*夫婦しぐれ*


 これ以上の妻はいない。

 小松は、自分の目に狂いがないことを実感する。

 ゆき以外に妻は考えられないし、ゆき以外の妻はいらないとすら、小松は思った。

 小松がゆきのいる部屋に戻ると、ゆきは何処かうなだれていた。

 その姿をつい可愛いと思ってしまう自分は下衆なのだろうか。

「どうしたの?辛気臭いよ。食事にするよ」

「はい」

 ゆきは不安そうな落ち着きがない眼差しをしている。そのあたりが、まだ成長途上にあるのだろうと、小松は思った。

 不安そうなゆきも可愛いが、やはりここは安心させてやらなければならない。

 その自覚は、小松にも充分にあった。

「君の昼の過ごし方は悪くないよ。間違ってはいない。それだけは伝えておくよ。

 小松の言葉に、ゆきはようやくホッとしたような笑顔になる。

 やはり、心配そうな表情よりも、ホッとした表情のほうが、ゆきらしい。

 そのほうが可愛く、魅力的だと小松は思った。

「さて、食事をしようか。ゆきくん」

「はい」

 小松の一言に、ゆきは笑顔になった。

 食事は穏やかに進む。

 ゆきと食事をするだけで、とても美味しいと思える。料理人など全く同じだというのに。

 ゆきと食事をするひとときが、何よりも幸せな気持ちにならずには、いられなかった。

 穏やかな時間が流れる。

 とても貴重な時間のように思える。

 小松は、ゆきを離せないし、離してはならないのだろうと、改めて感じずにはいられなかった。

 

 小松が怒っていなかった。

 ゆきは、それだけでホッとせずにはいられない。

 それどころか、ゆきの過ごし方は間違ってはいないと、きちんと伝えてくれた。

 それが、ゆきには何よりもの安堵だった。

 小松と食事をすると、ひとりで嫁いできた寂しさが癒される。

 これは、ゆきにとっては、とても幸せなことだった。

 小松のそばにいたら、どのような状況でも頑張ることが出来るのだから。

 

 入浴のあと、ゆきは、昨日よりも緊張していない自分に気付いていた。

 昨日は、小松が、ゆきに対して最大限の優しさを見せてくれた。

 その優しさが、ゆきにとっては宝物のようだった。

 小松がきちんと気遣ってくれている。

 その事実が、ゆきにとっては何よりも嬉かった。

 小松が静かに部屋に入ってきた。

 美しくも艶のある髪を下ろした小松は、官能的で綺麗だった。

 ついうっとりと見惚れてしまう程だ。

 昨日は、小松を綺麗だと感じる余裕すらなかったが、今日はそうではなかった。

 つい、見惚れてしまう。

 小松に魅了されずには、いられなかった。

 ぼんやりと見つめていると、小松がクスリと笑った。

「どうしたの? そんなにもぼんやりとした顔をして」

 小松は透明なのに艶があり過ぎる低い声で、ゆきの耳元で囁くと、フッと笑った。

 笑いかけられるだけで、ゆきは心臓が爆発してしまうのではないかと思うほどに、緊張していた。

 ドキドキし過ぎて、息が出来ない。

 ゆきが耳まで赤らめながらも、小松をじっと見つめると、ふわりと抱き締められる。

 柔らかさと優しさがたくさん詰まった抱擁。

 温かな気持ちになりながらも、心の奥からは、艶やかな感情が競り上がってくる。

 甘さと緊張、そしてときめき。

 それらが交わり、ゆきはどうして良いかが分からない。

 怖いのではなく、甘い笑みを緊張と悦びで、ゆきは身体を僅かに震わせる。

 それを受け止めてくれるように、小松はしっかりと抱き締めてくれると、そのままゆきの唇を塞いだ。

 

 部屋に入った瞬間、そこに座るゆきが本当に美しくて、小松は一瞬ドキリとした。

 ゆきが、まだ成長過程にあり、まだまだ子供の部分が多いことも、小松には分かっている。

 だが、今夜のゆきはとても艶やかで、綺麗だとすら思った。

 小松はゆきを強く抱き締めたい衝動に駈られる。

 ゆきは不思議だ。

 天女のように清らかで無邪気なところもあれば、ひとりの女として、小松を誘うような艶やかさのどちらもを兼ね備えている。

 なかなかこのような女はいないと、小松は思わずにはいられない。

 今のゆきは素晴らしく妖艶で、小松を惹き付けて止まない。

 昨夜のゆきは子供だった。

 だからこそ小松は自重することが出来たのだ。

 だが、今夜のゆきは違う。

 とても艶があり綺麗だ。

 たった1日なのに、なんという成長なのかと、小松は思わずにはいられない。

 ゆきに惹き付けられ、小松はこのまま、自分の本当の意味で妻にしたいと、強く思った。

 それほどに、今日のゆきは素晴らしかった。

 ゆきの潤んだ瞳が、小松を捉える。

 濡れるように輝く唇も、甘くて妖艶な澄んだ眼差しも、総て小松を惹き付ける果実のように光っていた。

 ゆきが欲しい。

 柔らかな身体と唇が欲しい。

 小松は引き寄せられるように、ゆきを抱き締める。

 抱き締めると、とても柔らかくて、小松はつい力を入れることが出来ない。

 ふんわりとした抱擁に、ゆきはホッとしたように、小松に身体を預けてくれる。

 胸がふんわりと熱くなり、もっともっと強く抱き締めたくなる。

 ゆきが、艶やかな眼差しで、小松を見つめてくる。

 その眼差しに見つめられると、捕らえられたような気持ちになった。

 捕らえられても、構わないと思ってしまうほどに、ゆきは魅力的だった。

 唇をゆっくりと近づける。

 欲望に合わせて、余り強くは出来ない。

 唇を重ねる。

 吸い寄せられるほどに甘い。

 小松はもっとむさぼりたくて、キスを深めてゆく。

 もっとゆきが欲しくなる。

 欲しくてたまらなくて、息が出来ない。

 小松は、欲望のまま、ゆきの唇を奪った。

 ゆきを深く奪いたい。

 小松は、夢中になる。

 これほどまでに誰かに夢中になったことは、今までなかった。

 これほどまでに夢中になれる相手が見つけられたことを、小松は幸運に思った。

 唾液が溢れるのを構わずにキスをしたあと、小松はゆきを見つめる。

 女性としての堂々とした色香があった。

 もう、求めることを止められない。

 小松はゆきをそのまま、寝床に横たえる。

 昨日はまだゆきを何とか抱かずにすんだ。

 だが、今夜はゆきを抱かずにはいられない自分がいる。

 小松はゆきを抱き締める。

 そのまま自分のものにするために、唇を首筋に寄せた。

「……あっ……」

 甘い声がゆきから漏れる。

 小松はもう欲望が止められない自分を感じていた。

 ゆきが欲しい。

 今はただそれだけだった。


ウシロ モドル ツギ