*ヴァレンタイン協奏曲*


 自分で作ったヴァレンタインチョコレートなのに、蕩けるほどに美味しくて、官能的だ。

 このまま小松と一緒に墜落してもいいほどに、淫らな気分になる。

 こんな気持ちも、小松から教わったのだ。

「……美味しい?」

 小松はフッと意地が悪いぐらいに魅力的な笑みを浮かべながら、ゆきの瞳を真っ直ぐ見つめた。

「美味しい……デス……」

「そう……。それは良かった」

 クスリと笑うと、小松もまた、荷物から小さな箱をふたつ出してきた。

「どうぞ。逆チョコというのを持ってきたよ。本来、男から渡しても良いということになっているみたいだからね。それに逆チョコとやらはかなり流行っていると聞いたからね」

「有り難うございます」

 まさか小松からチョコレートのプレゼントを貰えるなんて、思ってもみなかった。甘い、甘いチョコレートのプレゼントは、とても嬉しいものだ。

 本当は、小松からのプレゼントならば、どのようなプレゼントでも嬉しいのだ。甘いプレゼントは、それだけの価値が充分にあると、ゆきは思う。

「有り難うございます。私、とても嬉しいです」

 ゆきは素直に小松に喜びを伝える。

 つい、涙ぐんでしまう。

 小松は、小松なりに、ゆきが喜ぶように、ちゃんと考えてくれていたのだ。

 それが本当に嬉しい。

「小松さんからチョコレートを貰えて、凄く嬉しいです」

 ゆきが素直な気持ちを伝えると、小松は少し拗ねたような表情を浮かべる。もちろん、わざとであることぐらいは、ゆきも重々に承知をしている。

「あのね、君はバカなの!?」

 小松は鋭い一言を投げて来て、ゆきは驚いて目を丸くさせる。まさか、叱られるとは思ってもみなかった。

 ゆきがただ目を見開いていると、いきなり小松に抱き寄せられる。

「……君は本当にバカだよ。チョコレートとよりも、私が欲しいと言えば良いのに……」

 耳許で艶やかに囁かれてしまい、ゆきの鼓動は激しさを増す。こんなにも鼓動が激しいと、小松にその音が聞こえてしまうのではないかと、思う。

「……チョコレートよりも、私が欲しいと言いなさい……」

 小松の艶やかな声に、ゆきはこのまま小松の腕のなかで、チョコレートのように溶けてしまっても構わない。

 小松が欲しい。

 その気持ちは認めるし、それが真実であることは、ゆきが一番知っている。

 小松が本当に欲しい。

 だが、それを口にしたら、はしたないような気がして、その一言が言えない。

 それにそんな大胆なことを言う勇気も、恋愛スキルもないのだ。

「……あ、あの、それは、その、そうなんですけれど……」

 ゆきが曖昧に答えて、視線を逸らせる。すると小松はしょうがないとばかりに、溜め息を吐いた。

 どこか呆れているようにも見えた。

「はっきりしなさい。それとも、認めたくないのかな?」

 小松はわざとゆきに近づいて、より低い声で不機嫌に言う。

「認めたくないわけじゃ……。あ、あの、認めますが、恥ずかしいというか……」

 ゆきはすっかりしどろもどろになってしまう。

「本当に君はしょうがない子……。君のその唇には、躾が必要のようだね……」

 小松は色香が滲んだ低い声で呟くと、そのままゆきを抱き寄せる。

「おしおき」

 唇を包み込むようにキスをされて、ゆきは心臓が止まるかと思った。

 しっとりと執拗にキスをされると、それだけで感じてしまう。

 唇を離されると、唾液が糸を引いている。

「身体もしつけなければならないね……」

「……帯刀さん」

「元からそのつもりだけれど……」

 小松は甘く微笑むと、ゆきを抱き上げる。そのままベッドに連れていかれ、寝かされた。

「そもそもヴァレンタインって、こういうことをするんでしょ?」

 小松は意味ありげに言うと、そのままゆきをベッドの上で抱き締める。

「……今日の君はとても綺麗だけれど、ベッドの上で乱れる君はもっと綺麗だね……」

 小松はクスリと笑うと、ゆきの唇に自分の唇を重ねてくる。

 小松にキスをされるだけで、ゆきは蕩け落ちてしまいそうになった。

 ベッドに寝かされているから、このまま崩れ落ちずに済んだ。

 小松に身体をまさぐられるだけで、ゆきは身体が熱を帯びてとろとろになる。

 熱くて甘い感覚に、チョコレートよりも甘く溶けてしまう。

「ゆき……」

 唇を離されて、名前を呼ばれる。まるで夢の世界に入ったような気分になる。ふわふわとその世界を歩いている気分だ。

 小松はゆきの身体を意味深にまさぐってきた。

 熱い。

 熱くてしょうがない感覚に、ゆきは息が出来なくなる。

「今夜の君はとても綺麗だね。いや、いつも綺麗だけれど……」

 小松は、ゆきが纏っていたドレスを楽しみながら、ゆっくりと脱がしてゆく。

 ドレスを脱がされるというのは、なんて官能的な行為なのだろうか。

 このまま溶けてもおかしくないぐらいに、身体が情熱的になった。

 小松はゆきを生まれたままの姿にすると、そのまま愛し始めた。

 

 愛し合った後の充足感に、ゆきは幸せに浸る。

 小松はゆきをしっかりと抱き締めながら、身体を労るように撫でてくれた。

「……君はやっぱり最高に可愛いね……」

「帯刀さん……」

「身体と唇には、しっかりと躾をしたつもりだから、君は私により素直になってくれるかな?」

 小松はからかうように甘く囁いてくる。

「いつも素直ですよ」

 帯刀には完全に素直かと言われると、実はそうじゃない。それは恋をするが故のご愛嬌なのであるが。

「さあどうかな?」

 小松は含み笑いをすると、ゆきをギュッと抱き寄せた。

「君が完全に降伏してもらわないとね?」

 再び組み敷かれて、ゆきは甘い緊張に溶けてしまいそうになる。

「ヴァレンタインに相応しい夜だからね。今夜はチョコレートよりも甘くて、溶けそうな経験をさせてあげるよ?」

 小松の言葉に、ゆきは耳まで真っ赤にさせてしまう。こんなにも恥ずかしいことはない。

「さあ、夜は短い。君をたっぷりと感じさせてもらうよ」

 小松はゆきの唇を再び塞ぐと、そのまま深くて甘い幸せな闇へと墜落していった。

 小松とのヴァレンタインデー。

 蕩けてしまうほどに、甘い夜は、ゆきが思っている以上に素晴らしい時間になる。

 チョコレートを贈るのに相応しい日を過ごした。

 きっと次はもっともっと甘い時間になるだろう。

 その時間の重なりが、本当のヴァレンタインなのだと思った。




ウシロ マエ