*静かなる聖夜*


 クリスマスはロマンティックなイベントだと、ずっと思っていたが、今は想像以上にロマンティックだと、思わずにはいられない。

 小松の顔が近づいてくる。

 ゆきは華やかな胸の鼓動を感じながら、小松と唇をしっかりと重ねる。

 うっとりとした瞬間が訪れる。 

 最初は優しく甘い角度でキスをする。

 ドキドキしながら、ゆきはこの幸せに酔いしれる。

 本当に、この幸せが永遠に続くのではないかと思うぐらいに、ロマンティックな幸せを感じる。

 宿り木の下でキスをすると結ばれる。

 そう信じてしまいそうになるぐらいに、ときめきを感じずにはいられなかった。

 ロマンスがたくさん溢れて、ゆきは蕩けてしまうのではないかとすら、思ってしまう。

 触れるだけのキスなのに、小松にすがりつかずにはいられなくなる。

 それぐらいに、身体に力が入らないキスだった。

 小松の唇が離れると、物足りなくて、ゆきはつい、物欲しそうに小松を見つめてしまう。

 はしたないのは解ってはいるが、小松のキスがもっと欲しがった。

「……なんて顔をするの、君は……」

 小松は困ったような表情をしながら、艶やかな声で呟くと、今度は、強く抱き寄せてキスをしてきた。

 先程は甘いキスだったのに、今度はそれに艶やかさが加わる。

 小松の愛情と情熱に溺れてゆく。

 こんなにも誰かを欲するなんて、思ってもみなかった。

 愛している。

 この清らかな夜に愛を感じられる。

 深いキスは、よりふたりの繋がりを感じられて、幸せな気分になった。

 唇が離れると、ゆきは頭までぼんやりしてしまう。

 なにも考えられない。

 とろんとした眼差しを小松に向けると、いきなりしっかりと抱き締められた。

「……これで、私達はずっと幸せでいられるかな?」

「……そうだと嬉しいです」

「さあ、クリスマスイブの食事に行こうか。私はこうしてクリスマスイブというものを過ごすことには、馴れてはいないからね。だから、不手際は許してくれるかな」

「そんなことありません。とっても素敵なクリスマスイブです」

「そう。だったら、私としても嬉しいけれどね」

 小松はゆきの手を握り締めると、そのまま駐車場へと向かった。

 小松の順応性は大したものだと、ゆきは思う。

 この世界にずっといたのだと思うぐらいに、とても自然なのだ。

 これにはゆきも驚いてしまう。

 小松の車に乗り込むと、食事場所へと向かう。

 焼いたクリスマスケーキは、小松に渡そうと思っている。

 長持ちするケーキだから、大丈夫だろう。

 家のクリスマスも良いけれど、出掛けるのもまた素敵だとゆきは思った。

 

 レストランに行くとばかり思っていたのに、小松は所謂、料亭に、連れていってくれた。

「ここで静かに過ごすのも良いものでしょ?」

「そうですね」

 意外な選択に、ゆきは驚く。

 だが、こういうクリスマスも有りなのだ。

「さあ、行くよ。喧騒に翻弄されるのが嫌だからね。それだけだよ」

「はい」

 小松に手を引かれて、ゆきは料亭の中に入っていった。

 敷居が高いような雰囲気で、ゆきは何だか落ち着かない。

 まるで、初めて京の薩摩藩邸に来たときのような、緊張感がある。

「ゆき、どうしたの? カチカチだよ?」

「何だか落ち着かないんですが……」

「落ち着かない……か。どうして?」

 小松に艶のある声で囁かれて、ゆきは更にそわそわしてしまった。

「……何だか、高級そうで、敷居が高いというか……」

「大丈夫でしょ。敷居も高いもなにも、ここには私と君しかいないんだから」

 小松は相変わらずクールでしらっとしている。

「そうですね」

「だから力を抜いて。この時間を楽しもう」

「はい」

 ゆきは深呼吸をすると、笑顔で頷いた。

 二人きりの空間も、クリスマスイブらしくロマンティックだ。

 ゆきは、リラックスして、気持ちを切り替えて食事を楽しむことにした。

 食事は、あっさりとしているのに、とても美味しくて、ゆきの箸が進む。

 こうして、静かな場所でクリスマスイブを、愛する小松と過ごすことが出来るのは、とても幸せなことだ。

 最初は高級な料亭で、しきたり等を考えてしまい、緊張してしまったが、今は、静かなクリスマスイブで良かったと思っている。

 ゆきには最高のクリスマスイブだ。

「帯刀さん、有り難うございます。最高のクリスマスイブですよ」

「それは良かった。気に入って貰って良かったよ」

「はい、二人きりの静かなクリスマスイブなんて、最高にロマンティックですよ。どうも有り難うございます」

 ゆきは嬉しくて込み上げる幸せに、つい笑顔になる。

「そうだ。クリスマスは贈り物をする習慣があると聞いたから、用意してきたよ」

 小松は、そっと小さな箱をゆきに差し出す。

「メリークリスマス、ゆき」

「有り難うございます」

 小松からの箱を丁寧に受けとると、ゆきは嬉しさのあまり鼓動を高まらせる。

「帯刀さん、開けても良いですか?」

「どうぞ」

 小松に言われて、ゆきはそっと包みを開ける。

 するとそこには、ロマンティック過ぎるぐらいの、雪をモチーフにした指輪が入っていた。

「……有り難うございます……」

 嬉しすぎて上手く言えない。

「左手出して」

「……え?」

「こういうのは、左手の薬指に嵌めるものなんでしょ?さ、早く」

「あ、有り難うございます」

 まさか、約束の指に、小松が指輪をしてくれるなんて、ゆきは思ってもみなかった。

 そのせいか、つい、また、泣きそうになってしまう自分がいる。

 左手を差し出すと、小松はまるで儀式をするかのように、ゆきの左手薬指に指輪を嵌めてくれた。

 嬉しくて、ゆきは瞳の奥が熱くなり、そのまま泣きそうになってしまった。

「……有り難うございます。帯刀さん……」

「泣かないの。君は泣き虫だね……」

 小松は苦笑いをしながら、ゆきの涙を人差し指で拭ってくれた。

「私からもクリスマスプレゼントが……、えっ!?」

 ゆきが言っている間に、突然、抱き締められる。

「私が欲しいクリスマスプレゼントは、リボンがかかった君だよ……」

 艶やかな低い声で囁かれて、ゆきは恋心の甘酸っぱさで胸がいっぱいになる。

 覚悟がいることであるのは、解ってはいる。

 だが、覚悟をしても余りある体験だと、思わずにはいられない。

 昔から覚悟なんて、していたのかもしれない。

 ロマンティックで甘い覚悟を。

 ゆきは深呼吸をすると、頷くことしか出来なかった。




マエ モドル ツギ