*相生*

後編


 思ってもいないことを言われて、ゆきは目を丸くした。

 まさか妊娠しているなんて、思ってもみなかった。

 日々、穏やかになり始めた愛しい時間を過ごすのに、総てを集中していた。

 もちろん、ゆきは小松の妻であるし、子供が出来てもごく自然の流れだ。

 世継ぎのことも、然り気無くは言われて、期待されているのも分かっている。

 だが、もう少し、こちらの時空に慣れてからでも良いと、ゆきは思っていたのだ。

 だからこそ、こんなに早く子供が出来るなんて、思ってもいなかった。

「きっと、御家老はお慶びになりますよ!まあ、なんて、お目出度いことなのかしら」

 本当に嬉しそうにされて、ゆきも何だか心の奥から幸せが滲んでくるのを感じた。

 幸せでどうして良いのかが、分からないぐらいに。

「ゆき、大丈夫なの!?」

 小松が直ぐ傍に駆けつけてくれる。

 振り返ると、小松が心配そうに、ゆきを見つめている。

「御家老、ご心配されなくても大丈夫でございます。奥方様は、懐妊されています」

「え……!?」

 小松は驚いたように目を見開く。それも束の間で、直ぐにいつもの落ち着いた表情になる。

「戸惑っているの?」

「思ってもみなかったことだったので、驚いてしまいましたけれど……」

 ゆきは自分の当惑を素直に口にする。

 本当に、まさか妊娠しているとは、思ってもみなかったのだ。

 小松は一瞬、厳しい表情になる。

 喜んでいないと思っているのだろうか。

 愛するひとの子供を持つと言うのは、本当に嬉しいことだというのに。

「だけど、嬉しいです。帯刀さんの赤ちゃんなんだなあって思うと凄く嬉しいです」

 ゆきはニッコリと笑顔になると、小松を見つめる。

 すると小松もホッとするように微笑んだ。

 ゆきの頬にそっと指先を近づける。

「帯刀さんも、嬉しいですか?」

「勿論だよ」

「良かった」

 ゆきもまたホッとする。小松の表情を見ていると、そんなにも嬉しくないのではないかと、思ってしまったからだ。

「……嬉しいよ。有り難う。ゆき、気分は本当に悪くない?」

「大丈夫です。今は、少しだけ落ち着いています。波があるので、何とも言えないところが、あるんですけれど……」

 ゆきが苦笑いを浮かべると、小松はそっと手を握り締めた。

「奥方様のことはお任せいたします。これから、ご出産されるまでの間、私たちでお助け致しますので」

「有り難うございます」

 もう頼る母もいないゆきにとっては、誰よりも頼りになる。

 ゆきは、この時空で、愛する人との間に生まれる子供たちと一緒に、素敵な家族を作ってゆけることを、本当に楽しみにしていた。

 

 小松にしっかりと手を握り締められながら、ゆきは寝具の中で丸くなる。

 こうしていると本当に安心する。

 小松に子供ごと守られていると、強く実感する。

「……ゆき、不安だったりしたら、私に頼ると良いよ。出来る家族をのことは助けるから」

「有り難うございます、帯刀さん。お母さんも、今まで頼りきっていた、瞬兄もいないけれど、だけど、誰よりも助けてくれて、助けてほしいと、頼りたいと思うひとに、こうしてたよって、守られるから、大丈夫です」

 ゆきは小松に甘えるように寄り添う。

「ゆき。どんなことがあっても、なにがあっても、私を頼って構わないから」

「はい、そのつもりですから」

「頼って欲しい。どんな些細なことでもね……」

 小松はゆきを、抱き締めてくれる。

 力強く抱き締められて、ゆきは幸せを深く感じる。

 愛されている。

 誰よりも。

 ゆきは小松の胸に顔を埋めると、深呼吸をする。

 こうしていると、ドキドキと安心感が一度にやってくる。

 小松に抱き締められているだけで、ゆきは、この時空でも、しっかりと子供を産み、育てることが出来ると確信が出来る。

 生まれ育った世界ではないし、小松しか、頼るひとがいない。

 小松に守られていれば、本当に大丈夫だと、ゆきは感じる。

 小松への愛を剣に、小松からの愛を盾に、この世界で生きてゆくのだから。

 小松は、まだ平らであるゆきのお腹を優しく何度も撫で付ける。

 父親としての愛が迸っていると、ゆきは感じずにはいられない。

「赤ちゃんも私も、帯刀さんの愛にしっかりと見守られているのが分かります。何だか、心も身体もしっかりと温かいと感じます」

 ゆきの言葉に、小松は穏やかに微笑んでくれる。

 優しく大きな心に、ゆきはしっかりと満たされてゆく。

「帯刀さん、赤ちゃん、とっても嬉しいです。ここで、帯刀さんと子供たちと一緒に、幸せに暮らせると強く思っています」

「子供たち」

 小松はゆきを甘くからかうように呟く。

「へ、変ですか!?」

「いや、私たちのことだから、子供はひとりでは終わらないだろうと思ってね。賑やかになるのは、とても良いことだよ。私も嬉しい」

「はい。私も嬉しいです。賑やかで素敵な家族が出来ると思うと、とても幸せです」

「ゆき……」

 小松の唇が近付いてくる。

 柔らかく唇が重なったかと思うと、しっかりと深く口付けられる。

 小松にキスをされるだけで、ゆきは蕩けてしまうような幸せを感じた。

 何度も唇を重ねて、胸が切なく高まってゆく。

 こうして深く愛されて、ゆきも深く小松を愛して。

 だからこそ、こうしてお互いの愛情を確かめあう時間が必要なのだ。

「……ゆき、愛している……。君をずっと守ってゆくよ。勿論、私たちの子供もね……」

 小松に思いきり抱き締められて、ゆきは幸せで、守られていると、心から感じた。

「帯刀さんのことを、わ、私も、愛しています……。小松さんも私たちの子供も一所懸命に守ります」

 小松のことを愛しているが、それを言葉にすると、本当にとても難しい。

 恥ずかしくて堪らなくなるのだ。

 だが、真っ赤になりながら一所懸命言うゆきを、小松は受け止めてくれる。

 小松も赤ちゃんも守りたい。

 守りたいという想いは、愛していると、同じ意味合いがあるのではないかと、ゆきは思った。

「子供は帯刀さんに似ているといいです」

「私は、君に似た子供が欲しいと思っているけれど」

 小松はゆきを見つめて、甘く見つめる。

 こうしていると本当に幸せだ。

「ゆき、これからもずっと、私は君を幸せにする。保証するよ。だから、何かあれば必ず私に伝えて、頼ってくれて構わないから」

「有り難うございます。私にも頼って下さいね」

「分かっているよ」

 小松と唇を重ねる。

 お母さん。

 この世界で幸せになります。

 愛するひとの子供を産みます。

 ゆきは心の中で、母親に愛を込めて囁いた。

 




マエ モクジ