*愛人契約*

15


 宿に戻り、ゆきは早速、温泉に入った。

 部屋にも温泉はあるが、先ずは大浴場に入って、温泉の醍醐味を体験したかった。

 温泉に入っているだけで、本当に幸せな気持ちになる。

 同時に、小松を意識せずにはいられなくなった。

 肌がいつもより滑らかになっているだけではなく、小松を強く求めているのが、ゆきにも解った。

 触れられたいと、細胞のレベルで囁いているのが、ゆきには解る。

 そう考えているだけで、緊張でどうにかなりそうだった。

 温泉のお湯が肌に浸透する。

 小松のことを意識する余りに、ゆきはドキドキし過ぎて、おかしくなりそうだった。

 いつもよりも念入りに身体を清めて、全身のボディケアを努める。

 意識し過ぎているのかもしれない。

 だが、それ以上に、ゆきは小松に触れてもらいたいといはう、衝動を感じていた。

 ゆきの女の部分がそうさせると、初めて意識をする。

 自分が、もう恋に夢見る少女のままではいられないことを、ゆきは強く感じていた。

 温泉から出た後、ゆきは、身体と顔をいつもよりもたっぷりとケアをした後、部屋に戻った。

 部屋に戻るのがドキドキしてしょうがない。

 小松はもう部屋に戻っていることだろう。緊張しながら、ゆきは部屋に入った。

 部屋に入ると、小松は窓の外をじっと見つめていた。なんて絵になるのだろうかと、ゆきは思う。小松を見つめるだけでドキドキせずにはいられない。

「戻ったの?」

「はい」

「こちらにおいで」

 小松に手招きをされて、ゆきらドキドキしながらそばにいった。

 小松とふたりで、柔らかな闇を見つめるなんて、幸せ。

「綺麗ですね」

「そうだね」

 小松は優しく微笑むと、ふんわりと背後から抱きしめてくる。

 柔らかく抱きしめられるだけで、鼓動がみょうちきりんなリズムを刻む。

 それがゆきには恥ずかしい。

 きっと小松に聴こえている。それぐらいに音が大きい。

「ね、ゆき、緊張してるの?」

 小松はゆきを楽しそうにからかってきた。

「小松さんは私をからかってばかりです……」

 ゆきが拗ねるように言うと、小松は更に強く抱きしめてきた。

「知らなかったの?私は君をからかうのが趣味なんだよ。君は可愛い反応するからね、楽しい」

「……小松さんのバカ……」

「バカで結構だよ」

 小松に抱きしめられると、世界で一番幸せな女の子になったような気分になる。

「こうして、空を見るのが、一番良いと思うけれどね。君はとても良い香りがするしね……」

 首筋に一瞬、甘いキスが降る。

 背中がゾクリとする甘い旋律に、ゆきはとろけてしまいそうになった。

「……夕食だから、ここで今はおしまい」

 小松はあっさりと言うと、ゆきから身を引いてしまった。

「続きは後で……。良いね?」

 小松はフッと微笑みながら、宣言をする。

 ゆきは心臓が溶けてなくなってしまうぐらいに、甘い緊張を覚えた。

「さあ、食事をしようか?ゆき」

「はい、小松さん……」

 食事の後に何が待っているのか、考えるだけで、ゆきは胸が甘く弾んだ。

 

 夕食はとても美味しかった。

 やはり海の近くなので魚介類が素晴らしい。

 ゆきはおいしい食事にすっかりと気を取られてしまい、先程の甘い感覚は、もう何処かへといってしまっていた。

「美味しかったです。やっぱり海の醍醐味は、食事ですよね!」

「まあ、そうだね。君に喜んで貰って、私も嬉しいところだけれどね」

 小松は静かに微笑みながら、ゆきを見守るような眼差しを向けてくれた。

 最後のフルーツをふんだんに使った和風のゼリーを食べ終わった後、ゆきは満足と同時に、少し寂しさすら感じた。

「美味しかったです。これでおしまいだと思うと、少し寂しくなりますね」

「寂しい?デザートはこれからでしょ?」

 小松は意味ありげに艶やかな声で囁くと、ゆきを抱き寄せてきた。

「……私のデザートは君なんだから、これからでしょ?」

「……あ、あの、こ、小松さんっ……!」

 甘い感覚に、ゆきは可笑しくなる。

 ゆきは緊張し過ぎてしまい、ドキドキで何処か可笑しくなってしまう。

 耳まで真っ赤にさせて、身体中の血液を顔に集中させてしまう。

 熱くて堪らない。

 小松は体温よりも少しひんやりとした唇で、耳たぶを軽く吸い上げてきた。

「……!!!」

 ゾクリとした甘くい痺れが背中を走り抜ける。息が出来なくなるぐらいに、甘く苦しい震えだ。

「ゆき、君は本当に可愛いね」

 小松は、ゆきの首筋に唇を寄せてきた。

 自分のものであるということを、ゆきに知らしめるかのように、小松は何度も口付けてくる。

 こうしてキスをされると、肌が柔らかに震えた。

「……どうしたい?私は君をデザートにしたいけれど、君は?君は私をデザートにしたくない?」

 小松は、大胆にも、ゆきを誘ってくる。

 解っている。

 小松の誘いに乗ってしまったら、ゆきはもう後戻りができなくなる。

 小松が好きで好きでたまらなくなるだろう。

 だが、それでも構わないと、ゆきは思った。

 それほどまでに、小松を好きになってしまっていた。

「……ゆき。一線を越えてしまったら、もう君は後戻りすることは出来ないよ。それでも構わない……?」

「構わないです……」

「そう……。だったら……」

 小松は、ゆきの華奢な身体をしっかりと抱きしめてきたかと思うと、深い角度でキスをしてくる。

 先程の陽向でのキスとはちがい、官能的な激しすぎるキスだった。

 ゆきはキスに溺れてしまい、何も考えられない。

 お互いの唇が激しく燃え上がる。

 ゆきは唇が艶やかにぷっくりとなるまで、小松のキスを受け止めた。

 息をするのが上手く出来ないぐらいのキスだった。

 キスだけで全身が甘くざわめいて、ゆきは甘い苦しみに思わず目を閉じる。

 それほどまでに小松を求めていた。

 キスの後、小松はゆきを軽々と抱き上げる。

 もう何も抵抗することが出来ないぐらいに小松を求めてしまう。

 そのまま、ベッドへと運ばれた。

 ふわふわとしたベッドに、ゆきは優しく寝かされる。

 小松と愛人契約をしているが、愛人として、抱かれるのではない。

 一人の小松を愛する女性として抱かれるのだ。

 利害関係があるから。

 上下関係があるからではない。

 純粋に小松が好きだから抱かれるのだ。

 頬を真っ赤に染めながら、ゆきは小松を見上げる。小松は甘く笑って、ゆきを強く抱きしめてくれた。

「……良い香りがするね。君は……」

 小松はゆきの首筋に鼻をしっかりと擦り付けて、まるで猫のようにゆきの香りを楽しむように、嗅いでくる。

 こうして、甘い行為を繰り返して来るのを、本当に幸せな気持ちで受け止めた。



マエ モドル ツギ