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小松はそう感じずにはいられない。 ゆきは小松のことを、本当に嫌だと感じているのだろう。 態度でひしひしと感じられた。 だからこそ辛いのだ。 「……あの、小松さん。お話があります」 か細い声でゆきが声をかけてきた。 「あとでも良いでしょ?君は、今、休まなければならないと、私は思うけれど?」 小松は同様を見せないように、わざと突き放したように言った。 「だけど、今、お話をしなければならないと思っていますから……」 「しょうがないね、君は。で、お話というのは、何なのかな?」 小松は、切ない想いをゆきには知られたくはなくて、わざとつっけんどんに言う。するとゆきは、怯えた小動物のような眼差しになった。 こんな眼差しになるなんて、今までなかたたことだ。 だからこそ、小松は胸が痛い。 体調が悪いから、心も弱っているのだろう。 それは小松にも理解出来た。 「あ、あの、明日から、たつみ屋に戻ろうと思っています……」 ゆきの言葉に、小松は悪いように揺さぶられた気分だ。 ゆきが離れる。 そんなことを認められないぐらいに、小松はゆきに恋情を抱いてしまっている。 苦しい。 本当にこれ以上ないぐらいに。 ゆきが、京邸から離れたら、それこそきつい。 厳しい想いが滲む。 「たつみ屋に戻っても、宿のひとが迷惑だよ」 小松はバッサリと言う。 ゆきは唇を噛み締める。 迷惑であることを、自覚しているのだろう。 意地悪をして楽しいだなんて、以前は思っていたけれど、今は、思わない。 それどころか、今は辛いと思う。 小松は胸が痛むのを感じながら、ゆきを見つめることしか出来ない。 「……わかっています、それは……」 ゆきは強く自覚をしているとばかりに俯いた。 「分かっているのなら、ここにいなさい。君は聡い子でしょ?」 「……小松さん……」 ゆきは小さく呟くと、溜め息を吐いた。 「今はここにいなさい。君には悪いようにはしないから」 小松はそれだけを言うと、ゆきの部屋を後にする。 部屋を出ると、都が入り口にいた。 「都くん、神子殿を頼むよ」 「言われなくても分かっている」 都はむすっとしながら呟くと、小松を睨み付けた。 「たつみ屋に行っても、宿に迷惑がかからないように、私たちが面倒を見るから、大丈夫だ。大きなお世話だ。全く」 都は憤慨するように言うと、ゆきの部屋に入ってしまった。 都と瞬に任せておけば大丈夫であることは、小松も充分に分かっている。 だが、どうしてもゆきをそばにおいておきたかった。 それは小松にとって、唯一の心の拠り所だったからだ。 「……なかなか上手くいかないね……」 小松はひとりごちると、また、会合の席に戻っていった。 小松の優しさに触れて、ゆきは泣きたくなるぐらいに嬉しかった。 だが、それ故に、その後の小松の態度が切なかった。 小松はきっと知らないだろう。 小松にとっては何でもない冷たい言葉が、ゆきを酷く傷つけていることを。 ゆきは、このまま布団を頭から被って寝てしまおうと思っていた。 「ゆき、入るよ」 都の声が聞こえて、ゆきは慌てて表情を努めて明るくする。 「どうぞ」 ゆきはなるべく笑顔で、都を迎えようと思った。 それでもやはり、苦しい隠すことが出来ないのは分かっている。 「ゆき、明日はたつみ屋に行こう。こんなところにいて、嫌味を言われるよりもずっと良いからさ!」 都は明らかに小松に対して怒っている。 「そうだね。そのほうが良いね」 ゆきが落ち着いた笑みを浮かべると、都は更に切なそうな表情をした。 「怒って良いんだよ!あんなやつ!ゆき、そんな笑顔だからさ、あいつに横柄な態度に出られるんだよ!」 都は完全に声をあらげている。 そうだ。 都の言う通りに怒れば良い。 だが、小松のことを愛し過ぎて、ゆきは怒ることなんて出来ない。 切ないぐらいに胸が痛くなる。 「ゆき、明日にはここを出るから、朝に荷物を片付けて、後はお世話になったひとに挨拶をしてから出よう」 「うん、そうだね。有り難う都」 ゆきは素直に頷くと、目を閉じた。 ゆきはタイムリミットを感じる。 一旦、自分の世界に戻らなければならないだろう。 そうしなければ、きっと将軍に同行することなんて出来ない。 ゆきは溜め息を吐くと、そのまま眠ろうとした。 その瞬間、ゆきは光に包まれる。 戻らなければならない。 もうタイムリミットが来てしまったのだ。 これ以上はこの世界にいられない。 そう感じた。 気がつくと、制服を着て家の前に戻っていた。 殺伐とした風景。 確かにここはゆきの生まれた世界の、変わり果てた姿だ。 自分達以外にひとはいない。 とても哀しい世界だ。 ゆきは振り返る。 すると、八葉全員と都が唖然として、立っていた。 「……帰ってきたみたいだな」 突然のことだったせいか、ゆきは上手く状況を飲み込むことが出来なかった。 都はホッとしたような、そうでないような複雑な表情をしている。 誰もがこの時空に相応しい服装に変わっている。 ゆきがあちらの世界で対応出来るようにそうなったように、恐らくはそういうことなのだろう。 「……まさか、会合が終った途端に、こんなところに飛ばされるなんて、思ってもみなかったよ」 小松は呆れるように溜め息を吐く。 「俺たちがいなくなって、皆、慌てるかもしれんな……。きちんと段取り通りに、行えるか、心配だ」 高杉もまた、困惑をしたように呟いた。 「まあ、それは大丈夫でしょ?根回しと準備は既に済んでいるからね。大丈夫」 小松は心配はしていないとばかりに言う。 事前に準備をしていると聞き、ゆきは小松らしいと思った。 その辺りは抜かりがないのだろう。 ゆきは自分の家に着いて、本当にホッとする。 今は休みたい。 色々なことが有りすぎて、力を抜きたい。 家を見た瞬間、身体から力が抜ける。 そのまま墜落したくなった。 このまま何処かへと堕ちたくなる気分だった。 そんなゆきの気持ちを汲んだのか、意識が薄れてゆく。 ブラックアウト。 このまま暫くは、現実の世界に戻りたくはなかった。 ゆきは気持ちに任せるままにそのまま、低空飛行からクラッシュする自分を思い描かずには、いられなかった。 身体から力が抜けた瞬間、誰かが支えてくれたことを最後に、ゆきは完全に無になった。 |