*成人する日*

後編


 ふたりきりの場所。

 ほんのりとドキドキしたが、それは、料亭の座敷だった。

「ここは和式の結婚式もしているからね。記念撮影も出来るんだよ。ふたりで記念撮影をしようか」

「はい。有り難うございます」

 ほんのりと官能的なことを思っていたから、ゆきはホッとしたような、残念なような複雑な気持ちだった。

 ゆきと小松は、先に写真室に通される。

 今日は成人式ということもあり、写真館はかなり賑わっていた。

 小松が予約をしてくれていたお陰で、それほど待つことはなかった。

 和風な佇まいで、写真も美しく撮れる。プロのカメラマンが最高に美しい一枚を演出してくれるのだ。

 写真撮影前には、メイク担当も来て、綺麗にメイクと着物を整えてくれた。

 いよいよ、小松とふたりで撮影をする。

 家族で撮影したものも素晴らしいが、やはり愛するひととの記念写真は別格だと思った。

 一生の思い出になる。

 ゆきは、撮影されながら、喜びで泣きそうになる。

 こんなにも素敵な写真はなかなか撮れないと、ゆきは思った。

 小松とふたりだけで、成人式記念の撮影をする。

 ゆきにはとっておきに素晴らしいものだと、思わずにはいられなかった。

 

 撮影の後は、ふたりきりの座敷で、のんびりと食事を楽しむ。

「お酒はどうする?私は車だから飲まないけれど」

「私も飲まないです。帯刀さんとゆっくりと飲みたいですから」

 初めてのお酒は、小松とふたりきりで、のんびりと飲みたかった。

 それがゆきの願いでもある。

「そう……。だったら、私が飲んでも大丈夫な状態であれば良いということ……、なんだね……。君は……」

 小松は甘く爽やかに微笑むと、ゆきを意味ありげに見つめた。

「まあ、今日は君を帰す気はさらさらないけれど……」

 小松は艶やかな低い声で、意味ありげに呟くと、ゆきを見つめてくる。

 とても華やかな色気に、ゆきのときめきは止まらなくなる。

 このひとはどうしてこんなにも色っぽいのだろうか。

 ゆきは、小松を見つめるだけで、くらくらした。

「君は本当に綺麗だね。誰にも見せたくはないよ……。このまま君を閉じこめておけたら……、なんて、危ないことを考えてしまうぐらいに、私は君に夢中かな……」

 小松は反則だ。

 声と視線だけで、ゆきを陥落させる。

 小松にここまでの艶やかさを見せつけられると、ゆきは堪らなくなる。

 ドキドキし過ぎて、堪らない。

 なのに小松は、楽しそうに艶やかな笑みを浮かべている。

 本当に楽しそうだ。

 余裕のある小松に、ゆきは拗ねたくなった。

 こんなにも艶のある余裕は他にはない。

 ズルい。

 ようやく、社会的にも大人になれたのに、これでは少しも追い付かない。

 相手は一枚も二枚も上手だ。

 小松は人の目がないことを良いことに、ゆきをしっかりと抱き締めてきた。

 誰が来るか分からないところで抱き締められるのは、スリリング過ぎて、肝が冷える。

 小松に抱き締められている間、足音が気になってしょうがなかった。

 仲居が料理を持ってくる途中で、小松は渋々ゆきを離す。

 それで何事もなかったかのように対応するのだから、流石だとゆきは思った。

 食事は、成人式に相応しい、華やかで品のある懐石だ。

 素材も高級なものが使われており、とても美味しい。

 だが、小松を見つめるだけで、鼓動が激しくて、それどころではないような気がした。

「お腹は空いていないの?」

 箸が進まないのを気にしてか、小松が声をかけてきた。

「そんなことは、ないです。美味しいです。とっても……」

 ゆきはドキドキしながら、やんわりと呟いた。

 小松はただクールに微笑むと、そのままゆきを抱き締めてきた。

「ドキドキしているの?」

「シテイマス……」

「そう……。君は本当に可愛いね」

 小松はくすくすと笑うと、ゆきを抱擁から解いた。

 

 食事を楽しむというのではなくて、どちらかと言えば、素早く車を済ませた後、小松と車に乗り込む。

「あのっ、帯刀さん」

「早くうちに帰りたいから、急ぐよ」

 小松がどうしてこんなにも急いでいるかが、ゆきには分からなくて、たじろぐように頷いた。

 

 小松の家に着くと、手を引かれて、リビングへと向かった。

「さっき、ワインの話をしたでしょ?用意するから、君は座っていて」

 小松に言われた通りに、ゆきはソファに腰かけて待つ。すると、小松がワインとグラス、そしてチーズを持ってやってきた。

「ゆっくり君とお祝いをしようと思ってね」

 小松は手早くテーブルに並べる。

 小松はゆきにワインのラベルを見せてくれた。そこには、ゆきが生まれた年が明記されている。

「君が生まれた年に作られたワインだよ。これで、君の成人を祝おう」

 小松はワインを開けて、ワイングラスに注いでくれる。泣きそうになるぐらいに、嬉しい。

「さあ、乾杯しようか。君が成人したお祝いに」

「はい」

 自分と同じ年のワイン。それを飲んでお祝いをして貰えるなんて、とても幸福だ。

 これ以上はないと思うほどに、ゆきは嬉しくてたまらない。

 ゆきが涙ぐみながら喜んでいると、小松はほんのりと困ったように微笑んで、瞳から滲む涙を指先で拭ってくれた。

 ワイングラスを重ねて、ゆきは、改めて成人したのだと思った。

「君もこれで法的に認められた大人だね。これで、私も、ご両親に気兼ねすることなく、君とゆっくりと過ごすことが出来る」

 小松は意味ありげに艶やかな笑みを浮かべる。

「私がアルコールを飲んだということは、車にはもう乗れないということになる。つまり、君はうちで泊まるということに、なるだろうね」

 小松はゆきの手を握りしめる。

 ゆきは、官能的なときめきに、喉がからからになってしまった。

 小松は、ゆきの手の甲をゆるやかに親指で撫で付けてくる。

 ゆきは、背筋に走り抜ける艶やかな旋律に、身体を震わせた。

「今夜は帰さない。君のご両親にもちゃんと許可は貰っている。本当の意味で大人になった君を、じっくりと感じたいからね……」

 小松はフッと甘く微笑むと、着物を姿のゆきを抱き締める。

「大人になった君を、更に愛したい」

 小松は耳元で囁いたあと、ゆきを抱き上げる。

 そのまま、和室に連れて行かれると、ゆきを対等のひとりの女性として、小松が慈しんでくれたのは、言うまでもなかった。




モドル マエ