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小松は後悔を滲ませながら、ゆきを見た。 本当に心からの後悔であることは、小松の苦悩している表情で分かる。 「私は、エントリー用紙を破り捨ててしまいたくなるぐらいに、君をそばに置いておきたかったんだよ」 「愛人としてではないのなら、どのようにそばに置いて下さろうとしていたんですか?」 ゆきは早く小松の答えが訊きたかった。 「それはね、私は、君が大学を卒業したら、妻にしようと思っていたんだよ……」 小松はゆきに手を差しのべる。 嬉しくて感動する余りに、ゆきは、涙が溢れて、視界が雲ってゆくのを感じた。 だが、それは決して不快ではない。 ゆきは、差しのべられた小松の手をしっかりと握り締めた。 「……まだ、それは、有効ですか?」 「勿論だよ」 小松はフッと甘くて蕩けるような笑みを向けてくれた。 「だったら、有効にして下さいますか?」 ゆきは心の奥から声を絞り出す。小松への恋心を込めて。 「有効にしよう」 小松はキッパリと呟いてくれると、ゆきをしっかりと抱き締めてくれた。 余りにも力が強くて、息が出来なくなるぐらいに。 小松にこれほどまでにしっかりと抱き締められるのは、本当に久々で、ゆきは幸福が全身を包み込んでくれているように感じる。 本当に幸せだ。 小松に抱き締められることは、特別に幸せだ。 小松はゆきの頬を包むと、今までで一番の甘い笑みを浮かべながら、顔を近づけてきた。 なんて幸せなのだろうかと、ゆきは思わずにはいられない。 妊娠してしまったことは、きちんと伝えなければならない。 今度は、ゆきが誠実にならなければならない。 小松は待ちきられないとばかりに、唇を重ねてくる。 口付けると、本当に幸せな気持ちになる。 落ち着いた気分にもなり、ゆきは幸せだった。 安らぎとときめき。 それが同居するのだということを、ゆきは、初めて知った。 何度も角度を変えてキスをする。 小松の舌に口腔内を愛撫されて、蕩けるような幸せを感じずにはいられなかった。 しっかりと抱き合ってキスをする。 貴い愛の行為だと思わずにはいられなかった。 唇を離した後、ゆきは小松を誠実に見つめた。 きちんと伝えなければならない。 「小松さん、伝えなければならないことがあります」 ゆきは畏まって言う。 すると小松は、怪訝そうな表情を浮かべた。 「何を私に伝えたいの?」 小松の表情はいつものように氷のような表情になった。 少し怖い。 ゆきは呼吸を整えて、小松を見た。 「……あの、小松さん、私……、お腹に赤ちゃんがいます……」 ゆきは正直に伝える。 小松の表情を見るのが怖い。 もし、あからさまに嫌そうな表情をしていたらどうすれば良いのだろうか。 小松に子供がいらないと言われたら、どうしたら良いのだろうか。 それが不安で、ゆきはまともには見られなかった。 本当に苦しくて、ゆきは切なくて堪らない。 小松はなにも言わない。 子供が出来たのは青天の霹靂だったのだろうか。 そんなことを考えてしまった。 小松をまともに見る勇気がない。 ゆきが何も言えずに黙っていると、小松はいきなり強く抱き締めてきた。 「……あ……」 「有り難う、ゆき」 小松は本当に感動しているかのような声で呟いてくれた。 それがゆきには嬉しかった。 泣きそうなぐらいに幸せで、ゆきが思わず顔を上げると、小松は甘く微笑んでくれていた。 「……ね、私のことを怒っている?」 「……怒ってはいません」 ゆきは笑顔で言う。 怒る筈がない。 愛するひととの命を宿すことが、出来たのだから。 「子供はどうするつもりだったの?」 小松の言葉に、ゆきは困惑する。 堕胎するつもりかと、訊いているのだろう。 だが、ゆきにはそんな文字はひとつとしてなかった。 「産もうと思っています。だから、薩摩グループからのお誘いも、受ける気はなかったんです」 ゆきがキッパリと言い切ると、小松はほんのりと笑顔になった。 「有り難う、ゆき。私は、勿論、産んで貰いたいよ。……私は、君が妊娠するリスクを分かっていながら、守らなかった。君に私の子供を産んで貰いたいと思っていたからね……」 小松はフッと笑うと、もう一度ゆきをしっかりと抱き締めた。 「君を一度も守らずに、私は抱いたんだよ。君の総てを私のものにしたくて、堪らなかったんだよ……」 「小松さん……」 小松の言葉に、ゆきは本当に泣きそうになった。 こんなにも幸せな言葉はない。 「……ゆき、怒った?」 「いいえ、怒ってないです。むしろ、嬉しかったです……」 ゆきは瞳にいっぱい涙を滲ませながら、小松を真っ直ぐ見つめる。 すると、小松はもう一度、口付けてきた。 今度は、ゆきへの想いを込めた、甘くて素晴らしい、誓いのキスだった。 甘いキス。 こんなに素敵なキスは他にはない。 とろとろに溶けてしまうほどのキスに、ゆきは至福を感じた。 唇が離れた後、小松はゆきの瞳を覗き込む。 「ゆき、愛しているよ。私と結婚して下さい」 小松は誠実で温かで、彼らしいプロポーズをしてくれた。 ゆきは、プロポーズの言葉を噛み締めながら、頷く。 ここに来たときは、プロポーズされるなんて、思ってもみなかった。 だが、今はこうしてプロポーズされている。 なんて幸せなのだろうかと、ゆきは強く思う。 甘くて充たされた幸せに、ゆきは小松に抱きつかずにはいられなかった。 「……今夜から、うちに帰って来なさい。君を離したくはないからね……」 「はい、小松さん」 離れたくない。 一秒たりとも。 それほど幸せだった。 「このまま、直ぐに君を連れて帰りたいところだけれど、食事はしなければならないね。私たちの子供の為にも」 「はい」 小松は愛しげにゆきのお腹を見つめてくる。 なんて優しい眼差しなのだろうか。 子供は幸せになると、小松は確信せずにはいられなかった。 「今、何ヵ月なの?」 「もうすぐ、4ヶ月です」 「だったら、あの旅行の時の子供なんだね……」 「はい……、だと、思います」 小松はゆきのお腹を撫でる。 手のひらを通じて、父親の愛が伝わるような気がした。 これからは親子三人で頑張っていける。 ゆきはそう強く感じずにはいられなかった。 |