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確かに今や心は完全に小松に支配されてしまっている。 小松のことを考えない日などないのではたいかと、ゆきは思わずにはいられない。 それぐらいに小松帯刀の占拠率は高いと言っても良かった。 ゆきは確かに小松のものだ。 だが、小松はいつゆきのものになってくれるのだろうか。 そんなことばかりをぐるぐると考えてしまった。 「ね、ゆき、気分転換をしない?」 「気分転換ですか?」 「そう、気分転換……。気分転換に出かけない?」 小松からの思いがけないデートの誘いに、ゆきは満面の笑顔になった。 「嬉しいです!小松さんとふたりでお出掛けが出来るのが、とても楽しみです」 ゆきは、心が弾んで、つい明るい笑顔で話してしまう。 「そう。それは良かった。次の休みの日に行こうか。ゆき、次は風邪を引かないようにね。風邪を引くと大変でしょ?看病も良いけれど、やっぱり、元気に過ごすのが一番でしょ?」 「そうですね」 「だったら、風邪を引かないように、健康管か理はきちんとしなさい」 「はい、小松さん」 「良い返事だね。良い子だ」 くすりと小松は笑うと、ゆきの手を柔らかく握りしめてくれた。 いつもこうだったら、素直に明るく返事が出来るのにと、ゆきは思う。 「今週末のことを考えたら、それだけで楽しく仕事が出来るでしょ?」 小松はくすりと笑いながらも、何処かクールに呟いた。 「何だか、ニンジンをぶら下げられた気分です」 ゆきは楽しみでしょうがなくて、ついくすくすと笑ってしまう。 「ニンジンをぶら下げられているのは、私の方だよ」 「え……?」 ゆきが目を見開いたままで小松を見つめると、フッと甘く笑われてしまった。 「とにかく、週末を楽しみにしているよ。うちに帰ろうか」 「はい」 ゆきは嬉しくて、いつまでも表情を綻ばせたままだった。 いよいよ明日は週末。 時間をとるために、小松はかなり精力的に仕事をしていた。 勿論、ゆきも、個人秘書として、小松をサポートする。 金曜日の夜は出前を取り、ふたりで黙々と仕事をする。 かなりの量の仕事だったが、ゆきは楽しんで仕事をすることが出来た。 きっと目の前に、極上のニンジンがぶら下げられているからだ。 だからこそ、疲れ知らずに頑張ることが出来た。 「ゆきくん、ご苦労様。これで片付けなければならない案件は総て片付いたよ」 「はい」 小松と協力をして、ひとつのことをなし終えたことは大きいと、ゆきは思った。 これだけでかなりの満足感がある。 「さあ、帰ろうか。うちに帰ったら、明日の支度をして。明日は9時には出発するから。それまでに、一泊の準備ぐらいは出来るでしょ?」 「え……?」 ゆきは心臓が跳ね上がるほどドキリとした。 「お、と、ま、り、ですか……」 自分で口にして、ゆきは緊張する。 「そうだよ。何、恥ずかしがっているの?今更でしょ?だって、私たちは一緒に暮らしているんだから」 小松が何ともないとばかりに平然と言うものだから、ゆきは益々緊張してしまった。 ゆきは真っ赤になってしまい、どうして良いのかが分からない。 「ゆき、そんなに真っ赤になっているということは、私をそれだけ意識をしてくれているということかな?」 小松にからかうように言われて、ゆきは更に恥ずかしくなる。 「とにかく。泊まる準備をしていて。君もゆっくりのんびりしたいでしょ?」 「あ、有り難うございます……」 ゆきはドキドキが止まらないのを感じながら、頷く。 「しっかりと疲れを取って、のんびりするには、やはり、泊まりで近場。これが一番」 「はい」 返事をしながらも、ゆきの鼓動は甘いときめきのリズムを刻まずにはいられない。 「さあ、支度したら、早くお風呂に入って寝てしまおう」 「はい」 ぎこちなく返事をしながら、ゆきは甘い緊張で眠れそうにないと思った。 翌日、9時に車で家を出た。 小松がハイブリットカーで、何処かへ連れていってくれる。 「小松さん、どちらに?」 「のんびり出来るところだよ」 小松はいたずらっ子のように微笑むと、ゆきをちらりと見た。 まるでマジカルミステリーツアーだ。 小松が何処に連れていってくれるのか。 ゆきにとっては、最も楽しみな出来事のひとつだ。 「どちらに向かっているんですか?そろそろ、教えて下さい」 「ダーメ。楽しみは後から取っておいたほうが良いでしょ?まあ、ヒントは解放感があって、気持ちが良いことかな?」 「それだけだと、分からないですよ」 「車の進む方角を考えると分かるよ」 小松はまたくすりと笑う。 仕事の時はこんなにも、笑うことはない人だが、こうしてよく笑ってくれることが、ゆきは嬉しかった。 車は海辺の温泉地に向かっていることを、ゆきは直前になって分かった。 ゆきが小松にそのことを伝えると、「今ごろ分かったの?」とからかわれてしまった。 「ゆき、先ずはホテルにチェックインしてから近くを観光するよ」 「はい」 リラックスする場所だろうと推測して、カジュアルなワンピースを着ていて良かった。 チェックインをして、荷物を預けた後、小松と観光をする。 車よりものんびりと歩いて観光をしたい。 その想いに気付いたのか、小松はゆきの手をしっかりと握りしめて、ホテルから出た。 しっかりと手を繋ぎながら、海辺の町を散歩する。 潮風がロマンティックで、ゆきは思わず笑顔になった。 こうしていると本格的なデートをしているようで、ゆきは嬉しい。 のんびりと歩くだけでも、リラックスすることが出来た。 「こうしているだけで楽しいです。潮風が良いですね。本当に、日常ではない世界にやってきたみたいで、とても楽しいです」 「良い気分転換になったみたいだね。良かった」 小松は眩しげに目を細めると、空を見上げた。 「ね、ゆき。あの木陰に入ろうか?」 「はい」 手を繋いだまま、何故か走りながら木陰に入る。 それだけで楽しい。 木陰に入り、笑顔でいると、ふと小松に頬を撫でられる。 そのまま、両手で頬を包まれて、キスをした。 ゆきの恋心が最高潮に沸騰して行く。 もっともっとドキドキしたい。 もっともっと甘いときめきが欲しい。 その想いに応えるように、小松は何度も軽いタッチでキスをくれる。 日向と汐の香りがするキスだった。 |