*悪魔のようなあなた*


 小松に鋭くも艶やかな眼差しで見つめられて、ゆきは動けなくなってしまった。

 小松に女性として求められている。

 ゆきは本能でそれを感じた。

 身体の中心が変な感じになり、潤んでくる。

 今までにない熱い違和感と欲望を感じた。

 小松にひとりの女性として、求められているのは、ゆきとしては何よりも嬉しかった。

 ゆきはずっと、ひとりの女性として、小松を強く求めていたのだから。

 小松に見つめられるだけで、わざと罠にはまっているかのように動けなくなる。

 ゆきが玄関先で動けなくなっていると、小松は薄く微笑んだ。

「……ゆき、部屋の中には入れてくれないの?」

「あ、は、はいっ。ど、どうぞっ」

 ゆきは慌てて小松を部屋に入れようとして、動揺しすぎていたからか、何もないところで躓いてしまった。

「おっと……。落ち着きなさい。私だから緊張することはないでしょ?」

 小松は呆れたように言いながら、ゆきを片手で受け止めてくれた。

 それが恥ずかしくて、ゆきは思わず頬を赤らめてしまった。

 見上げた小松の整った顔は、先程の艶やかさよりも、いつものクールさが勝っている。

 先程聞いたのは聞き違いだったのだろうかと、ゆきが思ってしまったほどだ。

「これは引っ越し祝いだよ。使うと良いよ」

「ありがとうございます」

 小松から箱を受け取って、ゆきがそれをテーブルの上に置いた時だった。

「……あっ……!」

 小松は、ゆきをいきなり抱き締めると、そのまま首筋に唇を押し当ててきた。

 いきなりの情熱的な行為に、ゆきは心臓が飛び出してしまうのではないかと思うぐらいに驚いてしまった。

 ゆきは驚く剰りに固まってしまう。

 こんなにも身体が固くなるなんて初めてだった。

 小松が相手だから、決して嫌なことではない。

 だが、初めての上に、唐突すぎたからか、ゆきは旨く対応できなかった。

 小松はゆきの白くて長い首筋を味わうように、唇を移動させてゆく。

 鼓動が嵐のように激しくなり、ゆきは呼吸が上手く出来ない。

 だが、愛するひとの情熱を、抗うことなんて出来るはずもなかった。

「……抵抗しないね?」

 小松はまるでゆきを試すように意地悪に呟く。

「……だって、それは……」

 小松だから抵抗することが出来ないと、ゆきは素直に伝えることが出来ない。

 恥ずかしくて、緊張し過ぎて、言葉にすることが出来なかった。

 ゆきの言葉が尻切れトンボだからか、小松は不満そうな視線を向けてくる。

「きちんと言わないと解らないよ?」

「それは……」

 ゆきは上手く言えなくて、つい黙りこんでしまった。

「君は誰にでもこんなことをさせる子なの!?」

 小松が厳しく不快そうに言うものだから、ゆきは驚いていてその身を竦めてしまった。

「……あ、あの、それは帯刀さんだから……」

 ゆきは恥ずかしくて吐きそうになるぐらいに胸がいっぱいになりながら、小松を見上げる。

 すると小松は、表情を一気に柔らかく優美に崩した。

 その甘い優しさに、ゆきの魂は強く揺さぶられた。

 こんなにもドキドキしてしまう表情のギャップは他にはないと思わずにはいられない。

 なんて魅力的なのだろうか。

 まるで曇り空に射し込んだ柔らかな太陽の光のようだ。

 本当に魅力的で、ゆきは魂を吸い上げられたような気分で、小松を見つめた。

「……そんな顔をしなくても、解っているよ。君は私以外にこのようなことは許さないぐらいはね……。君の気持ちは、君以上に解っているつもりだからね……」

 蜂蜜以上に甘くて蕩けてしまうぐらいに艶やかな声で囁かれると、ゆきは幸せな緊張に包まれる。

 そうこんな気持ちには、小松が相手でないとなれない。

 素敵な感情だ。

「……ゆき。君は私の言う通りにしてもらったら良いから……。だから、全部私に任せて……。君なら構わないから……」

 小松の囁き声に、抵抗出来るはずなんかない。

 こんなにも艶やかで幸せでドキドキする、素敵な囁きはないのだから。

 ゆきはそのまま小松に総てを任せたくなる。

 そうすれば、本当に望んだ幸せが得られるような気がせずにはいられない。

 ロマンティックな甘いバラジャムのような、そんな気分だ。

 ゆきは小松をただ真っ直ぐ見つめる。

 すると、小松の顔がゆっくりと近づいてきた。

 唇が触れる。

 唇がほんのりと着いただけだというのに、ゆきはときめきすぎて爆発しそうになった。

 小松のキスは、ゆきを気遣うように最初は触れるだけだったのに、徐々に深くなってゆく。

 唇を強く吸い上げられて、ゆきは、今まで知らなかった感覚が目覚めるのを感じた。

 全身の細胞が熱くて沸騰しそうになる。

 総てが小松を求めている。

 ゆきは自分がこんなにも情熱的だなんて、思ってもみなかった。

 最初は小松に一方的にリードをして貰っていたが、少しずつキスにも馴れてゆく。

 少しずつキスを深めてゆき、気持ちをロマンティックに高めてゆく。

 小松と自分の唾液で、口の周りがベトベトになったとしても、ゆきは気にはならなかった。

 胸が切ないぐらいに高まってゆく。

 ぼんやりとしてしまうぐらいに感じてしまい、ゆきは小松の支えがなければ、まともに立つことすら出来なかった。

 小松にしがみつくと、更に腰を引き寄せるように抱き締められた。

 お互いの息遣いが荒くなる。

 ゆきは浅い深呼吸を繰り返しながら、いつの間にか小松を求めるように、キスに応えていく。

 小松が与えてくれるキスに、ゆきは溺れてしまう。

 こんなにも熱くて、息苦しいのにロマンティックな感覚は他にはなかった。

 幸せ。

 それは今まで感じていたありきたりな幸せではなく、総てを満たされたような熱い幸せだった。

 恋の幸せというのは、このようなものなのだと、ゆきは感じずにはいられなかった。

 唇が離される。

 ゆきは小松が愛しいと想う気持ち以外は、何も考えられなくなっていた。

 ただ、情熱で潤んだ眼差しを、小松に真っ直ぐ向けることしか出来ない。

 小松は、この上なく色っぽい瞳をゆきに向けてくると、フッと官能的な笑みを浮かべた。

「……君を抱くよ。抱いて、私のものにする」

 小松の艶やかな声で、官能的に宣言されて、ゆきはもう逃げることが出来ない。

 ただ、小松を見つめて、総てを委ねるために、ゆきはその胸に顔を埋めた。

 総てを愛しい人に委ねるために。

 





マエ モドル ツギ