射し込んできた。

 なんてきれいなのだろうかと思う。

 小松は、ふと部屋の時計を眺めた。

 まだまだ、起きるのには早い時間帯だ。

 ゆきを愛することがまだ出来そうな時間ではある。

 ゆきを見ていると、再び、愛したくなる。

 本人が恥ずかしがることは分かってはいるが、小松はゆきをしっかりと愛したかった。

 今日も観光するつもりではあるが、それよりもゆきを愛したかった。

 小松はゆきをやんわりと起こすために、身体のラインをそっと撫で付ける。

 すると、ゆきの身体が僅かに反応した。

「……ん……」

「……ゆき、目覚めてくれないかな……?」

 小松は、ゆきの頬にキスをする。

「……ん、まだ、眠い……」

「ダメ、寝かせないよ」

 小松は意地悪にそして艶のある声で、砂糖菓子のように囁くと、ゆきのうなじに口づけた。

「……あっ、んっ……」

 ゆきの色のある声が部屋に響く。

 それが小松をかきたてた。

 ゆきが眠った後、風邪を引かないようにと、小松は浴衣を着せてから眠ったのだが、またそれを脱がし始める。

「……ん、ダメ……」

 ゆきは本当に眠そうに呟きながら、無意識に抵抗を試みている。

「ダメだよ、ゆき。降参しなさい……。まあ、私が君の魅力に降参しているのかもしれないけれどね……」

 小松はクスクスと笑いながら、ゆきを更に優しく攻めてゆく。

「……ん、あっ……」

 ゆきの声が、段々と生々しくなってゆく。

 小松はゆきを追い詰めていった。

 乳房の尖端を指先でいじり始めると、ゆきはめようやく快楽に目覚めた。

 いきなり小松を見るなり、何が起こっているのかが、分からないような眼差しを向けてきた。

「……おはよう、ゆき」

「お、おはようございます、帯刀さん……」

 ゆきが戸惑うように挨拶をした隙を狙って、小松は柔らかなゆきを組み敷いた。

「……あ、あ、あのっ、た、帯刀さんっ……!」

 困惑しているゆきを尻目に、小松はしっかりと愛し始める。

「あ、あの、帯刀さんっ!?」

 ゆきは、ようやく何が起こったのかを理解したようで、焦るように身体を動かしてくる。

 だが、小松はゆきをいとも簡単に押さえ込んだ。

「……もう、手遅れ。君を愛したくてしょうがないんだからね……。ほら、私に身を任せて……。私に愛されなさい……」

 小松は、ゆきの耳元と官能的な声で囁く。

 すると、ゆきは観念したかのように、身体からゆっくりと力を抜いた。

 小松は、自分の浴衣を脱ぎ捨てると、上半身を起こして、ゆきの頬を柔らかく撫でる。

 小松の緑色の艶やかで豊かな髪が、さらりと身体に揺れる。

 ゆきは頬を赤くすると、その様子をはにかむように見つめていた。

 本当に可愛くてしょうがなかった。

「……ゆき、愛しているよ」

 小松の愛の言葉に、ゆきは素直な笑みを浮かべていた。

 

 愛し合ったあと、ゆきは今更ながら、朝に堂々と抱き合ったことが恥ずかしすぎて、蒲団から出ることが出来なかった。

 小松の顔をまともに見ることが出来ない。

 このまま蒲団から出たくない。

 蒲団ごと移動したかった。

 頭ごと蒲団を被っていると、小松が呆れ返るように溜め息を吐いてきた。

「……いつまでも寝てはいられないよ、ゆき。光源氏なら「大変縁起が悪い態度」とも言うのかな。とにかく、もうすぐ朝食だ。君が楽しみにしていた、おばんざいの朝食だけれど?」

 食べ物をだしに使うなんて、卑怯だと思う。

 ゆきは、結局は、誘惑に負けてしまい、そろりと蒲団から顔を出した。

 ると小松が、優しい眼差しでこちらを見つめてくれている。

「ほら、起きて仕度をしようか?今日も観光で回るからね」

「……はい」

 小松に柔らかく髪を撫でられる。

 そうされていると、恥ずかしさが少なくなって、落ち着いて来るのが、とても不思議だ。

 世界でたったひとり。

 ゆきの総てを知ったひとがいる。

 愛して止まないひと。

 特別な存在。

 ゆきは、幸せをじんわりと抱き締める。

「さ、着替えて。私は背中を向けておくから」

「有り難うございます」

 ゆきのことを総て分かっているからこそ、小松はこうして気遣ってくれるのだ。

 それが嬉しい。

 そして幸せだ。

 ゆきは笑顔になりながら、素早く仕度をした。

 このひととずっと一緒にいたい。

 強く思いながら。



マエ モドル ツギ