*悪魔のようなあなた*


 自立した本当の愛を得たい。

 保護欲ではなく、心から愛されたい。

 愛して欲しい。

 ゆきはそう思うからこそ、自立をしようと思う。

 小松のことは本当に愛しているし、昔から小松のお嫁さんになることが、ゆきの夢だった。

 だからこそ、対等に愛し愛されたい。

 これから長く続く人生のパートナーとして、同じ歩調で歩いてゆきたいと思っている。

 だからこそ、対等の立場を取れるまで、ゆきはひとりで頑張ろうと思った。

 

 ゆきはまず、一人暮らしのための準備を始めた。

 ひとりで暮らすのは初めてだから、色々と恐いところもあるが、幸いにしてセキュリティがしっかりとした単身者用のマンションを格安の家賃で見つけることが出来た。

 最新式のセキュリティが施されているからか、かなり家賃は高いと思っていたが、予想外の格安で驚いた。

 部屋を探すのも、引っ越しの準備も総てひとりで行った。

 ゆきにとっては、小松の手を借りずに行ったのは初めてで、何もかも目新しいことだった。

 今まては、小松の手を借りなければ何も出来なかったが、ひとりでもやれば出来るのだということは発見だった。

 ゆきは、少しずつ小松に釣り合える女性になってきたのではないかと、思える。

 元々、料理は大好きだったから、自炊をするのも苦ではなかったし、何よりもゆきにとっては、ひとりできちんと出来ているのだと言う、自負があった。

 小松に連絡してしまうと、また、頼ってばかりの自分に戻ってしまうのが嫌で、ゆきはなかなか連絡出来なかった。

 ゆきは、小松とは距離を置かなければ、きちんと自立が出来ないのではないかと思い、当分の間は自重していた。

 

 夕食のあと、レポートを書いていると、不意に携帯電話が、鳴った。

 小松だ。

 小松から連絡をくれるのは、本当に嬉しくて、ゆきはつい笑顔になった。

「もしもし」

 携帯電話に出るだけで、甘いドキドキが胸を支配する。

 ゆきは胸のときめきが抑えられないのを感じながら、電話に出た。

「私だ、ゆき。ゆき、金曜日に夕食を共にしない?君からの近況が聞きたいし」

「はい!」

 久々に小松に会える。

 それだけでゆきは嬉しくて、つい言葉を弾ませる。

「だったら、大学に迎えに行くよ。そうだね、6時ぐらいに」

「分かりました。嬉しいです」

 ゆきは笑顔で呟くと、頭のなかで、どのような格好をしようかと考えてしまう。

 すると、それを解っているのか、小松がほんの一瞬、くすりと笑った。

「じゃあ、近況を聞くのを楽しみにしている。じゃ」

 本当にあっさりと電話を切られてしまい、ゆきは胸が甘くもやもやと渦巻くのを感じた。

 もう少し話がしたい。

 ゆきは思わず携帯電話を握り締めてしまう。

 好きなのは自分だけなのだろうか。

 そんなことばかりを考えてしまう。

 だが、逢って話が出来るほうが良い。

 だから金曜日まで待とう。

 甘くて幸せな金曜日まで。

 ゆきは、本当に小松が好きで好きでしょうがないのだと、思い知らされたような気分だった。

 

 金曜日のデートには何を着ていこうか。

 小松にとってはただの食事会かもしれないが、ゆきにとっては、正真正銘のデートだった。

 とっておきの白地に花柄の清楚なワンピースに可愛いスクエアトゥのヒール。ピアスはキラキラと輝いて揺れるものを選んだ。

 髪はサイドアップにして、落ち着いて可愛くてバレッタで留めた。

 薄くメイクもして、デート気分が盛り上がる。

 ゆきは、舞踏会に行くシンデレラのような気分になった。

 相手が小松だからこそ、ロマンティックな気分になれるのだ。

 本当に、小さな頃から、小松以外の男性を好きになったことはなかった。

 それだけ大好きだということだ。

 金曜日は、授業も手につかなくなるぐらいに、小松のデートが楽しみで仕方がなかった。

 本当に楽しみすぎるぐらいに楽しみで、なにが起こっても、笑顔になってしまうぐらいだった。

 本当に大好きで、大好きで、しょうがないのだと、感じずにはいられなかった。

 

 小松との約束時間まで時間があったので、化粧直しをしたり、友人たちと話をしたりした。

 楽しく話をしながら、時間を忘れてしまいそうになる。

 恋の話をするのが、ゆきには最高に楽しいことだった。

「ゆきは、婚約者がいるようなものだものね。小松さんとは、いつ結婚をするの?」

 友人たちはゆきをからかうように言う。

「……プロポーズされたの」

「へえ!良かったじゃん!」

 友人たちは口々に嬉しそうに祝福してくれる。嬉しいが、ゆきには複雑な気分だ。

「……だけど、断ったんだよ」

「断ったの!もったいない!!」

 友人たち口々に同じことを言うものだから、ゆきは驚いてしまう。

「確かに嬉しいし、大好きな小松さんが相手だけれど。私を愛しているのではなくて、保護したいから結婚するような気がしてならないんだ。だって、やっぱり愛し愛されるのが理想だと思っているから」

 ゆきは自分の言葉で、一所懸命話をする。それを友人たちはかなり真剣に聞いてくれている。

 有り難いと思う。

「そうだよね、誰もが夢見ることだよね。ゆきはその想いが強いからね」

「……まあ、そうなんだけれど。だけど、やっぱり、きちんと愛し愛される関係を作りたいって思っているよ。私にはそれが譲れないんだ」

「そうだよね」

 友人たちが何度も頷いてくれている。

「そろそろ6時だから行くよ。大学の前で帯刀さんと待ち合わせているんだ」

 ゆきが立ち上がると、友人たちも立ち上がる。

「じゃあ私たちも行くよ。完璧セレブ男を拝みに行かないとね」

 友人たちは嬉しそうに言う。

 ゆきの友人たちは小松ファンが多いのだが、付き合いたいとは思わないらしい。

 小松はあくまで鑑賞用のようだ。

 ゆきが友人たちと一緒に校門に向かうと、小松が隙のないスーツ姿で立っていた。

 通りすぎる女の子たちが、小松に見惚れてしまっている。

「ゆき」

「帯刀さん」

 声を掛けると、小松はそのまま車に向かって歩いて行ってしまう。

 ゆきはその後を一所懸命追い掛けた。

 車の前に来ると、小松は素早く助手席を開けて、ゆきを乗せてくれた。

 そのあたりはとてもスマートだ。

 ゆきが乗り込むのを確認すると、小松は素早く運転席に乗り込んだ。

 その瞬間、小松はゆきを思いきり抱き締めてくる。

 息が出来ないと思った瞬間に、唇を荒々しく塞がれた。





マエ モドル ツギ