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ゆきは苦笑いを浮かべながら、降参しながら言う。 「当たり前でしょ?君は本当に何も分かっていないね。君が皆の目を欺いて、いくら頑張ったからといって、それは無駄で無用な気遣いに過ぎないよ。自分のしていることに対して、悲観的に酔っているとしか、言いようがないよ。君が無理をすればするほどに、他の者に迷惑をかけるんだよ?どうしてそれが、君には分からないのか、私は全く理解出来ないけれどね」 小松はピシャリと言い放つ。 厳しくて冷たい言葉に、ゆきは心を突き刺されたような気分になる。 小松が言っていることは真を突いている。 だからこそ余計に傷ついてしまうのだ。 決して嫌味だとかではなく、ストレートに言っているだけなのだ。 小松は妙なオブラートに包んだ物言いはしないのだ。 泣きそうになりながらも、ゆきは何とか堪えた。 小松が正しいことを言っていることは、分かっていたのだ。 「足首を小川に浸けて、冷やしなさい。熱をとればましになるでしょ?」 小松はちゃんとゆきのことを考えて、話してくれているのだ。それがとても有り難い。 嬉しくて、今度は先程とは逆の意味で、涙が出そうになった。 「有り難うございます」 ゆきは素直に頷くと、履き物を脱いで、冷たい水に足首を浸した。 すると随分と痛みが柔らかくなる。 冷やすだけでは根本的に治せないのは分かっているが、今のゆきには有りがたかった。 「無理をするとあとに響く。対局を見据える時は、常に広い視野で見つめなければならない。君は龍神の神子として、そのような目で物事を見極めなければならないよ」 小松はキッパリと言いきる。 小松の言うことは理解できる。だが、そのような物の見方を自分が出来るかは、ゆきには到底自信がなかった。 小松のように達観した考えを持てるとは、思えない。 そうするには経験も何もかもが足りないような気がして、ゆきにはならない。 自分に出来ないと分かっているから、ゆきはつい黙りこんでしまった。 「黙りこむというのは、良くも悪くもあるよ。黙っている時は良いけれど、悪いときもあるよ。それは見極めないと。今はどちらか、解るよね」 小松はまるでゆきに諭すように言う。 小松は相変わらず厳しすぎると感じてしまうほどに、厳しい言葉をゆきに投げ掛ける。 事実を突きつけられて、苦しくてしょうがない。 「そうですね。見極めが出来るように努力します」 ゆきは力強く言い、心からそう思ったが、自信がなくて小松をまともに見られなかった。 もう少し自信を持てたらよいのにと、ゆきは思った。 目を見ないで言ったから、小松はゆきが本気でないと思ったのだろうか。 だが、小松は黙って、ただゆきの肩を優しく叩いてくれた。 本当にそれだけだった。 優しい小松の行為に、ゆきはホッとした。 厳しい言葉をゆきに浴びせても、ちゃんと心中は理解してくれている。 ゆきがどう考えているのかを、ちゃんと分かってくれている。 どれも強く主張するのではなく、あくまで然り気無くなのだ。 本当に気遣いが出来るひとだと、ゆきは思った。 だからこそ、薩摩藩の藩士から絶大な信頼を寄せられているのだろう。 「足首をしっかり冷やしなさい。休憩が終わったら、直ぐに出発しなければならないからね」 「はい」 小松の気持ちが分かり、ゆきはようやく笑顔で返事をすることが出来た。 ゆきは足をのんびりと伸ばす。 すると小松は優しく笑ってくれた。 きっと、ゆきが小松の想いを理解したと、ちゃんと汲んでくれたのだろう。 それは嬉しかった。 涼しげな風が吹いてきた。 風に吹かれているだけで気持ちが良い。 ゆきは気持ちが良くて、思わず声を上げた。 それを見守るように小松がそばにいてくれる。 このまま時間が止まってしまえば良いのにと、思わずにはいられなかった。 小松は、眩しい光のような笑顔でいるゆきを、とても甘いやかな気持ちで見つめる。 温かくて、優しい気持ちになる。 同時に何処か甘酸っぱくて、苦しい感情でもある。 小松は、ゆきへの感情が何なのかは、何となく分かってはいた。 この気持ちが恋でなくて、何なのだろうかと。 時には穏やかに。 そして、時には優しく。 時には情熱的に。 時には、息が出来ないほどに激しい愛。 小松は、それがどのような感情であるかは、充分過ぎるほどに分かっていた。 最初は認めたくはなかったくせに、今は潔く認めている。 こんな想いを抱くのは初めてだ。 だが、この想いは自分だけの想いだ。 だからこそ、ゆきに押し付けてはならない。 小松はこのことだけは、肝に銘じていた。 今は見守る。 本当にそれしか、今は許されないのだろうか。 許されるのならば。 そこまで考えたところで、小松は分からないように溜め息を吐いた。 今は焦ってはならない。 小松は、見守るだけでは物足りないほどに、恋心が滲んで、最早、後戻りが出来ないところまできていることを感じていた。 小松がただそばにいてくれている。 それだけで、ゆきは安心する。 小松にいくら厳しいことを言われたとしても、何とか頑張ることが出来るのは、こうして見守ってくれるからだと、ゆきは強く感じていた。 「ゆきくん、そろそろ行くよ。余り長居は出来ないね」 「はい」 ゆきは気を引き締める。 そう、闘わなければならないのだ。今はともかく戦うことが大切なのだ。 闘ってゆけば、いつか真実にたどり着くことが出来るだろうと、ゆきは確信する。 いつか自分達が求める結末にたどり着くことが出来るだろう。 ゆきはそう思いながら、小松を真っ直ぐ見つめた。 「行きましょうか」 ゆきは小川から足を出して、身支度を整える。 力がみなぎってくる。 「さあ、神子殿、皆が待っているよ。行こうか。私は殿を務めるから、先に行きなさい」 小松に言われて、ゆきは頷いて、先を急ぐ。 大丈夫。 振り返れば、小松が見守っているから、頑張ることが出来る。 ゆきは確かめるようにもう一度小松を見つめる。 つい笑顔になる。 幸せな気持ちになり、同時に沢山の勇気が溢れてくる。 大好きなひとが見守ってくれている。 そう思うだけで、ゆきは前を向いて頑張れる。 小松と視線が絡んだ。 見守ってやると、視線が伝えてくれている。 大丈夫。 本当に大丈夫だ。 ゆきは、魂の底から勇気がわくのを感じながら、仲間たちのところへと向かった。 |