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ゆきは、自分で自分が嫌になってしまう。 恥ずかしくて堪らない。 今までの自分の感情は、総て空回りだったのだ。 「ゆき、彼女には、うちのグループホテルのウェディングコスチュームの総てを手掛けて貰っているだけではなくて、総合的なプロデュースも手掛けて貰っている」 「こんにちは。小松さまと秘密裏に進めていた今回のプロジェクトですけれど、ようやく、主役の方にお話出来るようになって、本当に嬉しく思いますよ」 女性はにっこりと笑うと、ゆきだけを真っ直ぐ見つめる。 「あなた様のサイズは、だいたい把握はしていたのですけれど、おめでただと伺って、少しウェディングドレスと打ち掛けの修正しなければならなくなりましたので、来ていただいたんですよ。では、どうぞ」 女性の言葉にゆきは驚くばかりだ。ずっと前から準備をしていたような口ぶりだ。 ゆきは驚いてしまい、小松を見上げた。 「行っておいで」 小松は優しい声で言うと、ゆきを送り出してくれた。 女性とふたりで、採寸の部屋に向かう。 「あ、あの!」 「何でしょうか?」 「ウ、ウェディングドレスと打ち掛けは、かなり前から用意されていたのですか?」 これは女性に一番訊きたいことだった。 女性はフッと微笑むと、強く頷く。 「そうですね。五ヶ月前には決まっていたプロジェクトですわ」 まさかこのようなことが秘密裏に行われているとは、ゆきは思ってもみなかった。 これには息を呑んだ。 五ヶ月前。 それは、ゆきが小松と愛人契約を結んだ頃だ。 その頃から、ふたりの関係を正しいものにしようと、してくれていたのだ。 それが何よりも嬉しい。 泣きそうになるぐらいに感動してしまう。 ゆきは思わず、涙をこぼしてしまった。 「如何されましたか!?」 流石にデザイナーは、泣くゆきを見て、慌ててしまっている。 「だ、大丈夫です。嬉しくて……。小松さんが、色々と考えて下さっていることが分かって。本当に嬉しくて……」 ゆきは、何とか涙を堪えようとして笑ったが、上手くいかない。 それを優しい眼差しで、デザイナーが見守ってくれている。 ゆきにはそれが有り難く、そして嬉しかった。 こんなに幸せなことはまたとない。 「素敵な殿方に愛されましたね」 「とても、嬉しいです」 ゆきは素直に女性に笑みを向けた。 「では、早速、採寸をして調整をしなけれはならないですね。赤ちゃんは、何ヵ月ですか?」 「4ヶ月です」 「では、そろそろ、お腹が出てきていますね。腹部と胸部の修正が必要ですね」 流石は一流デザイナーであるせいか、てきぱきと準備をしている。 ゆきの胸元と腹部を計り、計算しているようだった。 「一月後を見越してと言われているので、少し余裕を見ますね」 「有り難うございます」 デザイナーはきめ細かく採寸をする。 「私も出産経験者なので、だいたいの大きさはイメージ出来ますが、やはり、個人差がございますからね。最大限見越して、作りますね」 「有り難うございます」 デザイナーが、出産経験者で良かったと思いながら、ゆきは笑顔で呟いた。 「結婚式とパーティの準備は、きちんと出来ていますから安心されて下さいね」 「有り難うございます」 ゆきは、ここまできちんと準備をしてくれていた小松を、更に愛しく思える。 「さて、これで、おしまいです」 「はい、有り難うございました」 ゆきが部屋から出ると、小松が待ってくれていた。 小松の顔を見ていると、ゆきは感謝する余りに、泣きそうになる。 ゆきが瞳に涙をいっぱい貯めて、小松を見つめるものだから、驚いたように近付いてきた。 「どうしたの?ゆき」 「小松さん」 その顔を見つめると、ゆきは感極まってしまい、小松の胸にストレートに飛び込んだ。 「どうしたの、何かされたの?」 小松は困ったように言う。 「小松さんが、私のことを本当に考えて下さっていることが分かって、嬉しくて……」 ゆきが嬉しさを表現するのが難しいと感じながら、泣き笑いの表情を小松に向けた。 「ゆき……」 小松は優しく微笑むと、ゆきを心ごと包み込むように抱き締めてくれた。 安心するのと同時に、ゆきは本当に愛されて、満たされていると感じずにはいられない。 「ここで抱き合ってもしょうがないからね。ゆき、君の実家に向かうよ」 「はい」 小松から抱擁をとかけるのを、とても心もとなく感じながら、ゆきはそっと離れた。 ゆきと小松を見守るように、デザイナーか見つめている。 「小松さん、ゆきさん、お幸せにね」 優しい眼差しに、ゆきは真っ赤になりながら、頷いた。 店を出て、ふたりはゆきの実家に向かう。 途中で、両親の好きなケーキを買っていく。 小松から話があると言われた時に、両親はある程度の予想はついているようだった。 それはゆきにも分かっていた。 見慣れた風景が視界に広がると、ゆきは流石に緊張してしまう。 家に帰るだけだ。 なのに、緊張がマックスで、落ち着かない。 「ゆき、君がドキドキしてどうするの?」 小松は苦笑いを浮かべながら、ゆきをちら見する。 「だ、だって、き、緊張しますよ。だ、だって、大好きなひとと、け、結婚するのを、み、認めて貰わなければならないんですから」 ゆきが挙動不審のように言うものだから、小松は益々おかしそうに笑った。 「大丈夫だよ。心配しなくても」 小松は本当に落ち着いている。その落ち着きぶりに、ゆきは驚いてしまった。 小松は、いつでも冷静に立ち回ることが出来るのが、ゆきには羨ましい。 「だ、だって……」 「君と私が、本当に愛し合っているということを、ご両親が理解されたら、きっと反対はされないよ。君のご両親は、君の意見を尊重してくれるようだからね」 小松はフッと微笑むと、ゆっくりと車のスピードを落としていく。 車が家に到着する。 「さ、着いたよ。ほぼ時間通りだね。行くよ」 小松はクールに言うと、ゆきの手をしっかりと握り締めてくれる。 こうしてもらえるだけで、安心した。 ゆきはゆっくりと、家に向かって歩き出す。 このひとがずっと一緒だから。 きっと大丈夫。 手を繋いで貰えて、ゆきはそう確信出来た。 こんなにも確かな感情はない。 そう思いながら。 |