3
|
甘い緊張がひどくて、ゆきは息が出来ない。 逆上せてしまいそうになるのに、なかなかお風呂から出ることが出来なかった。 このままでは、ゆでダコになってしまうぐらいに、逆上せている。 気分が悪くなりそうになる。 ギリギリのところで、ゆきは深呼吸をして、なんとかお風呂から出た。 気持ちが悪かったが、何とかそれを回避することが出来て、ホッとした。 ゆきは、のろのろとパジャマに着替えた後、バスルームから出ると、小松がミネラルウォーターを持って、待っていてくれた。 「どうぞ」 「あ、ありがとうございます」 小松が手渡してくれたミネラルウォーターは、正直言って、とても有難いものだった。 美味しい。 「本当に何処まで湯船に浸かっていたの。真っ赤過ぎて、茹ですぎたタコみたいだよ」 小松はくつくつと喉を鳴らして笑った後、ゆきをとても官能的な眼差しで見つめてくる。 あまりにも色気があり、ゆきはドキドキせずにはいられなかった。 こんなにも艶がある眼差しを向けられると、ドキドキし過ぎて、余計にゆでダコになってしまう。 「……どうして、そんなにも湯船に浸かっていたの……?何か、意味でもあるのかな……?」 小松は不意に耳許で囁いてくる。 その声が艶やかでイジワルで、ゆきは心臓が跳ねてしまいそうになる。 「さ、疲れたでしょ?ミネラルウォーターを持ったら、寝室に向かおうか?」 「あ、わ、私はきゃ、客間ですよね!?」 ゆきが真っ赤になってジタバタしているのを、小松は相変わらずイジワルで、余裕のある表情で見つめてくる。 本当にズルい。 「ゆき、うちにはベッドしかないよ。それに、恋人同士が同じ家にいるなら、ベッドはひとつで充分でしょ?」 小松は当たり前だとばかりに、いけしゃあしゃあと言うと、いきなりゆきを抱き上げてきた。 「あっ!」 「さあ、行くよ。ジタバタしても、もうしょうがないでしょ?」 小松はさらりと言うと、ゆきを抱き上げたままで、寝室へと向かった。 小松の寝室。 和テイストが溢れたシックなパプリックがとても似合っている。 ゆきはセミダブルのベッドに、ゆっくりと柔らかく寝かされた。 「もうすぐ、私の誕生日だよ」 小松は時計を見て、フッと微笑む。とても豊かで艶やかな笑みだ。 ゆきはその笑みに魅了されずにはいられない。 「……はい」 ゆきが寝かされた横に、小松が身体を滑り込ませてきた。 ギュッと抱き締められて、ゆきは胸がキュンと鳴っているのかと思ってしまうぐらいに、甘いときめきを感じてしまう。 呼吸が出来ないぐらいに幸せを感じていた。 「……ね、ゆき、私が一番欲しいものを、君は解っている?」 小松に耳許で甘く囁かれて、ゆきは呼吸が出来ないのではないかと思うぐらいに感じてしまう。 背筋が震えてしまう。 だが、それは決して不甲斐な震えではなかった。 むしろ、何かを期待してしまっているような震えだった。 呼吸が出来ない。 小松に潤んだ瞳を向けると、更に強く抱き締められた。 「……ね、ゆき、解っているの? 私の欲しいものを」 「あ、あの、それは、今夜のようにお料理作って一緒に食べたり、すること?」 「君は面白いね……。本当は気付いているんでしょ? 私が何を欲しいかぐらいは……」 小松は艶やかな声で、ゆきを更に追い立ててゆく。 ドキドキし過ぎて、ゆきはどうして良いのかが解らない。 小松が何を求めているのかは、ゆきは本能で解っている。 ゆきもまた、同じように求めているから。 だが、それをなかなか表現することが出来ない。 緊張し過ぎて、どうして良いのかが分からなかった。 ゆきは、潤んだ瞳をただ小松に向ける。 自分からはハードルが高過ぎて、なにも言えない。 イジワルをしないで欲しいと、ゆきは思う。 「……君からは言えない?」 「……はい。帯刀さんにちゃんと言って貰わないと、分かりません……」 ゆきがはにかんで拗ねるように言うと、小松はくすりと笑う。 「……帯刀さんは、誕生日には何が欲しいのですか?」 ゆきは逆に聞き返してみた。 「……私が欲しいものを言ったら、ゆき、君はそれをくれるの?」 小松の甘くて低い囁きに、蕩けてしまいそうになる。 このようなやり取りを続けるのは、きっと小松も自分自身も答が解っているからだ。 「……私で出来ることなら、帯刀さんにプレゼントしますよ」 「そうだね。君じゃないと無理だとは私は思っているけれど?」 小松はからかうように言うと、更にゆきを近くに抱き寄せた。 「……あっ……!」 時計の針が、小松の誕生日になったことを示す。 「日付が変わりましたね」 「そうだね……」 「帯刀さん、生まれてきて下さって、ありがとうございます。私を守って下さって、出逢って下さって、見つけて下さって、ありがとうございます。お誕生日おめでとうございます」 ゆきは小松へのありったけの愛情を込めて、言葉を誠実に紡いだ。 小松の身体をしっかりと抱き締める。息が出来ないぐらいに抱き締めたい。 「……ありがとう、ゆき」 小松はゆきを抱き寄せると、軽く唇を奪ってくる。 羽のような優しいキスをしてくれる。 ロマンティックなキスに酔いしれたくなる。 何度もフェザータッチのキスをした後で、小松はゆきを胸に抱いた。 「誕生日は君に祝って貰えるのが一番だと思っているよ。今まで誕生日なんて大したことがないと思っていたけれど、やはり一番愛しい相手に祝って貰えると、違うのだね」 小松はしみじみと呟くと、ゆきの髪から背中にかけてを、掌で丁寧に撫で付けてくれた。 とても優しいのに、情熱的でもある動きだ。 背中に心地好い熱を感じた。 「……ゆき、私が欲しいものを言って良い?」 優しい小松に声が、ゆきを満たしてくれる。とても幸せな声の響きだ。 「……はい」 小松が欲しいもの。 それはずっと昔から、解っていたような気がする。 ゆきは華やいだ緊張を抱きながら、小松を見つめた。 「……ゆき、君が欲しい……」 小松の言葉には純粋な愛が溢れている。 「……はい」 ゆきは神聖な気持ちで返事をすると同時に、しっかりと愛する小松を抱き締めた。 |