*うたかたの琥珀*

10


「小松さん、八葉を探しに、外に出ようと思っています」

「外に出なくても、ここにいれば、八葉なんて舞い込んでくるよ」

 小松はいとも簡単にあっさりと言う。

 確かにそうかもしれない。

 だが、待ってはいられないと、ゆきは思う。

 それほど切迫していた。

 それに待っていても、いつ舞い込んで来るかが分からないのも、不安だった。

「ゆきくん、急がば回れ、だよ。余り肩肘を張らないほうが良いよ」

「小松さん……」

 確かに焦ればろくなことがないのは、ゆきにも分かっている。

「神子は八葉を引き付け、八葉は神子を引き付けると、聞いている。だから、気にしなくても良いよ。君は焦らなくても、八葉を引き付ける。だから、心配しないほうが良い」

 小松は落ち着いて、ゆきに言い聞かせるように言う。

 どうしてだろうか。小松と話しているだけで、気持ちを落ち着かせることが出来る。

 同時に、このひとを信じていれば大丈夫なのだろうという気持ちになった。

「分かりました。だけど、ここでぼんやりとしているわけにはいかいと思っています。神子として、ぼんやりはしていられないと……」

 ゆきは、唇を噛む。

 神子として、少しでもやることがあるのであれば、ゆきはなるべくしたいと思う。

「君は本当に神子だね。君がやるべきことは、京の怨霊を浄化をして、土地の力を具現化させて、自分や八葉の力にするべきことだろうね……。そうすれば、確実に、君は力を得て、八葉を引き寄せられるだろうからね……。かなり昔から、神子はそのようにして力を得ていたと、記録に残っているからね」

「そうですね。怨霊を浄化することから、初めてみます」

「そうしなさい。今日は少しなら、君の手伝いをすることが出来る。瞬、都、龍馬も連れて行こうか。夜まで龍馬はどうせ暇だろうからね」

 小松はキッパリと言い切ると、ゆきを見つめた。

 クールな眼差しに、ゆきは頷く。

「ったく、勝手だなあ、帯刀は!まあ、お嬢のためなら、何とかするか」

 龍馬は面倒くさそうに言いながらも、何処か楽しそうだった。

「……あなたを護る者として、当然、ついてゆきます」

 瞬は感情をあからさまに出さないが、頼もしいとゆきは思った。

「当然、私もついて行くからね!こんなやつらにあんたを守らせるのは、本当に心許ないからね」

「有り難う、都」

 今は頼もしい仲間がいるから大丈夫だ。

「さあ出掛けようか。私は用があるから、途中で帰らなければならかいけれどね」

「なんでお前に仕切られないといけないんだよ……」

 都があからさまな不満を呟いている。ゆきは思わずくすりと笑った。

「さあ行こうか。ぐずぐずすることは出来ないからね」

「はい」

 ゆきたちは準備を整えて、怨霊浄化に向かうことにした。

 

 怨霊を浄化し終わると、ゆきの力を高めるために、力の具現化を行う。

 小松が、古い書物を使って、力の具現化を調べておいてくれたのだ。

 力の具現化は、土地の力を高めるためにも効果的で、より感覚が研ぎ澄まされるように、神子と八葉にしか見えない不思議札が現れ、その絵を合わせていかなければならはい、まさに力を試されるものだった。

 勿論、少しずつレベルが上がってゆくにも、かなり厄介だった。

 時間が許す限り、怨霊の浄化と、力の具現化をすすめた。

 力がみなぎる。

 怨霊や陽炎を浄化するには、かなりの力が必要で、それには命を削るようにして行ってきたのに、浄化封印と力の具現化をすると、不思議と命が削られる感覚はなくなっていた。

 不思議と力がたっぷりと感じて、ゆきはより元気になっていくような感覚があった。

 これを繰り返せば、力はかなり蓄えられる!。

「ゆきくん、君の力も私たちの力もかなり高まっているね……。君の顔色も随分と良くなっているよ」

 小松の言葉にゆきは嬉しくなる。きっとそうだと思う。

 それは自分でも分かる。

 ゆきは思わずにっこりと笑った。

 今までは、怨霊を浄化する度に命を削られ、体力が細っていた。

 だが、今は違う。

 怨霊を浄化しても、余り気にはならない。

 それどころか、力が増している。

 白龍の力も少しずつ高まっているのだろう。

 京の町を浄化する。

 五行が流れ込んでいる土地であるから、ここを高めることによって、白龍の力も高まっているのだろう。

 明日も頑張らなければならない。

 ゆきは強く思った。

「小松さん、有り難うございます。小松さんが調べて下さったから、私はここまで頑張れることが出来たのだと思います。有り難うございます」

 ゆきは、小松に心から感謝を表すために、深々と頭を下げた。

「……今回のことは、小松を認める。ただし、今回のことだけだ」

 都も渋々ながら認めてくれた。

「ゆきくん、私は藩邸に行かなければならないからこれで失礼するよ。龍馬、ちゃんと彼女を守って。頼んだよ」

「おう」

 小松は相変わらず冷静さを崩すことなく、薩摩藩藩邸へと向かう。

 ゆきはその背中を見つめながら、ほんのりと甘酸っぱい気持ちを抱いた。

 

 小松の京邸に、夕方近くに到着した。

 すると、丁寧に、邸の者が迎えに来てくれた。

「神子様、夕食の準備が出来ていますよ」

 元々小松の邸の者たちは、ゆきに対してかなり優しく接してくれていたが、今日は特に優しく接してくれた。

 しかも、「神子様」と呼んでくれている。

 きっと小松が手回しをしたのだろう。

「様付けなんて、とんでもないです。いつも通りに呼んで下さい」

「分かりました」

 ゆきが女中と話していると、奥から邸を預かる者が出てきた。

「神子様、旦那様が薩摩藩邸に皆様でお越しくださいとのことです」

「分かりました」

「帯刀、また面倒臭いこと言ってくるのかなー」

 龍馬はわざと面倒そうに呟く。

「坂本様がそうではないかと……」

 ポツリと男が言う。

「……確かに間違いない」

 瞬が感情なく呟くと、都が苦笑いを浮かべながら頷いた。

「ったく、お前ら」

 龍馬の一言に、瞬は瞬殺するように睨み付けてきた。

「おっと、おっかないな。藩邸なら俺が知っている。行こうぜ」

「はい」

 龍馬に先導され、ゆきたちは薩摩藩邸へと向かった。

「何があるんでしょうか?龍馬さん」

「さあな。だけど、帯刀のことだ、悪いようにはしないだろう」

「そうですね」

 小松がわざわざ呼び寄せてくれるのは、やはり八葉や神子に関することだろう。

 ゆきの気持ちは引き締まった。



マエ モドル ツギ