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重いのに満たされていて、何だかとても幸せだ。 ゆきは視線を横にしてハッとする。 そこには、小松が穏やかな表情で微笑んでいた。 「……あ、小松さん……」 「おはよう、ゆきくん」 「おはようございます……」 小松の眩しい笑みにドキドキしてしまい、ゆきは真っ赤になってしまう。 昨日のことが生々しく甦ってきて、ゆきは恥ずかしくて、隠れてしまいたくなった。 「本当に可愛いね、君は……」 「……ゆき」 小松はクスリと笑って、まるで羽根のようなキスを唇にしてきた。 甘くて堪らなくて、思わず目を閉じてしまう。 「君は可愛すぎるね、本当に……」 小松は、ゆきの柔らかな身体をしっかりと抱き締めてきた。 「ね、ゆき。君はもう、私からは逃げられないよ。解っているね?」 小松は独占欲を滲ませながら呟くと、ゆきの耳朶を軽く咬んだ。 「もうすぐ朝食だから、起きようか?」 「はい……」 ゆきは鼓動を速めながら、柔らかく頷くことしか出来ない。 小松はクスリと笑うと、ゆきの唇にキスをしてくれた。 朝食を食べながら、ゆきは下半身のほんのりとした違和感に、思わず顔をしかめてしまう。 何もかも初めてのことだから、ゆきは恥ずかしくて堪らなかった。 「今日は余り歩き回らないほうが良いかもしれないね」 小松に気づかれてしまい、ゆきは恥ずかしくてどこかに消えてしまいたくなった。 「私は誇らしいけれど?」 クスリと笑い、小松はふわりとゆきを柔らかく抱き締めた。 「本当に君は可愛すぎるね」 小松に可愛いと言われるのが嬉しくて、ゆきは恥ずかしいのに嬉しい、どこか面映ゆい気分だった。 宿を出た後、小松と二人で手を繋いで、小さな町を散歩する。 小松はあくまでゆきのペースに合わせてくれている。それが恥ずかしいのに嬉しい。 こうして小松と手を繋ぎながら、ただ歩くだけが、幸せで楽しかった。 歩くだけで楽しめる。 「ゆき、何処か一緒に行きたいところはないの?」 「あ、あの、直ぐには思い付かなくて……。こうしているだけで幸せで……」 ゆきが本音を言うと、小松はまたクスリと笑った。 小松もまた微笑んで、幸せそうな表情を素直に表してくれる。こんなにも素直な表情を見るのは初めてだった。 ずっとこうしていられたら良いのにと思わずにはいられない。 こうしていると、小松とは本当に愛人契約なのかと、思わずにはいられない。 こうしていると本物の恋人同士だと、幻想を抱かずにはいられないというのに。 愛人。 その言葉がゆきには重くのし掛かって、急に黙りこんだ。 愛人と言う立場であるから、ずっとこうしてはいられないのだ。 いつかは破綻がくる。 そう思うだけで、ゆきの胸は苦しくなった。 「どうしたの?急に黙りこんで」 「……小松さん、海が見たいです」 「海が見たいの?解ったよ。海を見に行こうか」 小松は握り締める手を、更に強く握り締めると、ゆきを美しい海へと連れていってくれた。 「潮の香りがとても気持ち良いですね」 ゆきは、つい、はにかんだ笑みを浮かべてしまう。 海は、産まれたダークな感情をかき消すには、ちょうど良かった。 ゆきは深く深呼吸をすると、つい笑顔になる。 そのまま真っ直ぐ、海を見つめる。 いつまで小松とふたりでこうしていられるのだろうかと、強く感じる。 ゆきはしっかりと結ばれた、小松の手を意識しながら、真っ直ぐただ海だけを見つめた。 ずっと小松のそばにいたい。 だが、それは叶わないことななだろう。 それを考えるがゆえに、ゆきは気持ちを更に重くさせた。 不意に小松に背後からしっかりと抱き締められる。 苦しいぐらいに強く抱き締められて、ゆきは思わず喘いだ。 まるでゆきを何としても逃がさないとばかりに、強く抱き締めてくる。 息が出来ない程の抱擁に、ゆきは驚いて動けない。 小松に、これ程までにしっかりと抱き締めらるなんて、これまで無かったのだ。まるでゆきを金輪際絶対に離さないとばかりの、強い意思を感じた。 「……何処にも行かせないから」 「私は何処にも行きませんから」 小松が望んでいるならば、何処にも行かない。だが、小松が離れたいというのならば、それは致し方がないとは思っている。 しょうがないとは思っているのだ。 「ゆき、私は君を絶対に離す気はないからね」 「はい」 「だから、そんな何処かに行きたいような目で海を見るのは止めなさい」 小松があからさまに不安のようなことを言うなんて、初めてだった。 それ故にゆきは嬉しい。 つい、甘えてみたくなって、小松に背中を任せた。 すると小松は、更にゆきをしっかりと抱き締めてくれる。 ドキドキしながらも、ずっとこうしていられたら良いのにと、ゆきは思った。 この瞬間が幸せで大事なのは解ってはいる。 だが、つい未来のことを考えてしまった。 海の散歩も終わり、いよいよ帰る時間だ。 小松の車に乗り込んで、ゆきは幸せで何処か切ない気持ちになった。 重苦しいのに幸せなのは、この時間が消えてしまうからだろう。 「どうしたの?」 「楽しい時間は直ぐに終わってしまうんだと思っただけですよ」 「そうだね。だけど、また、来れば良いよ」 「そうですね」 本当にそうなれば良い。 愛人を越える立場になって、小松と二人きりでいられたら良いのにと、ゆきは強く願った。 「また来よう。君がこんなにも楽しんでくれるのならば、私もかいがあるというものだよ」 「有り難うございます。楽しみにしていますね」 ゆきは笑顔になると、小松を見つめた。 夢のようなリゾート地から、現実的で無機質なジャングルへと戻っていく。 この町でも、ゆきはずっと小松に寄り添っていたい。 誰よりも近くにいたい。 そんな想いが強くなる。 薩摩グループに就職のエントリーをするのも、ひとえに小松と一緒にいたいからだ。 本当にそれしかない。 小松のそばにいられたら、ゆきはそれだけで嬉しかった。 それ以上の喜びは他にはないのだ。 小松の家に戻ると、ホッとしたと同時に、寂しい気持ちになる。 だが、小松がそばにいるから、寂しい気持ちは半分ぐらいになった。 「ゆき、今夜からどうするの?」 「どうするって、あの……」 ゆきは、小松が何を訊いているのか意味が分からなくて、小首を傾げてしまった。 「今まで通りなのか、それとも今夜から私と一緒に寝室を共にするのか、どっち?」 小松はあくまで冷静に訊いてくる。 まるでどちらでも良いとばかりに。 ゆきは甘い緊張を覚えながら、即答できなかった。 |