*悪魔のようなあなた*

10


 一人暮らしを始めた途端に、結婚準備をする。

 何だか奇妙な気持ちになりながら、ゆきは準備を始めた。

 小松のことだから、きっと盛大に披露パーティをするのだろうかと、不安に思ってしまう。

 だが、ゆきは本音で言うと、こじんまりした友人たちだけのパーティで構わないと思っていた。

 むしろそちらのほうがゆきにとっては好みのパーティ方式だと思った。

 結婚式も教会でこじんまりと出来れば良いと思わずにはいられない。

 そんなことを小松が許してくれるのだろうかと、ゆきは思わずにはいられなかった。

 小松は準備のサポートをしてはくれるが、サポート役のプロを雇ってくれただけだ。

 小松自身がサポートをしてくれるわけではないのも、ゆきをしょんぼりとさせた。

 本当は小松に助けてもらいたい。

 ふたりで力をあわせて、色々と準備を楽しみたい。

 なのに忙しい小松は、なかなかサポートしてくれないのが実状だ。

 解っている。

 頭では無理であることは解っているのに、どうしても求めてしまう自分がいる。

 

 小松に呼び出されて、夜の8時を過ぎてから、ゆきは会社へと向かった。

 デートらしいデートをすることなく、結婚が決まってしまった。

 恋人らしいことを一度もしないままで、小松と結婚すると決めて良かったのだろうかと、思わずにはいられなかった。

 CEO室に通されて、ゆきは部屋に入った。

 小松を愛しいとは思いながらも、何だか華やかな気分にはなれない。

 思い悩んでいるからだろうか。

 そんなことを考えてしまう。

 ゆきは切なく思いながら、小松を見た途端に、そのような気持ちが飛んで行くのを感じた。

 小松に会えたからだろう。

 我ながらなんて現金なのだろうかと、ゆきは思ってしまう。

 小松に会えたら、本当にそれだけで幸せだとゆきは思った。

 小松が愛しくてしょうがない。

 本当に嬉しい。

 ただ会えるだけなのに、それだけで華やかな気持ちになれた。

「こんばんは。帯刀さん」

「こんばんは、よく来てくれたね。少し待っていて、直ぐに支度をするから」

「はい」

 ゆきが待っていると、小松は手早く支度をする。

 デートらしいことをしたことはなかったが、こうして呼び出されて、誘って貰えるのは嬉しい。

 婚約者だと実感できる瞬間だと、ゆきは思った。

「お待たせしたね。行こうか」

「はい」

 早急に結婚準備を始めてから、こうしてふたりで出掛けるのは初めてだ。

 なし崩しで、こうして結婚準備をしているが、それでも幸せだと感じられる。

 小松はゆきの手をしっかりと取って、繋いでくれる。

 駐車場まで手を繋いで向かう。

 とても幸せで満たされた気分だ。

 忙しくて会えなかった時間を埋めてくれるようだ。

 ゆきが幸せのドキドキに満たされて顔をあげると、小松は何処か真剣な眼差しを前に向けている。

 幸せだとか、余り感じられない。

 ゆきは、また不安になる。

 泣きそうになるといっても良い。

 小松は本当にゆきと一緒になることを望んでいるのだろうか。

 それがゆきには不安だった。

 車に乗り込むと、小松は静かに車を出す。

 特にゆきに話すことなんてない。

 ゆきは沈黙が重くてたまらなくなった。

「帯刀さん、何処に行くんですか?」

「私のうちに向かうよ。食事は何か買って帰るから」

「はい」

 ゆきは小さくなりながら頷いた後に、ふと気がついた。

 ゆきは、今まで、小松が一人暮らしをしている場所に立ち入ったことはなかった。

 そう思うと、急に緊張してきてしまった。

 ドキドキし過ぎて、どうして良いのか分からなくなってしまう。

 愛するひとのプライベートなテリトリーに入るのは、嬉しくもあり緊張してしまう。

 ゆきが固くなっていると、小松が声をかけてきてくれた。

「ゆき、緊張してどうしたの?」

「帯刀さんの家に行くのは初めてだと考えたら、急にドキドキしてしまって……。本当に」

「それぐらいのことで緊張するなんて、君は可愛いね……。これからはふたりで暮らすんだから、そんなことを気にすることはないよ。馴れておきなさい。君にはとても大切なことだよ……」

 小松は静かにゆきを諭すように言う。まるで教師が生徒に言い聞かせるかのように。

 ゆきはそれがまた切なく思えた。

 小松にとってのゆきは、やはりまだまだ子供の立ち位置にあるのだということを、思い知らされたかのようだった。

 車は一旦、デパートに立ち寄り、そこで高級レストランの料理を買う。

「帯刀さん、食事なら私が作りますよ?」

「それはまた今度にして貰うよ。今日は買って帰ろう。君には負担をかけたくはないからね」

「ありがとうございます」

 今日は遅いから、小松は気遣ってくれているのだろう。

 ゆきはそれを嬉しく思う。

 同時に、何だか寂しくも思った。

 

 買い物を終えて、小松が暮らす高級マンションへと向かう。

 成功者のステイタスとも言える場所だ。

 小松に手を繋がれて、部屋へと向かう。緊張し過ぎて、ゆきは手のひらが汗ばむのを感じた。

 それを小松は微笑んで受け止めている。

 恥ずかしいが、その大きな気持ちに、ゆきは感謝をしていた。

 部屋に向かうと、ゆきは余りにもの生活感のなさに驚いてしまった。

 本当にびっくりするぐらいのシンプルさだ。

 驚いて周りを見渡すと、ゆきは小松を見た。

「寝るだけの家だからね。無駄なものは必要ないでしょ」

  小松はキッパリと言うと、てきぱきと食事の準備をする。

 準備と言っても、温めたり並べたりするだけなのだが。

 ゆきも慌てて手伝う。

 こうして、小松のプライベートな空間に入ることができて、誇らしい気分になった。

 夕食をゆっくりと食べながら、小松を見つめる。

 他愛ない話をしながら穏やかな気持ちになれる。

 大好きだけれど、小松はドキドキと同時に心からの安心をくれた。

 それがゆきには嬉しい。

 食事を済ませて、ゆきは後片付けを手早くする。

 奥さんになるのだから、ぼんやりとはしていられないのだ。

 片付けを一通り終わらせると同時に、いきなり背後から抱きすくめられた。

 息が出来ないぐらいに強く抱き締められて、ワンピースの胸元から手を入れられる。

「君が欲しくてしょうがないから、呼んだんだよ……」

 小松は低い声で艶やかに囁くと、ゆきの身体をくまなく愛撫し始める。

 情熱が迸った。






マエ モドル ツギ